クスリとヒトの関係性
高齢者が入居している施設で、医師の回診に同行している。
二週間に一度、入居者の病気の治療・健康状態の維持のため、医師がクリニックから施設に出向いて入居者をまとめて診察し、処方箋を出すのだ。
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高齢者ともなると、ある意味病気のデパートである方が多い。
そして、筋力も衰える上あまり動かないために、必ずと言っていいほど便秘になる。
先日も、便がなかなか出ないので、大腸を刺激する下剤を曜日を決めて服薬している高齢者の方の診察があった。
介護スタッフさんは、その下剤を入居者の方が飲むと酷く便が緩くなり、下着やオムツから漏れて汚れてしまう一方で、飲まない日には全く出ない、と困り果てていた。
昔は下剤といったらあまりバリエーションもなく、便の出し方もそんなにコントロールできなかった。
ここ数年で新しい作用機序の薬が登場し、出し方や使い心地も選べるようになってきている。
話を戻すが、便の出方に困っていた介護スタッフの方に、医師はいくつかの種類の薬の提案をした。それにより、出方が変わります、と。
しかし、最後にはこう言ったのだ。
介護スタッフの方がどうされたいか?です。
介護のしやすさで決めてください。
ガツンと響く言葉だった。
服用する入居者の方に、薬の使い心地を選んでもらって処方するのではない。
あくまで、介護する側が介護しやすいように、入居者の人にどの薬にしたらやりやすいのか、選ぶのだ。
勿論、ここに入居されている方は、介護を受けなければ生活が難しい方ばかり。
必ずしも自分の意思で服薬する薬を決められる方ばかりではない。
わかっていたはずだったし、何度も入居者の方の薬を調剤していて状況も把握していたはずだった。
でも、改めてそういう言葉をはっきりと言われると心が揺らいだ。
綺麗事ばかりでは介護はできない。
スタッフの人数も限られるし、入居者の方も集団生活で、ある程度は介護する側の都合に合わせてもらわないと、みんなに十分な介護はできない。
...けど。
薬はそういうものだったのか。
人の生活をコントロールするためのものだったのか。
本来は、辛い症状や抱えている病気を軽減したり改善するために服薬するのではなかったか。
我々のような世代、あるいはそれより若い世代では絶対にしない、薬の使い方。
これからもっと高齢者は増える一方であり、そして介護される方も増えるであろうことは容易に想像がつく。
高齢者にターゲットを絞った医療の考え方、
薬の選び方や不要な薬の減らし方(高齢者ともなると、お腹がパンパンになるくらい何10種類も一回で飲まねばならない人だって結構いる)、
そのような研究や提言は増えてきているが、
高齢者がどう自分の病気を捉えて治療を選ぶか、
高齢者がその人らしく生きて人生を終えるには、医療や介護はどう関与していったらいいのか、
そういった高齢者主体の考え方は前述したテーマに比べたらまだまだであると感じる。
認知症があったり、精神的な疾患があったりする場合などは、勿論一筋縄にはいかないと思われるが、
薬が人をコントロールするような場面をどうにか減らせないかと心を痛めている。
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