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【3】 スリランカへの誘い / アーユルヴェーダ in スリランカ 〜人生を変える医療~


古くから旅人は旅先から呼ばれると語る。その場所に行きたいという思いよりも行かなければいけない気がするのだと。

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かくいう僕もそれを信じる一人であった。旅人が口にするその言葉の真意は、ある日を境に不思議とその場所の話や情報が聞いてもいないのにどんどん集まってくる事を指すのだと僕は思っている。そしてその情報群の点と点が重なり合って、いつしかその場所に呼ばれていると錯覚するのだ。それは僕にもまた訪れた事実だった。


僕が倒れる前のとある日、旅好きの女性が一冊の本を突然僕に持ってきてくれた。「COLOUR」というタイトルのスリランカの街並みや自然豊かな風景を色とりどりの色彩で切り取ったなんとも美しい写真集だった。


「きっとこの本を気に入る思ってね。」と突然僕に手渡した。


気まぐれなその彼女は多くを語らなかったが、スリランカで味わった感動を旅好きの僕にも共感して欲しかったのかもしれない。僕が一番スリランカに近い男だと見込まれていたのかもしれない。その真意は未だ謎に包まれたままだが、僕は彼女の思惑通りその本に魅了された。


その「COLOUR」というタイトル通り、ページをめくると眩いほどのオレンジ色の夕日に染まったスリランカのビーチや、どこまでも透明な青空を背景に深い海のような濃い緑が連なる広大なジャングル、そのジャングルに生きる野生性に満ちた色鮮やかな動植物達。そして仏教建築が入り組んだ極彩色豊かな街並みや、その街に溶け込む赤やオレンジの民族衣装を着飾る人々の美しい姿が其処にはあった。インド洋に浮かぶかくも小さな島国に、こんなに色に満ちた桃源郷があるのかと僕は目を奪われた。


ただしかし、その時点はスリランカにどうしても今すぐ行こうという思いまでには至らなかった。それはあくまで写真の中のでの感動で、行くという動機にはまだ少し何か足りない気がしていた。

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しかし「COLOUR」の本を手にして以来、不思議とスリランカの情報、正しくいうとスリランカのアーユルヴェーダの情報がよく雑誌や書籍等で取り上げられるようになっていった。僕が良く目を通す雑誌でも、愛読する著者からも、昨今の健康ブーム、オーガニックブームが相まってか、こぞってスリランカのアーユルヴェーダの話題が取り上げられ始めた。その本をくれた彼女に先見の明があったのは間違いないが、何かのまじないにでもかかったかのよう、どんどんどんどん情報が入ってくる。気がつけばその情報の量に比例して僕のスリランカへの気持ちは高っていった。

それでもその時点ではまだスリランカに行くには何か足りない気がしてた。呼ばれていると錯覚するにはまだ早い気がしてた。


そしてそこから半年ほどの月日が流れ、僕は身体を壊し倒れた。


ある時、僕が家と病院の往復の日々を過ごす中、一組の友人カップルがスリランカに行ってきたとお土産を持って来てくれた。その際に僕は初めて生でアーユルヴェーダでの治療を受けた人の話を耳にした。するとそれまでに雑誌や書籍などで見聞きしたアーユルヴェーダの情報が頭を駆け、過去に置かれていた情報の点と点が結び付つき互いが覚醒したかのように、一つのアイデアが僕の頭の中に押し寄せた。


「スリランカへ行こう。」


僕は日々どうしたらより早い回復への道を歩めるだろうかと模索し、国内の療養施設や実家で療養する事さえ検討していた。アーユルヴェーダは全ての点において上回った最善の治療方法のように思えた。
この無限に続く不安のループから抜け出す光の道かもしれない。僕はそう信じていた。いや本当は、その光に思えた道は、すがる最後の藁だったのかもしれない。ただ僕はその最後の藁を最後の光だと信じ切っていた。馬鹿な話だが、アーユルヴェーダの理論も方法も詳しく知らないのに、アーユルヴェーダに行けば必ず今の状況を脱出できると胸の中に確信に似た希望の光を感じていた。

僕は自分でも驚くほど早いスピードで旅の手はずを整え、そして1週間後にはスリランカへ旅立った。

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アーユルヴェーダとはインド・スリランカで生まれた5000年以上の歴史を持つ世界最古の伝統医療であり、誤解を恐れずざっくり言うと僕ら日本人にも馴染みのある漢方の考え方に近いようだ。人間の自己治癒力を高める様々な薬草や食事、自然のオイルを用いたマッサージなどを治療のメインと置く東洋医療。厳密的には漢方とは全く異なるアプローチ方法のようだが、医療の医の字も知らない素人の僕のような人間からするとそれくらいの認識しかないかった。

しかし興味深かったのは、スリランカ国内で長く続いた内戦を後に政府指導の下、アーユルヴェーダを用いた医療ツーリズム(医療の観光業)を立ち上げ世界にアールヴェーダを発信し多くの欧米人を惹きつけた事だ。それが今では国の大きな柱となり、アメリカ、ヨーロッパ諸国からバカンスを使ってスリランカに治療、療養の為に訪れている人が増加しているという。とりわけ医療先進国であるドイツ、イギリス、アメリカ人が多いと聞く。


自国の先進医療にもまさる神秘の医療がそこにはあるのだろうか。この謎は大いに僕を惹きつけた。

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僕がすぐさまスリランカ行きを決意できたのはいくらかの理由があったからに他ならない。東京で生活しマッサージや鍼灸治療、プールに通う事を考えると、アーユルヴェーダ施設では東京で行っていた全ての治療方法が一つの施設内で完結できる。それに海に近く緑豊かな穏やかな環境で過ごせる為に心的ストレスも少ない。食事も朝昼晩と3食バランスのとれたものが提供されるらしく、国家資格を持ったドクターも24時間体制で在中していると言う。これは言ってみれば僕の望む条件をすべて揃えた病院に入院するみたいなものだ。

加えてその価格の安さも魅力的だった。スリランカの物価は日本のおよそ3分の1。ざっと計算しても東京の一ヶ月の生活費に少しプラスするだけで宿泊代を含めた生活費が補える。行かない理由がなかった。何より東京を離れるべきだという自分の心の中にも追い風を感じていたのも大きい。

唯一の不安はホテルまでの道のりだった。しかしながら、このボロボロの身体の状態で無事に現地に辿り着けるだろうかという一抹の不安はホテルからのメールにより解消された。ホテルスタッフが空港まで迎えに来てくれると言う。成田空港までの道のりさえ乗り越えてしまえば後は座っていてもホテルまで自動的に着くのだ。


旅慣れていない人にとってはスリランカへの道のりはとてもつもなく遠い道のりに思えるかもしれない。距離的にはもちろんだが、日本ではスリランカの情報がまだまだ少なく、日本人にとってのスリランカとの心の距離感はとても遠い。幸い僕は、仕事やプライベートでも頻繁に海外に出ていた事もあり、そこのハードルは国内に旅行するくらい低かったのが救いだった。


全ての不安を胸の奥にしまい込み僕はスリランカへ向かった。

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