着物に革靴を合わせてみる
「和服には必ず草履を履かなきゃいけないの?」
着物に興味のある方の中には、こんな悩みを持ってしまいがち。だって、いつも足を入れているのはスニーカーや革靴、パンプスであって、草履なんて持っていないという方が大半なのですから、当然です。
そんな迷える子羊たる皆さんに、「いいえ、靴を履いてもいいんです」と私はお伝えしたいのです。もっと我を出していいのなら、「特に革靴は、着物の足元に合わせると格好いいです」と。しかし、革靴なら何でも格好良くなるわけではありませんから、注意が必要なのも、また事実。
そこで本日は、着物生活7年目の筆者が考える、着物に合わせるべき革靴の特徴と着こなし方ついて考察していきます。革靴が好きすぎて趣味が「靴磨き」になってしまった筆者が、いかに革靴を合わせる着物姿がかっこいいか、コツとあわせてご紹介いたします。
着物に適した革靴選びができるようになり、着物×革靴のコーディネートを楽しめるよう、分かりやすく解説させていただきます。お手持ちの靴で着物コーデをするコツについてもお伝えしてきますね。
先に結論を申しますと、
どんな革靴もコーディネート次第で着物に合わせることはできるが、向き不向きはある
ソールのぶ厚い革靴、装飾のないオペラシューズやサイドゴアブーツがおすすめ
色は黒が着物になじみやすい
という感じです。これらの持論に至った根拠や、おすすめしたい革靴について詳しく述べていきますので、お時間の許す限り、お付き合いください。
はじめに
わたしは、着物を着て暮らしているミニマリストです。しかし、革靴を6足も所有しています。スーツを着るような仕事をしているわけでもないのに、です。
わたしは洋服を通勤でしか着ませんし、職場ではスニーカーに履き替えます。なのに革靴が6足…。持ちすぎです。人の足の数には上限があるのですから、たくさん靴を持っていても、むしろ持っているせいで、それぞれを履ける回数は少なくなってしまう。無駄を嫌うミニマリストとしては、数足手放すのが妥当なところでしょう。しかし、手放すつもりはございません!絶対に!(だって革靴好きなんですもん)
かたや、着物用の履き物は、草履と下駄がひとつずつあるだけ。少ししか持っていません。着物で暮らしているにも関わらず、いえミニマリストとしては妥当な数といえるでのでしょうか。冬にはブーツも履きますが、ほとんど草履ひとつをずっと使い続けています。そこでふと気づきました。履いていない革靴がたくさんあるのなら、着物を着ている時にも革靴を履けばいいんじゃないかと。
しかし、「着物に革靴を合わせるのは不自然なんじゃ?」という思いが、着物生活6年目の頭をもたげます。だって革靴は本来、スーツなどの西洋の正装で履くもの。一方着物は、現代日本では礼装と位置付けられている、堅苦しい雰囲気のある衣服です。そんな、西洋と東洋のフォーマルを、いわば水と油のようなものを、「使わないのはもったいないから、組み合わせちゃおう」なんて。ぱっと思いつてはみたものの、なかなか頭の痛い問題です。
着物に合う革靴とは
そもそも着物×革靴は難しい?
みなさんは、革靴といえばどんなものを想像しますか?
きっと、こんな感じですよね。いわゆるレースアップの短靴です。そして、何を隠そうこの私は、着物×革靴に苦手意識を持っています。具体的に「○○だから着物に革靴を合わせたくないんだ!」なんて主義主張はありません。なんて言えばいいんでしょう。ただ、ゆったりした着物にきりっとした革靴を合わせると、足元が急にきゅっと縮んだような違和感があるというか・・・。その違和感が、なんとなく苦手なんです。細い足に大きな靴を履いてるミッキーは可愛らしいと思うんですけど、その逆はなんだか・・・みたいな。着物姿の中で、足元だけ浮いてしまうというか・・・。
なかなかうまく表現できません。もう少し、この苦手意識について言語化できないか試みてみましょう。
革靴の違和感
普通の着物姿の場合、着物の裾から足袋に包まれた足がにょきっと出て、その足は草履を履いていても剥き出しです。足首からつま先までラインが断絶することなく、足袋が足にぴたりと張り付いていることもあり、足元はスリムで流れるようなシルエットになります。
では、革靴を履いた場合、足元はどんなシルエットになるのでしょうか。
写真を上から下にかけて見ていきましょう。
まず着物の裾があって、そこから足首がちらっと出て、すぐに靴になります。裾、足首、靴の3つのエリアごとにシルエットが分断されているということが分かりますね。『着物に靴を合わせている』というイメージ自体も分断を強調してしまい、結果として足元に視線が止まるようなポイントが生まれています。
本来であれば(草履を履いていれば)流れるような細身のシルエットであるはずの足元に、流れを止めるように革靴が鎮座している。これが違和感となり、着物×革靴を難しくしているのだと仮定できます。靴の形だけではなく、革の艶や色、靴紐やステッチなどの意匠が、いっそうシルエットの違和感を強調する要素になる可能性も、コーディネートする上で考慮すべきでしょう。普通の着物姿と異なるシルエットの違和感とどう向き合っていくかが、着物×革靴のポイントになりそうです。
違和感を馴染ませる
足元のシルエットがいつもと違うのが気になってしまう。でも、そんなの草履以外の代物を履くなら避けようがないですよね。そんな私たちは、シルエットの違和感といったいどう向き合えばいいのでしょうか。
きっと、違和感を隠すか、活かすか。この2択になるのではないでしょうか。違和感を活かすという手段は、非常に楽しそうでファッションの醍醐味を感じますが、それではただ私個人の趣味全開の自己満足な駄文に終わってしまいそうです。着物選びや小物合わせ、TPOなども関わってくる曖昧な提案に終わってしまうことにもなりそうですので、今回こちらの道は見なかったことにしましょう。
では我々に残された選択肢である、革靴のシルエットの違和感を隠す方法について、模索していきましょう。
シルエットの違和感を隠す。着物の身丈を床に擦れるほど長くして物理的に革靴を隠すことができますが、それは私含め皆さんの求める答えではないでしょう。同じように、「他に違和感のあるポイントを作って革靴の違和感を相殺しよう」と奇抜なアイテムやメイクを取り入れるのも、なんか違う感じがします。そんな思考と煩悶と試行錯誤の海の中を泳ぎ続け、ついに私はたどり着きました。違和感は隠すのではなく、馴染ませ目立たなくする。これが、一番合理的かつ再現性の高い解決策なのではないでしょうか。
では、革靴のシルエットの違和感を目立たなくさせるためには、どうすればいいのでしょう。まず我々が考えるべきことは、草履を履いた場合と革靴を履いた場合で、足元のシルエットにどのような違いがあるのかを明確にすることです。彼を知り己を知れば百戦殆からず、ということですね。
シルエットについて考えてみる
では、まずは写真で確認しながら、足袋×草履のシルエットの特徴を探してみましょう。
みなさん、何かお気づきになりましたでしょうか。
「ずばり、上は細く下はごついということでしょう~!」
ふざけるのはやめて、きちんと説明させていただきます。
写真を眺めてみると、足自体はスリムで切れ目のないシルエットになっています。一方、足の下敷きになっている草履の台(足をのせる部分)は大きく張り出しています。このことから、上は細く下は大きなシルエットが、着物の足元、つまり足袋×草履の特徴のひとつと言えそうです。
着物はゆったりとした布で身体を包む衣服ですから、土台となる足元もボリュームがある方がバランスがいいのでしょう。ただ、全てがボリューム満点というわけではなく、むき出しとなっている足袋のスリムな部分があることで、着姿全体に引き締まった印象を与えているのも特徴的です。
つまり、これらの特徴を網羅したシルエットの革靴であれば、着物と合わせても足元に違和感を感じにくくなるのではないか、というのが私の考察です。具体的には、足に吸い付くような細身なアッパー、厚底のソール、張り出したコバ。これらの要素を兼ね備えた革靴こそ、足袋×草履のシルエットの特徴を備えた一足と言えるでしょう。
※アッパーとは足を包んでいる革の部分(靴の顔のような部分ですね)。ソールは地面に触れる下の部分。コバはアッパーとソールの繋ぎ目から出っ張った部分のこと。
おすすめの革靴 ブランド編
着物に合う革靴のシルエットについての考察は済みましたので、ここからはファッション狂いで革靴オタクという一面もある私の独断と偏見も交え、着物に合うシルエットの革靴を具体的に紹介していきます。
Tricker's/トリッカーズ
アッパーのスリムさ:★★★☆☆
ソールの厚さ :★★★★☆
コバの張り出し :★★★★☆
格好良さ :★★★★★
着物に合う革靴の条件に合い、なおかつ革靴好きの私が皆さんにおすすめできる革靴としてすぐに頭に浮かんだのが、英国王室御用達のトリッカーズ。貴族が狩猟用に使っていた歴史があることから、雨や悪路にも対応できるタフな要素と、品のある美しいラインを兼ね備えています。装飾的なメダリオンも美しく、厚いソールとせり出したコバのシルエットが唯一無二です。色は黒だけなじゃく焦げ茶色もおすすめですし、一番人気で有名なライトブラウンも一見の価値あり。
Paraboot/パラブーツ
アッパーのスリムさ:★★☆☆☆
ソールの厚さ :★★★★☆
コバの張り出し :★★★★★
経年変化の美しさ :★★★★★
そしてフランスのブランドのパラブーツ。登山が盛んな地域で生まれた、もとは登山用の靴を作っていたブランドで、厚いソールと、オイルを染み込ませた唯一無二のレザーを使った『雨に強い靴』としても有名です。都会的なダブルモンクストラップシューズは特に形が綺麗ですが、外羽根プレーントゥやローファーなど、他の型も格好いいのでお好みの形を探してみてください。
この靴はやはり、オイルを染み込ませたリスレザーが魅力的です。履くほどに馴染み革の表情が美しくなるのは革靴全般に言えますが、この革の経年変化は普通の革と一味違います。(買った時は革の表面に白いカビのようなものが浮いていて気持ち悪いかもしれませんが、ご安心ください。それはリスレザーの証である『ブルーム』という油分や蝋分が浮き出たもので、履くと体温で温められ溶けて見えなくなります)
Dr Martens /ドクターマーチン
アッパーのスリムさ:★★★☆☆
ソールの厚さ :★★★★☆
コバの張り出し :★★★★☆
実用性 :★★★★★
お次は、知らぬ者のいないファッション界の大物、ドクターマーチン。先に紹介したトリッカーズ、パラブーツと比較して圧倒的に安い!その分、シルエットの細さ・美しさなどは劣りますが、厚いソールと張り出したコバは同等かそれ以上。おなじみの黄色いステッチのものではなく、黒いステッチのシンプルなものが、格好良くておすすめです。
ドクターマーチンの魅力は安さだけではありません。軽い歩き心地のエアクッションソールと、水や傷に強いコーティングされた革ゆえの使い勝手の良さこそ、ドクターマーチンが世界中で愛用されるべくして愛されている理由なのです。
おすすめの革靴 種類編
ここまで、考察に当てはまるシルエットの革靴をご紹介してきました。そしてここからは、着物生活6年目の筆者の経験に基づいたおすすめの革靴の種類をご紹介していきます。非論理的で主観ましましのおすすめになっておりますので、一歩引いた冷めた目でご覧いただけますと、ちょうどいいかと。
オペラシューズ
アッパーのスリムさ:★★★★★
ソールの厚さ :★☆☆☆☆
コバの張り出し :★☆☆☆☆
シンプルさ :★★★★★
着物×革靴で生じる違和感は、シルエットの違いによるものだと先ほど説明いたしました。そして、革靴のデザイン(色、艶、靴紐、ステッチなど)が違和感を助長するとも申し上げました。そうなれば当然、デザインを極限までそぎ落としたオペラシューズを紹介しないわけにはいきません。
もともと舞台観劇用の紳士用礼装として使われていたもので、非常にすっきりしたデザインです。きっちりして見える一方、リラックスしたカジュアル用としても使えるバランス感が、どんな着物にも合わせやすい万能な一足と言えるでしょう。
おすすめしたいオペラシューズの具体的なブランドもあるのですが、スリッポンタイプの革靴はサイズ選びが難しく、革靴に慣れていない方には推奨しません。ただ、GUが本革で打ち出しているものなら安いうえに形も綺麗ですので、初めての方が試すのにちょうどいいかもしれません。※2024年1月2日現在、GUオンラインショップでオペラシューズの販売はしていませんでした・・・。
サイドゴアブーツ
アッパーのスリムさ:★★★☆☆
ソールの厚さ :★★★★☆
コバの張り出し :★★★★☆
着こなしの格好良さ:★★★★★
裾から伸びる切れ目のない足のシルエットという点で、靴紐や金具などが一切ついていないサイドゴアブーツが最も着物×革靴に適しているというのが、私の持論。しかし、これはもはや合わせやす過ぎる殿堂入りの王者ということで、あえてここまで触れてきませんでした。
そんな絶対王者のサイドゴアブーツの中でも、分厚く丸っこいシルエットのものを選ぶのがおすすめです。細身のスタイリッシュなデザインのものでは、キマリ過ぎて逆に浮いてしまう恐れがあります。ワークやミリタリー要素のあるカジュアルなシルエットの方が、着物の存在感に負けず、馴染み、いい塩梅になる、と着物生活6年の経験から感じています。個人的には、先ほども登場したドクターマーチンのブーツ、それもステッチが黒いやつがおすすめです。
おすすめの色
ここまで、着物×革靴の違和感を目立たなくさせるためにはシルエットが重要であると書いてきました。しかし、「さきほど挙げた革靴じゃないと着物と合わせてはいけない」なんて思わないでください。そんなことはありません。ファッションとは空より高く、海より広く、大谷翔平選手くらい奥深いもの。どんなコーディネートも、本当はオッケーなのです。
しかし、このまま革靴のシルエットにだけ注力してしまうと、着物×革靴コーデがうまくいかない可能性があるというのも、また事実。気にしなくちゃいけないことが、まだあるのです。
さて。着物に合う革靴のシルエットが分かったところで、次は着物に合う革靴の色について、考えていきましょう。
王道の黒
革靴を選ぶだけなら、個人的にダークブラウンが好きです。だって革の経年変化の美しさを一番感じられるから!しかし本日のテーマである着物×革靴のコーディネイトとしては、黒が一番おすすめです。理由はこんな感じ。
無彩色なので色合わせに悩まない
水染みや擦れなどの汚れが目立たない
着物と黒革靴の雰囲気が合う
特に3つ目は着物×革靴特有でしょう。着ているだけでフォーマル感が出る着物には、最もフォーマルな色である黒は、まず間違いなく馴染みます。
もちろん、お持ちの着物によっては茶革の方がコーディネートしやすいこともありますし、一見すると難易度が高いライトブラウンの革靴も、白や生成り色などの明るめな着物との相性はばっちりです。ようはコーディネート次第になりますが、着物で悪目立ちしない方法でおすすめしたダークネイビーの着物であろうと、茶色や生成り色の着物であろうと、もうどんな色の着物であろうとも、何も考えずにとりあえず合わせても格好良くなるという点で、黒革靴が一番使いやすいことは間違いないでしょう。
艶っぽ過ぎず、土臭過ぎず
具体的に革靴を探す際のポイントとして、色だけでなはく革質を意識することも重要です。
エナメル靴のように艶のあるガラスレザーは、フォーマル感が全面に押し出されており主張が強いです。同等のフォーマル度の正絹着物と合わせてめかしこむか、あえてざっくりした粗野な生地の着物と合わせて『あえて』コントラストをつけるような、振れ幅を考えて工夫しないといけない、ピーキーな革質といえます。
ここで私は、「着物に合わせる革靴は、艶がないほうがいい」と言いたいわけではありません。お手持ちの着物の生地感や目指しているコーディネート、ご自身のライフスタイルに合うものを主観でお選びになればOKです。
「そうは言っても何かしらの法則や基準を示してほしい」という方のために、わたしの個人的な好みをお伝えしましょう。革靴と着物の生地感を『少しずらす』のが、適当にコーディネートしてもしっくりする秘訣です。
考えなしに「ツヤツヤの大島紬にエナメル靴」、「節のあるマットな木綿にシボ革やスウェード靴」、なんて合わせ方をすると、決め過ぎたりラギット過ぎたりと過剰になってしまう危険性があります(素材感を合わせて雰囲気を尖らせるコーディネートは私も大好きですが・・・)。着物と革靴で少し表情の異なる組み合わせにした方が、コーディネートがこなれて見えるのです。着物でよく言われている、「染めの着物に織りの帯、織りの着物に染めの帯」と同じような感覚ということですね。
もちろん、着物の生地感・色・丈感や、革靴のシルエット・色・艶、そして気分によって組み合わせの良し悪しは変化していきますが、初めて着物に合わせる革靴ならば、適度な艶のある中庸な革質のものを選ぶのがいいのではないでしょうか。
すでに持っている革靴を活かす
着物に合う革靴は分かってきました。しかし、まだ問題が残っています。それは、今持っている革靴をどうやって着物に合わせればいいのかということです。
わざわざこんな風に文章を書いているきっかけは、「お気に入りだけど登板回数の少ない革靴」を着物に合わせて活かしてあげたいと思ったからです。「細身なホールカット」や「冠婚葬祭に使えるストレートチップ」など、コーディネートがフォーマルに偏ってかしこまりすぎる、難しくも美しいお気に入りの靴たちをどうやって活かすか。ここを解き明かすことが出来れば、自分自身の悩みだけでなく、同じような悩みを持った方々の手助けができるではないか。そう考えますれば、今現在わたしが所有している革靴でもできる着物×革靴のコーディネートについて、完全なる自己満足と独断、偏見、性癖を盛り込んで、ためになるのかどうかは一旦度外視して考えていこうと思います。
ファッション全開のモード感
まずは、黒のワントーンコーデ。
色味の統一感で生まれた格好いい雰囲気(と筆者は供述している)が、革靴の違和感に勝っています。ここまでやっちゃってると、革靴の違和感を『あえて』アクセントに使っているようなものです。着物に革靴を合わせていても問題ない空気が漂っていますね。
次は和洋ミックス。
違和感をあえて全面に押し出し誤魔化す力技。ただ和洋折衷するのではなく、フォーマルに全振りしたミックスは、革靴を履いていることに文句を言わせない雰囲気ばりばりです。というか、スーツなんだから革靴を履くのが自然なのに、ここまで違和感が出るのもすごい・・・。
これらのコーデは大変楽しいのですが、みなさんの参考になるかは微妙ですね…。次にいきましょう。
同系色の小物を散らした統一感
ここまでふざけたコーデを紹介してきましたので、もう少し真面目に、より現実的な提案をさせていただきます。
革靴と同じ要素のアイテムを組み合わせて着物×革靴の違和感を薄くする、というのはどうでしょうか。
まずは黒のストレートチップで考えていきましょう。冠婚葬祭やビジネスで間違いないとされるTheフォーマルな靴は、革靴に合わせると違和感ぷんぷんですね。
これを着物と合わせてみましょう。
革靴が目立たないように小物を散らしております。首元からのぞくハイネックセーター、革靴と色を合わせた手袋とカバン。これだけ洋服に使うアイテムが入り乱れていれば、革靴だけ目立つなんてことはありません。全体的に統一感が出せている気がします。
お次は茶色のホールカット。内側のくびれた流線形とつま先のメダリオンが美しいのですが、こちらもフォーマル感があり、組み合わせに悩む一足。
こちらも工夫してコーディネイトしてみました。
革靴に合わせた茶色のカバンと茶色の持ち手の傘があることで、茶色の革靴と小物が調和し、コーディネートがまとまって見えはしませんか。着物コーデ自体も無地かつ3色以内にまとめていることで、小物たちとの親和性も高くなっています。
色は3つまで、柄ではなく無地を選ぶ、小物は色を統一する。
これはどれも、洋服のファッションでよく提唱されているもので、新鮮味はないかもしれません。「もっと斬新で手っ取り早い提案をしてほしかった」と思う方もいるかもしれませんね。しかし、逆に考えてみてください。ずっと言われ続けているような基本的なことをするだけで、誰でも手持ちの革靴を使いこなすことが出来るようになるんです。ちょっとわくわくしてきませんか?
結論
着物に合わせるべき革靴とは、足に沿った細身のアッパーかつ分厚いソール、せり出したコバを兼ね備えた、艶の強すぎない黒い本革のもの。デザインはオペラシューズやサイドゴアブーツなどのシンプルなものが適しているが、外羽根やダブルモンク、ウィングチップなどどんな型も、前述した要素を満たしていれば着物に合わせやすい。
というのが、私が悶々としながらたどり着いたひとつの結論です。そもそも、革靴自体はどれも素敵で格好いいのです。私なんかの意見は聞き流して、ご自身が「最高に格好いい!」と感じたものをお気に入りの着物と合わせてあげればいいと、私は感じております。磨いていない汚れた革靴、先が異常に尖った革靴、つま先が反り返ったブーツなど、身だしなみに興味のない人が履いているような靴を、なにも考えず工夫もせずに着物に合わせるから、ダサくみっともなくなるのです。
おまけ:革靴の手入れ
最後に、これから革靴を買おうと計画している方に大切なお知らせをひとつだけ。
革靴はスニーカーと違います!
これだけはご承知おきください。
…なんのこっちゃですよね。
詳しく申し上げますと、革靴は履いた後のお手入れが大切なのです。スニーカーなら、雨の日に履いたまま放置しても問題ありませんが、革靴は手入れしないと見た目が悪くなっていきますし、乾燥してひび割れたりカビが生えたり、寿命が短くなってしまいます。なんせ革ですから…。わたしより革靴愛が強く深いyoutuberさんがお手入れについて解説してらっしゃいますので、詳しいお手入れ方法についてはこちらをご覧ください。
ここで革靴のお手入れ方法について簡単にお伝えしておきますと、
帰宅したらシューキーパーを革靴に入れる(履き皺を伸ばす、除湿目的)
馬毛ブラシでブラッシング(ほこりを落とす)
気が向いたら保湿クリームを塗って豚毛ブラシでブラッシング(保湿)
こんな感じです。もっと革靴に優しく、美しい経年変化が生まれる方法は多岐にわたり、工程ひとつひとつがより奥深いのですが、最初はこんな感じで大丈夫です。シューキーパーがなければ新聞紙をまるめて詰めてもいいですし、馬毛ブラシも使い古したタオルで代用できます。保湿も最初から揃えなくてもいいです(私は気に入った革靴を購入したなら必ず保湿はしたい派です。革が乾燥してひび割れたら嫌なので)。
結び
ほんとうは、もっと革靴の魅力を滔々と語る記事にしたかったのですが、なんだかハウツー記事みたいになってしまいました。
草履は冬場は寒いし雨だと濡れる。一方、靴ならそんなことは起きませんし、そもそも歩きやすい。使い勝手がいいのですから、道具として当たり前に履けばいいのですよね。コーディネートとか違和感とか、自分で勝手に作り出した敵と頭の中で戦っていただけな気がしてきました。ここまでお付き合いくださり、成人男性の滑稽な姿を見守ってくれた皆様に謝辞を。
そして、みなさんの暮らしがよりいっそう素敵なものになりますように。
おわり
もしサポートしたいと感じていただけたなら、これ以上に嬉しいことはございません。いただいたご支援は、より良い文章を執筆できる環境作り、および学びに充てさせていただきます。