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親になるってこういうことか

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これは全盲の夫婦が挑む初めての子育て記録です。 夫婦それぞれの視点で3人の日々を描きます。 今回のシリーズはわが子に出会えるまでの約9ヶ月間。 まだ見ぬわが子に思いを馳せて・・・
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2022年9月の記事一覧

7 我が子に対して我々が最初にできること / ぐっち

 7月7日。その日我々は新幹線で東京に向かっていた。久しぶりの遠出ということもあって、妻はいつにも増して機嫌が良い。新幹線に乗る前に買った高級なサンドイッチを食べて満足したというのも大いにあるだろう。
「昼ご飯に2,000円のサンドイッチは高くない」
新大阪の駅ナカにあるカツサンドの店の前で、僕は妻に言った。
「いいんだよ久しぶりの旅行なんだから」
家庭の財政を考えてハーフサイズにした僕を尻目に妻

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【コラム】 三つのおきて

 4月に入った頃から妻の状態も少しずつ安定し、一緒に外出ができるようになっていった。調子のいい日には電車やバスに乗ってカフェにも出かけられるようになった。
ただ、妊娠期間中の妻との外出には決して破ってはならない『おきて』があった。今回はそれを紹介したい。

その1 妻を空腹にしてはいけない
つわりで辛いのは食べ過ぎともう一つ空腹だ。空腹状態になると胃に食べ物が入っていないのに吐き気が襲ってくる。胃

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6 あきらめた先に見えたこと / ぐっち

 妻を近くの大きな病院に送り届けた帰り道、何とも言えない抜け殻のような気持ちでふらふらと歩いて帰った。たった10分前までは入院なんて想像もしていなかった。今日も栄養剤の点滴をしてもらって帰るものだとばかりに考えていた。
看護師さんが入院しましょうかと言ってからの流れはもうあっという間だった。あれよあれよという間に看護師さんは妻を連れて病棟へ消えてしまった。
「コロナで今は面会はできませんので」

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5 あきらめた先に見えたこと / はるか

 13週中盤からはとうとう病院に入院となった。妊娠初期よりも4キロ体重は落ちた(体感的にはもっと減っていてもよいものだが)、肝機能も悪化した。
病院では自分自身と、いるのかいないのかもわからないような小さな命を点滴でつないだ。1日に何度も取り換えられる500ミリリットルの点滴。その液体の入ったプニプニとした袋を時折指でつんつん押しながら、このおかげで生きていられるのだなと医療の偉大さに感心した。

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4 試練の始まり / ぐっち

 妻が妊娠した、といっても僕にはその実感が全く持てずにいた。それはそのはずだ。今ここに赤ちゃんが来たわけではないし、生活事態昨日とは何も変わらないからだ。
一方で、図らずも妻は否応なく実感させられることになってしまった。
 その時は突然訪れた。天ぷらをお腹いっぱい食べて喜んでいたのもほんのつかの間、次の日にはもう何も受け付けなくなっていた。決して天ぷらを食べすぎたからではない。
つわりというのはこ

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3 試練の始まり / はるか

 妊娠6週目のある朝、急につわりは始まった。少しだるく気持ち悪い程度のそれに、私は妊娠の貴い洗礼を受けたような気すらしていた。今思えば本当に甘い、いや甘すぎる妊娠期だった。
結局妊娠7ヶ月いっぱいまで続くことになったつわりは、私の26年の人生を持ってしても筆舌に尽くしがたい過酷な経験となってしまったのだから。仕事は愚か、家事も身の回りのことすらままならない5ヶ月間となってしまったのだ。
その間文句

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2 気づいたらこっそりそこにいた / ぐっち

 「早く怪獣が来るといいな」
結婚してから何度となく妻と言っていたことだ。怪獣とは我々のいわゆるスラングのようなもので、要するに赤ちゃんのことだ。
すぐ大声で泣きわめくし、何でもかんでも食べてしまうし、何より日本語が通じない。言葉がコミュニケーションのほぼすべてである我々にとっては怪獣以外の何物でもない。
そんな謎だらけの怪獣がとうとう我が家にもやってくることになった。これはそんな怪獣と我々夫婦の

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1 気づいたらこっそりそこにいた / はるか

~数ミリにも満たない細胞の誕生!その存在は26年間かけて築いてきた価値観をいとも簡単にぐにゃりと変えた~

 26歳になる年の1月、妊娠が判明した。きっかけは2週間近く遅れた生理と体のだるさという極めて一般的な症状の出現だ。
そこですぐに妊娠検査薬を試そうと思ったが、私にはできないことに気付いた。私も夫も全盲だ。
薬局で検査薬を購入し、使用できたとしても、結果を見て判断できない。かといって検査薬の

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