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Sweet Stories Scrap マンスリー Vol.5 2020/12

 今月はもう少し早く配信するはずだったのに、色々と事情があって年末になっちまった。用意していたイラストがクリスマスらしくてすごく綺麗なのに聖夜はとっくに過ぎてしまったのはご愛嬌。ほいじゃあ、さっそく。

おまえ、何故この店に入ってきた?/マスダヒロシ

 これはマスダ氏の回顧録なのでお話自体は創作じゃないのだが、書きっぷりがすごくクリエイティブだ。ふつう、ブログに思い出話を書く時にこんな筆致で描いたりしない。「昔、パリに住んでいた頃に行きつけのバーがあった」とか何とか、十中八九そんな書き出しだろ、ふつうは。

 ところがマスダ氏は違う。ふつうじゃない。変人だ(褒めてますっ!)。のっけから読者を掴む。「おまえ、何故この店に入ってきた?」すごい掴み方だ。異常に握力が強い。80kgぐらいあると思う(ちなみに私は40kgないんじゃないかな)。タイトル読んで「え?ナニ?なんでそんなこと訊くの?」と思ってるところに、書き出しまで同じ。「だーかーらー、何でそんなこと訊くのよ?」尋ねたくなるのは興味があるから。その時点で読者の気持ちを掴んでる。80kgぐらいで。

"店には黒人しかいなかった。
パリ、レ・アル地区のそのカフェで、僕は唯一のアジア人だった。"

 でもって(当たり前だけど)、この作品の良さは冒頭だけではない。パリの黒人たちとの心の交流を涼やかに綴って描き出していく。

 今年はコロナ禍に加えて、もう一つ考えさせられる出来事があった。アメリカの「ブラック・ライブズ・マター(BLM)」運動だ。マスダ氏がこの思い出話をこの年の瀬に書いたのは、BLMとは関係ないのだろうか。少なくとも私はBLMがあった年にこの作品を読めてほんとうに良かった

 黒人は酷いやつばかりだなんて嘘だ。人種が違ってもちゃんと付き合えば友だちになれる。そう文字にしてしまえば、なんとも青臭く、却って説得力がなくなる。それをマスダ氏は思い出話を淡々と綴ることでやってのける。

 最後に写真が一枚出てくる。そこで最高にグッと来る。文章でじわりじわりと高めておいて、読者の前にとーんと提示される印象的な一枚の写真。良いよ、ほんとに。ちなみにマスダ氏の本職はカメラマン。どうりで。

買えなかったノート/umaveg(うまべぐ)

 これも今年の世相を捉えた作品。「コロナによる飲食店への営業自粛要請」が土台になったお話。ちょっと苦い。今年を振り返る年末特集みたいなものとして選びました。

 ちなみにこの作者、普段は株式投資のノウハウをYouTuberとして動画配信してる!(以下はその動画の一つ)そういうギャップも面白かったYO。

あかつきのきみに。/きなこ 

 長いよ。

 いや、別にそれが悪いってことではなくって、ショート・ショートから選ぶのがこの企画の建前だから、これ選ぶのどうかなあと思ったんだよね。でも、すらすらーっと最後まで読めちゃった。で、なんかこの「あかつきのきみ」君が気に入っちゃったのよ。いいヤツだよ、お前。

 辛気臭いことが多かった一年だけどさ、明日を信じて頑張ろっかな。生きてるんだもん、オレ。そんな風に思ったのよ。詳しくは書かないけどさ。てか、作品は長いってのに批評は短いって?今回、のっけから長くなっちまって疲れちゃたんだよ。良いから読めよ。読みやすいよ。

🍌

 今月のお別れの曲はこの曲。

"幸せとはきっと一人きりじゃつかめないもの"
――♪やさしい気持ちで/Superfly

 最後に紹介した作品『あかつきのきみに。』に贈ります。作品を読んだ後に歌詞を味わいながら聴くと涙腺が崩壊しそうになるぜ。映画の感動作のエンディングでテーマ曲が流れてきた時みたいな気分になれるから。
 じゃあ、また来月。そして、良いお年を。

🍌

 noteマガジン「Sweet Stories Scrap(SSS)」はnoteに発表された短編小説から、独断と偏見で選ぶ『ステキな小説のスクラップブック』。月イチで3つ選んで批評を加えて配信中。気になる作品があれば是非タレコミをっ✌

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