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「余白」や「隙間」は新たな発想や寛容さを生む源 ニシイケバレイを持続可能な循環型コミュニティに 深野弘之さん〈後編〉

7/27放送は、「ニシイケバレイ」オーナー、深野弘之さんの後編でした。
 
 池袋西口のビル群の谷間に、カフェ、コワーキングスペース、和食レストラン、シェアキッチン、レジデンスなどから成る緑豊かな一帯が広がっています。元禄時代から続く深野家の第17代目当主として土地を受け継いだ深野弘之さんは、この地を「ニシイケバレイ」と名づけ、大家業を営んでいます。

「大家である自分自身がわくわくする気持ちを大切に、〈隙間〉や〈余白〉の大切さに共感してもらえる人たちと一緒にニシイケバレイをつくっていきたい」という深野さん。後編では今後の夢についても伺いました。

ニシイケバレイを彩るひとびと

 ニシイケバレイには住民として約100世帯のご家族がいるほか、カフェや和食レストランを訪れる人々、そこに出入りをする業者さん、コワーキングスペースやシェアキッチンに通う人々もいるので、本当に毎日多くの人が行き交っています。先祖から受け継いだ土地をこのように地域に開かれたコミュニティに生まれ変わらせることについては、私に代替わりするとき、相続権のあった母と妹が共感してくれまして、以来当主として思うようにやらせてもらっています。特に母はこのプロジェクトをとても面白がっていて、ニシイケバレイの存在が長生きにつながっているような気もしています。
 
 最近嬉しいことに、ニシイケバレイ内で顔の見える関係がだんだんと増えてきまして、小さいお子さんが数十メートル離れたところから私をみつけて「大家さーん」と手を振ってくれるのです。こういうことがあると「大家をやっていて良かったな」「大家冥利につきるな」と思います。
 
 私がニシイケバレイの構想を実現できた要因のひとつに、一緒にプロジェクトを行ってくれた仲間の存在があります。新しいことに取り組むとき「誰とやるか」は本当に大事で、もしアイデアを伝えたときにつまらない顔をされると、もうそこでテンションが落ちてしまいます。一方で「それ、いいね」とか「面白そう!」と、いいノリで共感してくれる人たちがいると気持ちも前向きになり、物事が前に進むのです。思いを共感する仲間と楽しく雑談ベースで話していると、意外なところから面白い「駒」が出てくることもあるため、直接顔を合わせる時間も大切にしています。

「余白」や「隙間」を大切にする

 私はニシイケバレイというコミュニティのオーナーとして責任感や義務感はもちろん持っていますが、やはり人間が活動するエネルギーはワクワクすることをやるときに最も発揮されるものだと思っています。ですから、私自身が主体的に楽しく大家としての仕事を続けていくためにも、ワクワクする気持ちを本当に大切にしています。
 
 実は、私がこの土地を相続して当主になる前は、関わる人たちの最大公約数的な活用の仕方を考えており、あまり突飛なことはできないなと思っていました。しかし、当主としての覚悟を決めてニシイケバレイ構想を掲げたときから、自分の個性を発揮してある意味「勝手にやる」という意識になり、ずいぶんと楽しく、楽に取り組めるようになりました。
 
 また、自分自身がワクワク楽しむことの延長として、「余白」や「隙間」の感覚も大切にしています。余白や隙間があることで、この場所だったらこういうことができるかもしれない、という発想が生まれます。余白や隙間を面白がることは寛容さにもつながりますし、そういう意識で心を開いていれば、いろんな人が新たに入ってきてくれると感じています。これから新しい建物も建ちますので、関わっているスタッフやコミュニティのみなさんがやりたいことも、どんどん手がけていこうと思っています。
 
 私自身がやりたいこととしては、都会の中で顔の見える関係をますます広げていくと同時に、もともと有機農業やオーガニックに興味がありましたので、ニシイケバレイからそう遠くない地で生産に関わるような仕事ができたら、と思っています。というのも、わたしたちは今、空気や水、食料、エネルギーなどを当たり前のように享受していますが、そう簡単には手に入らなくなる時代がもしかしたらやって来るかもしれません。そんなときのために、自分たちの手で生み出せる場所があれば安心できますし、そういう生き方の選択肢もあるということがみなさんに伝わるといいなと思っています。

ニシイケバレイを持続可能な循環型コミュニティに

 こうした循環型のコミュニティへの思いとしては、ニシイケバレイの中でもこれからやってみたいことがいくつかあります。例えばカフェChanomaで出た生ゴミを堆肥化して近隣の都市農家さんに使ってもらうというようなことはすぐにでもできそうだなと思っています。また、約100世帯の中にはお子さんがいるご家庭が多いので、不要になった服や本などをニシイケバレイや街単位で譲り合って回していければ、無駄なく、お財布にも優しいですよね。一番大切なのはその循環の過程で人と人との関係性が新たに生まれていくことだと思うので、こういった取り組みもどんどん進めていきたいです。
 
 もう一つ、是非やりたいと思っているのが「遊戯道路」の復活です。ニシイケバレイ内の道路は「私道」なので、オーナーとして基本的には自由に使うことができます。だからといって何をやってもいいというわけではないですが、近隣の方にご理解いただき、車の通行をいったん遮断して、これまでも運動会や夏の縁日、ハロウィンなどをやってきました。今後も、土日のある時間帯だけいったん車を止めて、子どもたちが安心して遊べる環境を作っていきたいと思っています。
 
 こういった癒しの空間をつくりあげるために重要な役割を果たしているのがニシイケバレイの植物ですが、少し前にはさくらんぼ、その後は木苺や桑の実などがたくさん生りました。実のある植物がたくさんあるので、小さいお子さんが毎朝パトロールをして食べながら歩いているんです。桑の実の赤い汁がお洋服についてしまったりして、とても可愛らしいです。今は栗がたくさん生っていて、これが秋になると落ちるんです。今私は私道にクヌギやコナラを植えていますが、それはなぜかというと、どんぐりが落ちる路地裏にしていきたいと思っているからです。子どもはどんぐり1個あればもうそれだけでテンションMAXになりますよね。

 私は、ニシイケバレイをそういった季節ごとの嬉しい発見がある場所にしていきたいので、実が生る樹木や、チョウやミツバチがたくさんやってくるような植物を積極的に植えています。池袋駅からすぐの場所ですが、春夏秋冬、さまざまな表情を感じられますので、是非みなさんにも足を運んでいただきたいです。

◆中村陽一からみた〈ソーシャルデザインのポイント〉
 ニシイケバレイは深野さんがオーナーを務める私有地であるが、ここで行われていることは、都市の中に、ある種の公共空間がつくり出されていることだと言える。ニシイケバレイというネーミングの通り、都会のビルの谷間に多くの人が日々交差するコミュニティが既にできあがっているが、さらに私道を利用した縁日やハロウィンなど季節ごとのイベントを行うことで、週末はより多くの人々を巻き込んだ展開をみせている。今後はその私道を「遊戯道路」として地域の子どもたちに開放する夢もうかがうことができた。
 お話をうかがっていると、資産の管理や運用の方法論としては、ますます経済市場的な発想とかけはなれ、むしろ持続可能な循環型地域社会を目指されており、まさに深野さんご自身がソーシャルデザイナーとして活躍されていることがうかがえる。人間はワクワクするときに最もエネルギーが発揮されるとおっしゃっていたが、深野さんご自身がニシイケバレイで起こる化学反応をワクワク楽しまれており、そのエネルギーが今後もニシイケバレイの活気や癒しにつながっていくことになるのだろう。

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