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『BUTTER』柚木麻子著

先週は実家に帰省していた。
といっても電車で1時間半くらいだから、事あるごとに帰っていて、今回はかかりつけの病院に行くためだった。

母は料理上手で、実家に帰ると私のためにたくさん料理を作ってくれる。父は単身赴任で海外にいて、弟も一人暮らしのため、今は実家に母が一人で住んでいる。
最近は料理してる?と聞くと、一人だったら簡単に済ませちゃうから全然最近は頑張ってないなあー、でも楽だから良いよ。と母は言っていた。だけど私が帰省すると、食べたい料理を聞いてきたり、いっぱい食材を買ったり、なんとなく楽しそうなのが伝わってくる。

料理は食べることも、作ることも、私はまだわからないけど、食べさせることも、幸せなのかも。

今回はこってり高カロリー小説、柚木麻子さんの「BUTTER」です🤤

①あらすじ

木嶋佳苗事件から8年。獄中から溶け出す女の欲望が、すべてを搦め捕っていく――。男たちから次々に金を奪った末、三件の殺害容疑で逮捕された女、梶井真奈子。世間を賑わせたのは、彼女の決して若くも美しくもない容姿だった。週刊誌で働く30代の女性記者・里佳は、梶井への取材を重ねるうち、欲望に忠実な彼女の言動に振り回されるようになっていく。濃厚なコクと鮮烈な舌触りで著者の新境地を開く、圧倒的長編小説。
(Amazonより引用)

きっと作者の柚木麻子さんは、食べることが好きなんだろう。
この本にはバターに限らず食べ物の描写が多くて、しかもそれがとても美味しそうで、夜中に読むとすごくお腹が空いた。

こってり濃厚に口の中で溶けるバターの味。
想像するだけでとろけそうな気持ちと、なぜかそれ以上の罪悪感を感じる。

容疑者の梶井は欲望に忠実な人だった。

食べたいものを食べて、何が悪いの?
お金をたっぷりかけた私の体は美しい。

美しくも、若くもないのに、現代の女性たちとは異なる価値観、考え方を持つ彼女に、主人公の里佳は惹かれ、変わっていく。

②感想

まず、私は食べることが好きだ。

美味しい食事こそ、人生の最大の楽しみだと本気で思っているし、バターの表現なんて最高だった。あの感覚をよく言語化したなと感心する。

確かに落ちていく、そんな感じがする。里佳はまじまじと食べかけのバター醤油ご飯を見つめる。濃い乳の香りがする長いため息が一つ出た。
ーこれはもっともっと舌先から搦め捕りながら、知らない場所へと連れて行くような、力強くあくどいような旨さだった。

初めてフランスへ旅行した時のことを思い出した。何気なく入ったカフェでバケットを食べた時、上に乗ったバターの美味しさに感動した。ホクホクのバケットと、その熱で溶けるバター。
ただそれだけなのに、絶品だった。

後で調べてみて、そのバターは「エシレバター」という名前だと知った。
忘れられないこの味は、この本でも出てくる梶井おすすめのバターで、確かに「落ちる味」だと思った。

でもなぜか、食欲が満たされると同時に罪悪感が溢れる。痩せていること、スリムでいること。女性が無意識に強いられるこの抑圧は何だろうと思う。

梶井は、こういった世間的な圧力から完全に解き放たれていた。まわりから見たらデブと言われる身体を、美味しいものを吸収し尽くした肉体だと愛でていた。そういう自信が彼女の魅力だとわかった。

対する里佳や、親友の伶子は社会的にも自立し、家族や恋人、友人にも恵まれているのに、なんだか満たされない感じ。

梶井は男性への愛に対して、以下のように言っている。

男性を喜ばせるのはとても楽しいことで、私にとってはあなたが思うような「仕事」ではないの。男な人をケアし、支え、温めることが神が女に与えた使命であり、それをまっとうすることで女はみんな美しくなれるのよ。いわば女神のような存在になれるの。
最近、ギスギスした雰囲気の女が増えているのは、男の人への愛を惜しんでいるせいで、かえって満たされていないからよ。違いを認めて、彼らを許し、楽しませてサポートする側に回れば、びっくりするほど自由で豊かな時間が待ってるわ。自然の摂理に逆らうから、みんな苦しいのよ。

なんとなく、食で満たされることと、異性からの愛で満たされることは似ていると思った。
彼女のように欲求に忠実であれば、自分が満たされるから、相手を満たせるような。
自分の満たし方を知っているから、それが自信や魅力になるかのような…。

しかし、梶井の特異な魅力に惹き込まれていた里佳も、親友の伶子の努力によって、徐々にその奇妙さに気付き、目覚めていく。

里佳が日常に戻る過程で印象に残ったのは
「適量を知る」ということだった。
現代人は、レシピの「塩少々」という表記の、この「少々」がわからないらしい。各々の適量を知れば、自ずとわかるはずなのに。
里佳も梶井もみんな、適量がわかってなかったと思う。
生きるためには、世間的なしがらみも、自己愛も、どちらも"適量"必要なのかもしれない。

本作では、梶井が殺人犯かどうか、という結論ははっきり出ておらず、あくまでも梶井真奈子という人物にフォーカスしている。
フェミニズムについても考えさせられたし、面白かった。

③まとめ

「適量を知る」ということがストーリーを解決に導いたように思ったけど、あらゆることでの適量を知ることは案外難しいと思う。
まずは自分への理解なのかな?

五感をフルに使って、アンテナビンビン立てて、美味しいものを食べて幸せな人生を送りたい…。
と結局ありふれた夢を見るのでした🤤🧈♡

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