1 気づいたらこっそりそこにいた / はるか

~数ミリにも満たない細胞の誕生!その存在は26年間かけて築いてきた価値観をいとも簡単にぐにゃりと変えた~

 26歳になる年の1月、妊娠が判明した。きっかけは2週間近く遅れた生理と体のだるさという極めて一般的な症状の出現だ。
そこですぐに妊娠検査薬を試そうと思ったが、私にはできないことに気付いた。私も夫も全盲だ。
薬局で検査薬を購入し、使用できたとしても、結果を見て判断できない。かといって検査薬のような極めて個人的かつ重々しいものを、友人や身内に見せるという度胸もタイミングもなかった。
迷った挙句、直接産婦人科へ行ってみることにした。
 夫とウェブページに、アクセス・受診方法などの情報が細かく載っている一つのレディースクリニックを見つけ、当日朝予約してバスで向かった。
緊張しながら受付に向かうと、突然来た全盲の私に戸惑いながらも、スタッフの方は問診票の代筆をしてくれた。そこから尿検査のために紙コップをもらいトイレに入った。割と大きな紙コップで、私はどの程度の量が必要かわからなかった。そこで
「あの、どのぐらいいりますか?」
と、意を決してコップを掲げながら聞いてみた。スタッフは
「あ、ほんの少しで大丈夫ですよ。」
と少し笑いながら言い、私は非常に恥ずかしかった。
その後待合室で待つこと数十分。私の名前が呼ばれた。一緒に来ていた夫は、診察の間近くの喫茶店にコーヒーを飲みに行っていた。
診察室では優しそうな女の先生が迎え入れてくれた。そして妊娠していた場合に生む意思があるかどうかを尋ねられた。私は
「生むつもりです。」
と、緊張しながら答えた。
隣の部屋の内診台に移動し、速やかに尿検査とエコーが行われた。
「これから尿検査しますね。」
と言われると私の緊張はマックスに!
(え?それって何分かかるの?この内診台に上がった状態で?うそー!)
と頭にいろんな質問が浮かんでは消えていった。しかし数秒後には
「あ、プラスですね。」
あっさり言われた。どうも検査薬ですぐに結果は出るらしかった。
私には唐突に言われたプラスの意味がわからず
「プラスってなんですか?」
と聞いてしまった。すると
「陽性ということです。妊娠ですね。」
と言われた。
私は今後の心配など考えるよりも先に、何の理由もなくただ嬉しいと思った。これが本能なのだろうか。
その後のエコーでモニターを見ながら先生は
「胎嚢が見えます。赤ちゃんの入っている袋ですね。妊娠5週と5日ぐらいのサイズです。」
と教えてくれた。
その後夫にも来てもらい、先生から妊娠の流れや今後準備していくことについて一通り説明を受け、2週間後の受診予約を入れその日は終了した。この日はまだ実感もなく、ただ形のない嬉しさに浸っていた。あくまでこの日までは。
(続く)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?