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0155 行きつけカフェは逃げ場所

近所にパスタのおいしいカフェがある。
路地裏にこじんまりとあるお店で、大混雑するということはない。
時間をずらしていくと、誰もお客さんがおらず、マスターがギターをいじっていたりする。

ランチの時間、ディナーの時間、という区切りがないため、どんな時間に行ってもパスタを頼め、コーヒーもケーキも、ワインもある。

月に一回、必ずお休みを取ると決めていたころ、1人客が多そうな、ランチ時間をちょっと超えたあたりを狙って、昼ご飯かねて出かけていた。
サラダと温めてある五穀パンが出される。
オリーブオイルを垂らした焼き立てのパンは、いくらでも食べられそうなおいしさだ。香ばし香り、小麦の甘み。
パスタは、時間をかけてじっくり作られたパスタソースで、旬の野菜、魚介が使われる。塩味が強くなく、素材の優しい味。量が少なく見えるが、食べ終わる頃には十分満腹なのはなぜだろう。トマトソース系、クリームソース系…日によってさまざまだ。どれも季節を感じることができるから、全部食べたくなってしまう。

仕事で疲れている時は、グラスワインを頼む。
ストレス度合いによっては、デカンタになる。グラスでは足らぬのだ。
疲れていないときは、コーヒーとケーキ。今日だけはダイエットや体重などという言葉、私は聞いたこともないという顔をして、濃厚チーズケーキを食べ、サイフォンで入れたコーヒーを飲む。コーヒーについては全く詳しくなくて、せいぜい酸味のあるのは嫌だ、程度なのだが、ここのコーヒーは苦みがちょうどよく、ほっと一息つけるのだ。

コーヒーやワインを楽しみながら、持ち込んだ本を読む。
この間、マスターは私をそっとしておいてくれる。人によっては無愛想と思うかもしれないが、行きつけの、ゆっくりしたいお店というところのマスターはそういうものだし、そういうことが求められる。
仮にこちらの顔を覚えていらっしゃっても、いつもと同じ、必要最低限の会話で、私は十分だ。
「優しく弱い人は孤独に逃げる」という。私は優しくはないけれども、弱くはあるので、こうして月に1度は完全なる孤独に逃避しないと生きていけない。

年度末から忙しくて休めず、しまいにはメンタルでダウンしてしまったので、お店に行けていない。お金のこともあるし、「頑張ったね、お前は」という気分で孤独に浸らないと、変なスイッチが入ってしまいそうだから。

もう少し落ち着いたなら、また月1の通いを始めたい。
まずはコーヒーとケーキから。
「頑張ったよ、やはり撤退は早いに限るね」と、自分に乾杯することを目標に。


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