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『聖なる怠け者の冒険』森見登美彦著

先日、引っ越してから初めて市内の図書館を訪れてみた。
珍しく駅から近い図書館で、普段本はメルカリとかで落札することが多いけど、もし蔵書数も多いのであれば利用したいな〜と思い、見学するつもりでふらっと入った。

特に目当ての本はなかったが、館内をうろつきながら旅行コーナーを見た時に、5月に京都に旅行することを思い出した。
食メイン旅行のつもりで、食べることしか考えてない。他の観光スポットも調べたいけど、普通のガイドブックじゃつまらないな〜。と思っていた時、小説コーナーで森見登美彦の名前が目に入った。

あ、京都の人!!

ということで手に取りました今回は、
森見登美彦著「聖なる怠け者の冒険」です👺

①あらすじ

社会人二年目の小和田君は仕事が終われば独身寮で缶ビールを飲みながら「将来お嫁さんを持ったら実現したいことリスト」を改訂して夜更かしをする地味な生活。ある朝目覚めると、小学校の校庭でぐるぐる巻きにされ、隣には狸のお面をかぶった「ぽんぽこ仮面」が立っていて……ここから「充実した土曜日の全貌」が明らかになる。朝日新聞連載を全面改稿、著者3年ぶりの長篇小説の文庫化。第2回京都本大賞受賞作!

私は森見さんの小説は他に「夜は短し歩けよ乙女」「四畳半神話大系」を読んだことがあるが、毎回独特の文体に苦労する。実在の土地名が多く出てくるので、京都の土地勘がないことも相まって、読み終えるまで普通の小説の1.5倍くらいかかる。

今作では祇園祭中の土曜日、たった1日の騒動を書いているのだが、登場人物たちは京都市内を右往左往に動き回るので、それぞれの所在地が把握できなくて困った。○○通とか○○ビルとか多すぎて、途中から調べることを諦めた。(ガイドブック的役割を捨てた瞬間)

だが主人公、小和田くんの愛され度が素晴らしい。
これは、愛すべき怠け者小和田くんの愛すべき1日の話。

②感想

この物語は、怠け者の小和田くんが、その他の大勢のやる気に満ち溢れた人々に巻き込まれる事件を追う。この対比が面白い。

小和田くんは主人公であるはずなのに、実際物語の半分くらい寝ている。前半は、小和田くんが出てくる箇所といえば、彼が寝ながら見ている夢の話がほとんどだった。
彼は起こされ、こう思っている。

"ぐっすり眠っているところを力任せに起こされるのは、たいへん辛いものである。なぜ自分はこんな思いをしなければならないのか、そうまでして起床しなければならない人生というものはいったい何かと、内なる怠け者が猛り立つ"

なるほど〜。哲学的怠け者。

しかし、半ば無理やり起こされた後の小和田くんの後半の活躍は凄まじく、と言っても能動的に動くのではなく巻き込まれ流され知らぬ間に事件を解決に導くのである。

私がここで気になったのは、なぜこんなに小和田くんは愛されているのかということだった。
小和田くんはこんなにもやる気がないのに、恩田先輩も桃木さんも、研究所の所長も、小和田くんを気にしてかなり頻繁に絡んでいる。
なのに彼は毎回全員の誘いを断っている。

1日も無駄にしたくない精神の所長はこう言う。

"ただ漫然と動くのを止めれば休むことができると思い込んでいる。しかし私たちに必要なのは、実は動きを止めることではない。正しいリズムを維持することだ。マグロのように泳ぎ続け、疲労の向こう側へ突き抜けること。これがコツだ。"

私もどちらかというと怠け者寄りの人間なので、一度動きを止めると、また動き出すことが億劫になるということはよくある。
しかし小和田くんは所長の言葉を全く理解していなかった。
私は理解できたからまだ良かった。

だが、事件が進むうちにわかったことがある。
小和田くんはフッ軽(フットワーク軽い系)なのだ。
怠け者とフッ軽は対極の存在では?と思うが、彼は確かに怠け者で基本的に何もしないが、彼にはやりたくない!という確固たる主張もない。だから推しの強い恩田先輩や所長のような人に強引に外に出されれば出て行くような人だったし、意外とやってしまえばノリも良かった。
そもそも、彼には面白いことに巻き込まれるという才能があるようで、無気力系なのに「なんかこいつ面白いな」と思う雰囲気がある。クラスにいたら地味だけどちょっと気になる人、みたいな。しかも、割と人情深い。
小和田くん、そりゃ愛されるよ。

最後に、小和田くんの名言を。

"1日や2日の休暇に何の意味があろうか。人生全体から見れば誤差の範囲だ。いたずらに物足りなさを感じるばかりで、退屈の底まで行きつけない。退屈で退屈でイヤになるぐらい怠けなければ、働く意味なんて湧くもんか"

その通りです!

③まとめ

感想を読み返してみると、小和田くんについての愛ともとれる考察しか書いてない。知れば知るほど魅力が増す、魅力的な主人公だった。

今回も例に漏れず、読み終えるのは大変だったのだが、それでも多分また、次の作品も手に取ってしまう、まんまと森見節にハマっている私です🥱

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