読書感想文を攻略するヒント。書けるようになる5つのポイント。
夏休みに入りました。小学生の子どもたちには、夏休みの宿題の定番に読書感想文があります。正直なところ「この酷暑に本なんか読んでいられるか」というのがホンネですよね。
けれども宿題は宿題。さくっと終わらせてしまいところです。
このエッセイは、小学生の子どもを持つママ(おかあさん)、パパ(おとうさん)のために書きました。特に「本を読むのが嫌い」「作文が苦手」「宿題はいつも夏休みの最後に大変なことになってしまう」子供たちのいるみなさんを想定しています。
中学受験を意識しているご家庭も考慮しました。したがって、少し長文になります。読書感想文の宿題を終わらせ、宿題から学びを得るためのヒントとして、ちょっとだけお役に立てれば幸いです。
1.子どもたちが書きやすい環境を作ること
まず私のことについて書きます。私は印刷会社、教育系出版社、IT系出版社で働いた後、いまはフリーランスで企画・原稿執筆・デザインの仕事をしています。さらに副業として、とある文章表現教室の講師として、毎週1日だけ4年生と5年生の小学生たちに文章の書き方を教えています。
失敗談についてお話します。
私には息子がいますが、彼が小学生だったころの話です。
ある夏休み、息子は机の前で原稿用紙を前にしてフリーズしていました。
読書感想文が書けなかったからです。
宿題をみてあげるために横にいて、私はいろいろ声をかけました。書けるようにアドバイスをしました。けれども息子は沈黙したままです。やがて30分が過ぎました。それでも鉛筆を握れない。書けない。
白紙のまま1時間が過ぎたところで、こんな風に声を荒げてしまいました。
「なぜ書けないんだよ!1文字ぐらい書けるだろう!」。
これが、いちばんダメなやり方だといまは分かっています。
子どもが委縮してしまったら、できることもできなくなります。リラックスして取り組むことが大切であり、ストレスを感じるような状態では、感想文を書くこと自体が嫌いになり、逃げ出したくなります。トラウマになりかねません。
書ける(できる)人間は、書けない(できない)人間に配慮が欠けがちです。理解できないし、理解しようともしない。歩み寄れない。
自分ができることは、みんなできて当たり前だと考える。しかし、みんなができるのに、できない人間だっています。当たり前ができない。苦痛に感じてしまう。そんな人間もいる。怠けている場合があるかもしれませんが、真面目に取り組もうとしているのにできないこともある。
一方、学校ではなく自宅の勉強においては、親の役割は教えることではないと思います。親は先生ではないし、子どもが親に先生の役割を求めているとはいえません。
親は「書きやすい環境を作ることに専念する」とよいでしょう。指導しない、強制しない。書けないのなら放っておく。ただ、さりげなく子どもたちが気付かないように、書けるように配慮をする。困っていたら声をかけてあげる。うまくいっているようなら黙る。
書かないなら書かないで、それでもいいでしょう。なぜなら、究極のことをいってしまえば、読書感想文ひとつで人生が決まるわけではありません。もっと他の部分で個々の子どもには魅力があるだろうし、できることがあります。白紙で提出するのなら、それだってひとつの回答です。
手伝って代筆するようなことは問題です。なぜなら子どもたちが依存して、いつも親に人生の課題を丸投げしてしまい、強い生き方を学べなくなってしまうからです。
私が文章表現教室の講師を始めたのは、息子に対して間違えた接し方しかできなかった苦い経験があったからでした。
時間は巻き戻せないので、成長した息子にもう教えることはできません。だからほかの子どもたちに教えることで、やり直しがしたい、最善の方法を学びたいと考えました。
どうすれば書けない子どもが書けるようになるのか?
いまでも考え続けています。
自分にとってのライフワークです。正解はありません。
それぞれの子どもに最適化した進め方があり、理想をいえば個別指導が重要であると考えます。
きっかけさえつかめば、どんな子どもたちも書き始めるし、驚くほどの成長を遂げます。これは文章表現教室で教える中で、何度も実感しました。ほんとうにびっくりします。
子どもたちの書きやすい環境を作ってあげること。一歩踏み出せるように背中を押して、個々のエンジンに火を灯してあげること。
それが第一に大切だと考えています。
2.読書感想文を書くための5つのポイント
では、具体的な読書感想分の宿題の攻略のポイントを5つ挙げます。
前半3つは基本的な対策であり、後半2つは書ける子どもがさらに考えを深めて、よりよい読書感想文にするためのヒントです。
それぞれ簡単に解説していきましょう。
Point-1:どんな本を選ぶか、本のチョイスが最重要。
人生は選択の連続であり、選択を間違えると困ったことになります。
読書感想文も同じです。自分に合っていない本を選択したり、先生や親のおすすめを信じて超難しい本に取り組もうとしたり、選択を間違えたことで書けなくなってしまう場合もあります。
特に課題図書。私はいまだかつて推薦図書、課題図書を面白いと感じたことがありません。そもそも課題やお題という「やらせられる」印象に反発を受けます。おすすめされるとそっぽを向いてしまう、ひねくれた性格の人間だからです。
したがって、読書感想文を書くための本選びのポイントは、次のように考えます。
個人的にはミヒャエル・エンデの『はてしない物語』や『モモ』のような名作を読んでほしいのですが、サン=テグジュペリの『星の王子さま』や谷川俊太郎さんの『ワッハ、ワッハハイのぼうけん』のようなイラストが入っていて分かりやすいものがいいと思います。星新一さんのショートショートも読みやすい。ヨシタケシンスケさんの本は、大人が読んでも楽しめます。
また、学校によってはダメかもしれませんが、教科書に取り上げられた作品を再読してもよいでしょう。そのものずばりがNGなら同じ作家さんの別の作品などを探します。
そして、子どもが好きなジャンルの本を選ぶことが基本です。推理小説が好きなら推理小説、理科が好きならSF(空想科学小説)という風に。科学者の伝記やSDGsに関する本、ロボットやAIの本も面白そうです。別のジャンルに挑戦してみようという考えもありますが、親が強制すべきではありません。
アニメ化された作品の原作を読むという方法もあると考えました。アニメは世界に誇る日本の文化であり、あとでアニメを観て原作とどう違うのか比較するのも楽しそうです。アニメやゲームのノベライズもよいのでは。
たとえば羊文学が挿入歌を担当している『岬のマヨイガ』は、原作が柏葉幸子さんの児童文学であり、震災後の子どもたちとおばあさん、そして神様との交流を描いたファンタジーです。こうした児童文学もおすすめだと思いました。映画は観たけれど、原作は読んでいないのですが。
森絵都さんの作品もよいと思います。いくつかの作品は、中学受験で取り上げられています。
読書が習慣になっていれば「これがよさそうだ」という本に対する嗅覚が鍛えられているのですが、なかなか難しいでしょう。したがって何冊かセレクトして、ダメそうな本は早々にあきらめる方法もあります。最初から1冊に決め打ちすると、相性が悪かった場合にリスキーです。
推薦図書、課題図書から選びなさいという宿題の場合は仕方がありませんが、もし自由に本を選んでいいのであれば、読みたい本を読む、書きたいことを書くのがベストであると考えます。
Point-2:原稿用紙から書き始めない、まずはメモ。
そもそも、いきなり白紙の原稿用紙に向かうと、それだけでプレッシャーが大きいものです。
大作家でも書き出しには悩むぐらいであり、準備段階が必要です。したがって読書感想文の原稿用紙に向かう前に、無地の紙やノートにメモを取ることから始めます。
空間的な発想を拡げる意味では、罫線のノートではないほうがよいと考えます。きっちり書く必要はありません。メモなので。
消しゴムで間違いを訂正する必要すらなく、間違えたところは二重線で消して書き直します。なぜ消さないほうがよいかというと、思考の形跡が分かるからです。
また、書く作業は思考だけでなく身体を伴う行為であり、身体を動かすことで思考が動き始めます。
原稿用紙に書く前になんらかの形で鉛筆と手を動かしておくと、その身体的なウォーミングアップが思考をほぐします。メモができないときは、大きく背伸びしてみるとか、歩き回ってみるとか、とにかく身体を動かします。
メモは絵でも構いません。登場人物はこんな顔だろうなとか、あのシーンはこんな風景だろうとか、想像して書くのも楽しそうです。絵が得意であれば、物語のイラスト化は趣味と宿題を兼ねた充実した時間になります。登場人物の関係を図解にしてもよいでしょう。
要点をまとめると以下になります。
では、いったい何をメモすればいいのかといえば、次の3つになります。
Point-3:あらすじの「要約」、よかったことの「説明」、自分で考えた「意見」で構成。
ベネッセ教育総合研究所のWebサイトに「読書感想文に書くべき3つの内容」として以下のように解説されています。
このページは非常に参考になると思いました。さすがベネッセです。
文章表現教室の講師として補足すると、教えている文章は大きく分けて「描写」「創作」「説明」「意見」になります。このうち説明文と意見文が重要になり、読書感想文に創作は必要なく、描写も不要です。
ここで挙げているあらすじの要約、よかった部分の説明、自分の考えの意見を、まず原稿用紙に書くのではなくメモに整理します。
メモは原稿の下書きではありません。料理のために下ごしらえが必要であるように、まずメモに必要な材料を洗い出します。十分メモに言葉を書き出したら、あとは言葉を選んで原稿用紙に転記して、文章を組み立てていくだけになります。若干遠回りになりますが、焦って原稿用紙を使うより書きやすくなることがメリットです。
続いて3つの構成それぞれを解説します。
第一に、本の紹介とは「あらすじを要約すること」で十分です。そしてあらすじの要約に必要な作業は次になります。
図書館で借りてきた本には線を引くことができないかもしれませんが、大切な言葉をメモして、物語の流れを押さえることであらすじを整理します。ちょっと面倒くさいけれど、メモをもとに書くことで原稿用紙を埋めやすくなります。
あらすじは最もシンプルにすると「ひとことで言ってしまうと、どんなお話?」ということです。
たとえば桃太郎であれば「桃から生まれた桃太郎が、仲間たちと鬼ヶ島に行って鬼を退治するお話」という一文になります。さらに「ハッピーエンドの物語」でしょうか。
ここから逆に「どうやって桃から生まれたの?」「仲間たちって誰?」と追加していくことで、あらすじは詳しくなります。
一度思い切って最短のシンプルな形にして、足りないところを補足していくアプローチをしてみるとよいでしょう。ただし、あらすじで原稿用紙の全部を埋めてしまうと、もはや読書感想文ではありません。注意が必要です。
第二として、よかった部分の説明は、場面+感情+理由で構成すると簡潔にまとまります。たとえば桃太郎でいえば次のようになります。
この構文で重要になるのは、本に書かれた事実と感情をしっかり分ける、分けた上で論理的な整合性を考えてつなげること。解釈は必要ですが、自分の感情に軸をおいて本のストーリーにないことを書いてしまうと、読書感想文ではなくなってしまいます。本に書かれていないことを感想文に入れるのであれば、後半の意見の部分で書きます。
文章表現ではクリエイティブにこだわるあまり、何もないところから書き出そうとして途方に暮れることが多いものです。しかし、たとえ創作であったとしても物語には型(パターン/スタイル/モデル/フレームワーク/テンプレート)があり、文章にも型があります。その型を有効に使って考えて書くと、誰でも書けるようになります。
第三として、意見は「賛成!わたしも同じ!と思った」(共感)/「反対!なんだか違うなあ?と思った」(違和感)のように、まず二項対立で考えます。次に「なぜかというと」のように理由を追加することで文章が膨らみます。すじみちの通った論理的な意見になります。
さらに、感動した部分の説明にしても、自分の意見にしても「本のどこからそう感じたり考えたりしたのか、引用をする」こともできます。引用は、その文章をそっくりそのまま一語も変えずに書き写すことです。あまりに引用文が長すぎるのは問題ですが、カギカッコを使って引用することで、原稿用紙の文字を埋める効果も期待できます。
引用は論文を書くときに必要な技術です。著作権に関わる認識も必要になります。読書感想文を書くときから、練習してみてもよいと思います。
ここまでの手順を踏んで、メモに書き出した材料がそろったとしましょう。書きたい気持ちが高まっている子どももいるかもしれません。このような状態になったら、原稿用紙に向かって文章化します。
メモから原稿用紙に文章化するときは「はじめ」「なか」「まとめ」で構成すると、全体を見渡した文章が書けます。
構成全体を俯瞰(ふかん)して、原稿用紙のどこまで何を書くかを設計して書いてもよいでしょう。
一例として「桃太郎」の読書感想文を書いてみました。後半の意見の文章量が多く、ややバランスに欠けているかもしれませんが「どのように書けばいいのか?」という型として参考にしてください。
上記のような基本構成ができたら、感動した場面から書くなど構成を崩してもよいと思います。上級テクニックになりますが、あまりにも型にはまりすぎているとつまらないので、工夫が必要です。
ここまでが基本的な読書感想文の書き方(原稿用紙の埋め方)になりますが、さらに完成度を高めるためのヒントとして応用編を簡単に紹介します。
Point-4:自分の体験や「だから何?(So What?)」を加える。
あらすじの要約+よいと思った部分の説明+自分の意見で、ある程度は原稿用紙を埋めることができました。追加するなら、自分の体験やニュースで知ったことなど、本の外側にある情報を書いてもよいでしょう。
体験を書く際には、誰かの言った言葉を会話文で表現すると読み応えのある文章になります。ニュースなどの言葉は引用が使えます。
短文で終わってしまって文章が続かないときのヒントとしては「ということは?」「それからどうした?」「だから何?」と自分の書いた文章に自分でツッコミを入れて考えを拡げていきます。
「逆にいえば?」「この本にはなかったけれど、こんなことも考えられるよね」「例をあげると?」という具体化のほか「みんなに使えそうな大切なこと、注意すべきこと(教訓など)は?」として抽象化など、思考を拡げる+深めることによって、読書感想文の内容をより豊かにしていきます。
Point-5:さらに幅を拡げたいなら「調べる」。
読書感想文の宿題でここまでは求めていませんが、せっかくの夏休みなので、調べ学習を組み合わせると勉強になります。
震災や戦争が出てくるお話であれば、インターネットで検索して調べたり、図書館で本を探したり、作品のコンテクスト(文脈)となる背景を追加します。著名な作者であれば、作者のエピソードなどにも触れると知識が拡がります。
課題は提出すれば終わりますが、学びは基本的にエンドレス、ライフワークとして生涯続きます。
多くの偉人が幼少期の頃から自分なりの課題意識を持って、誰から言われるのでもなく勉強に取り組んだように、21世紀の子どもたちにも自走的な学びのエンジンを持ってほしいと考えています。
そのきっかけが読書感想文の本だったなら、とても素晴らしいことではないでしょうか。そういう本を課題図書や推薦図書として、学校や図書館だけでなく多くの大人たちが見出す必要があるでしょう。
3.まとめ
子どもたちが読書感想文を書けるようにするために、どのようなポイントがあるか考察しました。
やや難しい表現になり、ごちゃごちゃまとまりがなかったようにも感じています。分かりやすくなるように、今後も読書感想文の書き方を考えていくつもりです。
いまオンラインの文章表現教室では、小学生向けに1コマ90分の授業をしています。以前は教室を使って対面の授業をしていました。決められたカリキュラムに沿った内容になります。
オンラインにしろ対面にしろ、90分×2回ぐらいの『夏季限定、読書感想文を書く教室』のような講座があってもいいかもしれません。子どもたちが読みたい本を持ち寄り、本の読み方、メモの取り方、原稿用紙に書くまでを個別で指導するイメージです。
実は講師が子どもたちに教えることより、子どもたちから講師が学ぶことのほうが多いと感じています。だから授業は面白い。
将来はプロダクトデザイナーになりたいという小学校6年生の少年と、休憩時間に、スティーブ・ジョブズの生涯や百田尚樹さんの『永遠のゼロ』の感想を語り合ったこともありました。いろんな子どもたちがいますが、一部の子どもは大人たちより大人です。いろいろなことを考えています。
異常気象のために耐えがたいほどの暑さですが、有意義な夏休みを過ごせるといいですね。よい休日を、そしてよい読書を。
2024.7.28 Bw