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ポットとやかんと、いろんな鍋料理

日中はまだ暑いが、ようやく朝晩は、長袖を着たくなるくらいの気温になった。今年は、秋の訪れが遅い気がする。

肌寒くなると、食べたくなるのが「鍋料理」である。

アツアツの鍋をつつきながら、熱燗をキューッと…。頭の中でそれを想像しながら、なじみの居酒屋へ足を運んだ。

「あ、やっぱり!同じこと考えてる人がいた!」

店の扉を開けると、常連さんがすでに鍋を囲んでいた。囲んでいた、といっても、この店の鍋は1人用だから「鍋を前にしていた」と言った方がいいかもしれない。

「お、いらっしゃい。同じことってことは、鍋だね」

「そうそう。やっと秋っぽくなったからさ~。あ、あとお燗ね」

店主に注文しつつ、先に鍋をつついている常連さんの様子をうかがう。どうやら今日は「きのこ鍋」らしい。

「きのこ鍋、ですか?」

「そうそう。お魚とかお肉も追加できるみたいだけど、ボクはシンプルに、野菜中心で」

「いいですね~」

鍋料理といっても、今はまだ2種類ほどしかない。でも、もっと季節がすすめば、この店では、ぶりしゃぶや水炊き、豚肉と野菜の「常夜鍋」などが登場する。

通常は「鍋料理は2人前から」という店が多いが、前述のように、この店では鍋そのものが1人前の小さなサイズ。だから、私のような「おひとりさま」でも、気軽に鍋料理を注文することができる。

「はいよ~。お待たせ」

店主がカウンター越しに、出汁と具材の入った小さな鍋を差し出した。すでにセットしてある小型の卓上コンロにそれを乗せて、火をつける。

「そういえば、鍋料理って、英語でなんていうんですかね?」

「鍋料理?さぁ…。いわれてみれば、考えたことないね」

私は早速、手元のスマホでググってみた。そして案外、簡単な単語で表現できることに、ちょっと拍子抜けした。

鍋料理は 「ホットポット(Hot pot)」

日本の鍋料理は 「ジャパニーズホットポット(Japanese hot pot)」

単にホットポットというと、中国の「火鍋」や韓国の「チゲ鍋」など、いろんな鍋のことをいうらしい。

「ホットポット?!あったかい、ポット?」常連さんも目を丸くしている。

「ポット」といえば、お茶をいれる時に欠かせない、電気ポットやティーポット、コーヒーポットを思い浮かべる。鍋、というよりも、やかんのようなイメージだ。

「やかんはケトルっていうよねぇ…。でも、日本じゃ、電気ポットと電気ケトルとか、似たようなものだもんね」

「なんだかね、英語でポットっていうと、深めのお鍋のことをいうらしいですよ。だから、鍋料理はホットポットなんですって」

「ホットって、熱いって意味もあるけど、辛いって意味もあるよね?だから、辛い火鍋はホットポット?」

「ああ、いわれてみれば…。ってことは、熱い鍋と辛い鍋で、ホットホットポット?」

「ホットホットポット?そんなわけないでしょ!」

そうこうしているうちに、私の鍋もグツグツと音を立て始めた。火を弱め、ポン酢の入った小皿を手にする。小さなお玉で豆腐をすくって、小皿に入れた。

アツアツ、ハフハフ、アチチ…。

「ん~、今年初のお鍋も、おいひい~!」

鍋をつつきながら、お燗酒をちびちび。寒い時期は好きではないが、この楽しみだけは、寒くなくては味わうことができないのである。


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