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【童話読み聞かせ】歯が抜けた

ちょっとおちゃめな魔法のようなことば「ペケロンパ」。童話の読み聞かせを「聞かせよう」。そして、みんなで読み聞かせを「してみよう」。
このペケロンパ・プロジェクトは読み聞かせによって​子どもとの暮らしを応援しています。詳細はこちらの記事でご紹介していますので、良かったらご覧ください。

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▼まずは動画で聞いてみよう!

童話家・出村孝雄による読み聞かせの口演の音源を元にイラストをつけて動画にしています。

▼読み聞かせをしてみよう!

このお話の目当て
いくら欲ばって、いろいろ望んでみても、なによりも大切なものは、健康に恵まれることである。殊に歯は、その人の健康と美のシンボルであることを知らせたい。よく知られている「四つのねがい」という話からヒントを得た作品です。

読み聞かせのポイント
歯が抜けてしまうと、「ものが、はっきりいえない」「顔がみにくくなる」「体が弱くなる」ことを強調して、健康教育の面にも役立たせてください。

おはなし:出村孝雄 / え:小島啓 / 著書:出村孝雄 / 制作:Bit Beans

▼おはなし

 ジャックは、大きな家に、住んでいました。とてもお金持ちであったのに、欲ばり者でした。みんなから“欲ばりのジャック、欲ばりのジャック”と、いわれていました。
 ジャックのお嫁さんも、ジャックと同じように、たいへんな欲ばり者でした。

 ある晩のことです。
 ジャックとお嫁さんは、いっしょに晩ごはんを食べていました。
 そのとき、外で声がしました。
 「おねがいです。戸をあけてください」
 ジャックとお嫁さんは、知らん顔をして、ごはんをたべています。
 「おねがいです。戸をあけてください」
 ジャックは、いかにもめんどうくさそうに、大きな声でいいました。
 「じぶんで、あけろ」
 「わたくしは年よりです。力がありません。あけてください」
 「チェッ、めんどうだな……。あけてやるから待っていろ」
 ジャックが、戸をあけてみると、そこに立っていたのは、おじいさんでした。

 このおじいさんは、白いひげを長くのばして、杖をついています。ところが、頭にかぶっているのは、まっかなずきんでした。
 おじいさんは、ジャックのお嫁さんのそばにすわると、ごちそうの煮えている鍋を、のぞきこみました。
 「ああ、よいにおいじゃのぅ……。おお、これはおいしそうなお肉じゃ。このじじいにも、お肉を、ひときれ、たべさせてください」
 ジャックは、おじいさんを、にらみつけました。

 「なに、この肉をたべたいって……。だめだ!じいさん、この肉は、とてもかたくて、わしたちでさえ、こんなよい歯を持っていても、よくかめなくて、困っているんだ。じいさんなんかには、たべられないよ」
 「へい、そうですかい……。でもねえ、わしは、年をとっていても、歯は、とてもじょうぶなんです。おねがいです。この肉を、たべさせてください」
 「じいさん、だめだっ!これは牛肉で、とても値段が高いんだ。わしたちも、もったいなくて、チビリ、チビリ、ほんの少ししか、たべていないんだ。じいさんには、やらないよ」
 「へい、そうですかい……。でもねえ、この肉を、たべさせてくださったら、お礼をするんですけどねえ」
 「なに?じいさん、お礼をするって、なにをくれるんだい」
 おじいさんは、頭にかぶっている、赤ずきんをぬぎました。

 「はい、この赤ずきんを、あげますよ」
 「じいさん、だめだっ!そんな古い赤ずきんをもらっても、なんにもならん。肉はたべさせないぞ」
 「へい、そうですかい……。でもねえ、この赤ずきんは、あなたのおねがいをかなえてくれる、ふしぎなずきんですがねぇ」
 欲ばりなジャックは、この古い赤ずきんが、じぶんのねがいを、かなえてくれると聞いて、おどろきました。

 「え、なに?その赤ずきんが、わしのねがいを、かなえてくれるって……。それは、ほんとうかい」
 「へえ、ほんとうですとも……。このお鍋の中の肉は牛肉──牛の肉ですね。この牛の肉を、わしにたべさせてくださると、この赤ずきんは、牛の角の数だけ、あなたがたの、おねがいを、かなえてくれます……。牛には角が二本でしたねえ」
 すると、そばにいた欲ばりのお嫁さんが、
 「ちがいます。この牛は角が四本、四本ありましたよ」
 と、いって、おじいさんの前に、指を四本つき出しました。

 「へえ、この牛には、角が四本もあったんですか……。では……、この赤ずきんをかぶって、おねがいをすると、あなたがたのおねがいを、四つまでかなえてくれますよ」
 欲ばりのジャックも、ジャックのお嫁さんも、この赤ずきんが、おねがいを、四つもかなえてくれると聞いて、大喜びです。
 「おじいさん、おじいさん。さあ、さあ、肉をたくさんおたべなさい……。そのかわりに、その赤ずきんは、わたしたちが、もらいますよ」
 ジャックは、そのおじいさんに、牛肉のごちそうをして、その晩は泊めてやりました。

 そのつぎの朝です。
 ふしぎな赤ずきんをもらったジャックは、おじいさんを馬車に乗せて、村境の橋のそばまで、送っていきました。
 おじいさんが、橋を渡って、遠くへいってしまうと、ジャックは、赤ずきんを、頭にかぶりました。
 馬車に乗ったジャックは、むちを持って馬のお尻を、力いっぱい“ピシリッ”と、たたきました。

 「さあ、家へ帰るんだ、早く走れえ」
 ところが、どうしたことでしょう。馬は「ヒヒーン」と、ないただけで、動こうとはしません。
 「おや、この馬、走らないのか」
 また“ピシリッ”と、むちで、たたきましたが、「ヒヒーン」となくだけです。
 ジャックは、馬車から降りると、大きな棒を持ってきました。
 「この馬!いうことを聞かなければ、この棒で、ぶんなぐってやるぞ……。そら、そら、そうら」
 “ポカーン”と馬の尻をたたきましたが、馬は「ヒヒーン」と、なくだけで動きません。
 おこったジャックは、
 「よし、こんな馬なんか、こんな馬なんか……、もう、死んでしまえっ」
 と、いいました。

 と、どうでしょう。この大きな馬が“バターン”と倒れてしまいました。そして馬車が“ガチャーン”と、ひっくりかえってしまいました。
 ジャックは、びっくりしました。馬は死んでしまったのです。
 「わあ、馬が死んだ、馬が死んだ……。これはふしぎだ。この馬、死んでしまえ!と、いったら、馬が死んじゃった」
 ジャックは、頭にかぶっている赤ずきんに、手をあてました。
 「あ、この赤ずきんは、わしのいうとおりに、馬を殺してしまったんだ……。しまった!この赤ずきんは、わしのおねがいを、四つきいてくれるのに、一つなくなって、あと三つだけになってしまった」
 ジャックは、死んだ馬のそばで、とてもくやしそうな顔をしました。
 ジャックの家では、お嫁さんがジャックの帰りを、待っていました。
 お嫁さんは、ジャックの帰りがおそいので、心配して、家の外へ出ると、大きな声で呼びました。
 「ジャック……、早く帰ってえ……。風のように早く飛んできてくださーい」
 と、どうでしょう。むこうの方から、ジャックが、風のように早く“ビューン”と、音をたてて飛んできて、お嫁さんの前でとまりました。
 お嫁さんは、びっくりしました。

 「まあ、ジャック。今、わたしがねえ、『ジャック、風のように早く飛んできてくださーい』と、呼んだら、あなたが“ビューン”と飛んできましたよ」
 ジャックは、頭にかぶっている赤ずきんに、手をあてました。
 「あ、そうか……。おまえの声が、この赤ずきんに聞こえたのだな。それで、わしは風のように早く飛んできたのだ……。ああ、四つかなえてもらえるおねがいが、また一つなくなって、二つだけになってしまった」
 「おや、あなた。おねがいは、四つ、かなえてもらえるのですよ。一つなくなれば、まだ三つ残っています……。それが、どうして、二つだけになってしまったんです」
 「うん、『この馬、死んでしまえ』と、いったら、あの馬が死んでしまったんだよ」
 馬が死んだと、聞いて、お嫁さんは腹を立てました。

 「まあ、あなたは、あんなよい馬を、殺したのですか。あなたが悪いのよ」
 そこでジャックとお嫁さんは、けんかをはじめました。
 お嫁さんはらんぼうでした。ジャックの腕に“ガッ”と、かみつきました。
 ジャックはびっくりしました。
 「痛い、痛い……。腕にかみつくとは、なにごとだっ」
 でも、お嫁さんは、かみついて、はなそうとはしません。
 そこで、ジャックは、大声で叫びました。
 「こんな、かみつく歯なんか、抜けてしまえ」

 すると、どうでしょう。ジャックの腕に、かみついていたお嫁さんの歯が、みんなポロ、ポロ抜けてしまいました。
 ジャックは、おどろいて、かぶっていた赤ずきんに、手をあてました。
 「わあ、歯が抜けた。みんな抜けちゃったあ……。おや、この赤ずきんが、わしのいうことを聞いて、歯を抜いてしまったんだ……。ああ、この赤すきんは、おねがいを四つ、かなえてくれるのに、あと、一つしか、かなえてもらえないぞ」
 とうとう、赤ずきんの、かなえてくれるおねがいは、一つだけに、なってしまいました。

 ジャックのお嫁さんは、歯がみんな抜けてしまって、ペチャンコの、それは、それは、変な顔になってしまいました。
 お話をしても、歯のないお嫁さんのことばは、さっぱりわかりません。
 なにをたべても、歯がなくては、よくかめないので、からだが弱くなって、ヒョロヒョロに、やせてしまいました。

 ある日のことです。
 お嫁さんは、鏡の前にすわると、自分の顔が見苦しいので、悲しくなって、泣いていました。
 ジャックは、お嫁さんのそばにくると、おこっていいました。
 「こらっ、メソメソ泣くな……。やせてヒョロヒョロ、顔はペチャンコ……。その顔で泣いたら、見苦しくて、わしのほうが、気持ちが悪くなるわ」
 お嫁さんは、ジャックに、なにかいっていますが、歯のないお嫁さんのいうことばは、はっきりわかりません。
 お嫁さんは、ジャックの前で、手まねをしたり、字を書いたりして、やっとジャックに、わかってもらいました。
 「ああ、歯が生えるように、赤ずきんにたのんでくれというのかい……。そうか、歯がみんな抜けたら、顔はペチャンコ、からだはヒョロヒョロ。なにをいっても、わからなくなってしまったからな……。よし、では、赤ずきんにたのんでみよう」
 ジャックは、赤ずきんをかぶって、大声でいいました。
 「おねがいです。わしのお嫁さんの歯を、生やしてください」
 と、どうでしょう。お嫁さんの口に、まっ白な歯が生えそろいました。

 ジャックも、お嫁さんも、大喜びです。
 「わあ、生えた、生えた。歯が生えた」
 ジャックは、かぶっている赤ずきんに、手をあてました。
 「あ、おねがいが、一つ残っていたのに……。嫁さんに歯が生えて……。おねがいは、みんななくなってしまった」
 ジャックは、とても、くやしそうな顔をしましたが、お嫁さんは、うれしそうに、白い歯を見せて笑いました。
 「ああ、よかった、歯が生えて。これで、人間らしい顔になりました。ものも、はっきりいえます……。これなら、なんでもおいしくたべられます。ああ、こんなうれしいことはありません」
 ジャックとお嫁さんは、欲ばりをやめて、親切な人になりました。

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