見出し画像

デンマークでサッカーをする-3

 保育園や学童保育で過ごしていると、友達をすぐつくる子どもたちのコミュケーション能力に驚かされる。成人してから、しかも外国人と心を交わせるようになるのは簡単ではないと思う。デンマーク人と友人関係を作るのはなかなか難しい、とは現地在住の日本人からよく聞く。デンマーク人と友達になるにはまず語学力だが、プラス、もう一つ違う形のコミュケーションの手段を持っていると良いと思う。私の場合は「サッカー」だった。

Gymnastikhøjskolen i Ollerup

 

手前が遠藤、奥がサッカー担当教師。フットサルの授業

 フォルケホイスコーレ(Gymnastikhøjskolen i Ollerup)に留学していた時、サッカーの授業があった。サッカーは、ハンドボールと並んでデンマークの国民的スポーツで、男女問わず圧倒的な人気がある。私が留学した学校は体操がメインの体育学校だったが、ほとんどの学生がサッカー好きだった。
 日常の草サッカーの試合に女子が混じることがごく普通なのは、デンマークならではだろう。試合中もむしろ女性の方が積極的に動いて、男子に混じってプレーしているのは驚きだった。日本では、なにかにつけ男子の輪の中に女子は入れないような空気があり、遠慮をしたりすることもあり、スポーツでは尚更である。その逆もあるかもしれないが。
 学校が始まった頃、サッカーの授業に参加した。メンバーの名前もわからず、どんな性格なのかもわからないまま授業に参加した。チームメンバーの差配するのは女性で、急ごしらえのチームが作られた。
 サッカークラス担当教師は、審判を担当、当然だが全選手を把握していた。デンマーク人以外にも他のヨーロッパ諸国、南米からの生徒も多くいた。それぞれが自国サッカーの色を出そうとしている様子も見えた。試合前のアップでも、すいぶん気合が入っているようにも見え、サッカー好きが感じられた。


 私のチームメンバーには、ほとんどがデンマーク人だった。試合前にポジション決めを行う。デンマーク人がデンマーク語で話し合いをはじめる。そしてデンマーク人がポジションや戦術を決めてしまうため、デンマーク語がわからない外国人生徒は不満げだった。私はデンマーク語を理解していたこともあり、デンマーク人達の頷きながら聞いていた。しかし堪忍袋の緒が切れてたのか、1人のブラジル人が大きな声で言った。
「英語で話してくれ‼︎」
 気を使ったデンマーク人の女性は丁寧に英語で話しはじめたが、デンマーク人が集まるとすぐにデンマーク語に変わってしまうので、外国人は戦意喪失したようだった。しかし、試合ははじまった。

 前線にはあまりサッカーを好まない長身のデンマーク人。右にも同じくデンマーク人、左は私で、スリートップのような陣形。スタートからプレスをかけた私はすぐにボールを奪い、長身のデンマーク人にパスを渡すと、すかさず強烈なシュートが決め、私たちのチームが開始早々得点を奪った。長身のデンマーク人は「初めてゴールを決めたよ」と大喜びだった。サッカーをあまり好きではないと言いつつも、しっかりとボールを蹴れていることに少し驚きだった。またゴール後のお祭りのような騒ぎが今でも記憶に残っている。
 完璧に流れを掴んでいた私たちのチームは結果的に3−0で勝利を収めた。男子に当たり負けない女子たちのプレーにも少し感動してしまった。まだ1勝しただけなのに、「優勝」するぞと気合いを入れていたデンマーク人った。

 試合後には反省会をし、別日にこのチームで戦うことになったが、デンマーク語を解さない他の外国人たちはデンマーク人生徒たちと距離を取っていた。「自分のサッカーをやらしてもらえない」「デンマーク人たちが勝手に決めてしまう」など不満をこぼし、ミーティングには参加しなくなった。デンマーク人には、彼らに気を配って欲しいとは私は思っていたが、両者の中を取り持つほどの語学力が自分にはなく、忸怩たる思いだった。デンマーク語はわずかだが解する自分は、デンマーク人の輪になんとかとどまり、楽しむことができた。

フットサルの授業にて

 サッカーの授業は私とデンマーク人との距離感を縮めてくれた。デンマーク人の友達が増え、休みの日があればサッカーの練習をするようになった。そんな時間は私にとって、楽しい時間だった。
 好きなもの、趣味を持っているということは、ホントに自分に取ってプラスになることが多い。そんな思いをしながらデンマークの生活を楽しんでいた。


著者紹介 遠藤祐太郎(えんどう ゆうたろう)
1986年東京生まれ、20066年日本児童教育専門学校卒業。
2009年に保育士資格を取得。
立川市内の保育園に勤務した後、2014年8~12月までオレロップ体育アカデミー(フォルケホイスコーレ)留学。
2015年2月~8月までデンマークのベァネゴーン イ オレロップ保育園に勤務。同年8月帰国。2018年『デンマークで保育士-デンマークの子どもたちからもらったステキな時間』(ビネバル出版)を出版。
現在は都内の私立保育園と学童に勤務。趣味はスポーツ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?