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【咲かずの贈り物】

訳あって、六年働いた
施設を辞めました。
2020年のことです。

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その施設を去る前に、ひと月ほど掛けて、空き地に利用者さん達と庭を作り、花や木を植えました。庭造りのほとんどの物、石や土や花や木は、川辺や野山、施設の陰の軒下とか、職員や利用者さんの家庭から調達しました。

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また、百合の球根を
施設の近くの市民の方から
ひとつ頂きました。それを
8個ほどに分けて植えました。
百合の花は品種により
6月から8月にかけての夏に
咲くという。
どんな花色だろうな?
早春に芽が出て草丈が伸び、
つぼみが膨らみ始めた5月末、
私は辞めたので、
ついぞ花を見ていません。
それから、
月日は過ぎて秋となり、
冷たい露が降り始めた頃、
「こわれもの」と表示された
小包が私宛に届きました。

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??
割れ物なんか注文してないが・・
送り主も確認せずに、
箱を恐る恐る開けると
くしゃくしゃの新聞紙の

包みの中から
ぽろり
あっ!

百合の球根が
ひとつ出てきました。
そして、
箱の底に手紙がありました。


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「拝啓」
「〇△先生お元気ですか」
「一緒に皆で植えた百合」
「いっぱい いっぱい いっぱい!」
「咲いたですよ!」
「キレイかったです」
「心を込めて」
「球根を送ります」
「贈りますです」
「ありがとう♡」
~令和3年10月30日~
~〇◇園利用者一同~
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書かれた12行の一行一行は
寄せ書きでした。
それぞれ
ボールペンだったり
マジックペンだったり
蛍光ペンだったり・・
大きな字の一行であったり
弱々しく小さかったり
踊っていたり
斜めだったり

この字はあの人の字
俺よりも上手いなあ。
これはあの娘の字
可愛い漫画文字。
がは、
このカナ釘は
やんちゃなあの男の子だ。
個性の文字の花が
爛漫に咲いていました。

懐かしい顔、
笑っている顔、
泣いている顔、
怒っている顔、
顔、顔、顔が脳裏をよぎり
胸がキュンと息詰まり
目頭が・・・

いま
鉢に植えた球根は
大きく育っています。
花はまだかまだかと
毎朝、水やりしています。
でも、まだ咲きません。
利用者さん達から
送られてきた、
そう、贈られた百合。
まだ咲かない百合。
その百合からの贈物。
それは
水滴の真珠。

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この真珠は儚い命で
昼前には消え失せるけど、
また明日の朝、
忘れとらんけん!
と現れてキラキラ輝き、

そしてやがて
咲かずの百合に
花が咲きます。

今となっては
遅すぎるけれど。

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