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親になるってこういうことか

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これは全盲の夫婦が挑む初めての子育て記録です。 夫婦それぞれの視点で3人の日々を描きます。 今回のシリーズはわが子に出会えるまでの約9ヶ月間。 まだ見ぬわが子に思いを馳せて・・・
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#全盲

8 我が子に対して我々が最初にできること / はるか

 子供を迎える準備として、遺伝外来に行った。夫の網膜芽細胞腫という病気は、49パーセント子供に遺伝する。
多くの人にとっては重々しい内容になってしまうかもしれない。しかし私たちにとっては以前からわかっていた事実であり、客観的にとらえていた。
 私の体調が少し安定した7月初旬、夫と築地にあるがんセンターに行った。夫が以前ここの眼科にかかっていたことや、この病気の治療実績が多いことからここにある遺伝外

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7 我が子に対して我々が最初にできること / ぐっち

 7月7日。その日我々は新幹線で東京に向かっていた。久しぶりの遠出ということもあって、妻はいつにも増して機嫌が良い。新幹線に乗る前に買った高級なサンドイッチを食べて満足したというのも大いにあるだろう。
「昼ご飯に2,000円のサンドイッチは高くない」
新大阪の駅ナカにあるカツサンドの店の前で、僕は妻に言った。
「いいんだよ久しぶりの旅行なんだから」
家庭の財政を考えてハーフサイズにした僕を尻目に妻

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4 試練の始まり / ぐっち

 妻が妊娠した、といっても僕にはその実感が全く持てずにいた。それはそのはずだ。今ここに赤ちゃんが来たわけではないし、生活事態昨日とは何も変わらないからだ。
一方で、図らずも妻は否応なく実感させられることになってしまった。
 その時は突然訪れた。天ぷらをお腹いっぱい食べて喜んでいたのもほんのつかの間、次の日にはもう何も受け付けなくなっていた。決して天ぷらを食べすぎたからではない。
つわりというのはこ

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3 試練の始まり / はるか

 妊娠6週目のある朝、急につわりは始まった。少しだるく気持ち悪い程度のそれに、私は妊娠の貴い洗礼を受けたような気すらしていた。今思えば本当に甘い、いや甘すぎる妊娠期だった。
結局妊娠7ヶ月いっぱいまで続くことになったつわりは、私の26年の人生を持ってしても筆舌に尽くしがたい過酷な経験となってしまったのだから。仕事は愚か、家事も身の回りのことすらままならない5ヶ月間となってしまったのだ。
その間文句

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2 気づいたらこっそりそこにいた / ぐっち

 「早く怪獣が来るといいな」
結婚してから何度となく妻と言っていたことだ。怪獣とは我々のいわゆるスラングのようなもので、要するに赤ちゃんのことだ。
すぐ大声で泣きわめくし、何でもかんでも食べてしまうし、何より日本語が通じない。言葉がコミュニケーションのほぼすべてである我々にとっては怪獣以外の何物でもない。
そんな謎だらけの怪獣がとうとう我が家にもやってくることになった。これはそんな怪獣と我々夫婦の

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1 気づいたらこっそりそこにいた / はるか

~数ミリにも満たない細胞の誕生!その存在は26年間かけて築いてきた価値観をいとも簡単にぐにゃりと変えた~

 26歳になる年の1月、妊娠が判明した。きっかけは2週間近く遅れた生理と体のだるさという極めて一般的な症状の出現だ。
そこですぐに妊娠検査薬を試そうと思ったが、私にはできないことに気付いた。私も夫も全盲だ。
薬局で検査薬を購入し、使用できたとしても、結果を見て判断できない。かといって検査薬の

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