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回転ずしのマグロはアカマンボウか?(結論は出していません)

 長々読んで損した、と思われるのも申し訳ないので、最初に書いておきますと、タイトルにある通り結論は出していません。ただ、軽く検索した限りこの話はかなり怪しいと思いました。
 この文章の趣旨は以上ですので、以下は小ネタエッセイとしてお楽しみください。

 以前から時々、ネットの雑学系の記事で見かける話題に「回転寿司でマグロとして売られている魚は、実際にはアカマンボウである」というものがあります。この手の話題では特別面白いもの以外は「ふーん」で流してしまうので、これも特に気に留めていなかったのです。ただそこそこ頻繁に目にするので何となく意識には残っていたようで、ある時ふっと「あれ?」と疑問が浮かび上がってきたのです。

 十年くらいかもう少し前に、食品表示の厳格化があったはず。それは「鮭弁当も『サーモントラウト弁当』と表記しないといけなくなるかも」と話題になるほど厳しいものだった。それなのにそんな前時代的な表記が可能だろうか?

 前時代的というのは、かつてはあまり食材として馴染みのない魚、特に食品として流通に乗るようになったばかりの輸入魚や深海魚には、○○ダイだの○○ダラだのという名前で流通していたという時代は確かにあったらしいからです。小学生くらいの頃、母から「この魚は○○(一般的に馴染みのある魚の名前)って付いてるけど、○○とは全然違う深海魚なんだよ」と教えてもらった記憶もあるのですが、それが具体的になんのことだったのか思い出せません。ざっと検索したところメルルーサがかつて「シロムツ」、メロが「銀ムツ」として流通していたという例は見つけることができました。
 魚類以外では三河湾の特産で、伝統的に「大アサリ」と呼ばれていた貝がスーパーで「ウチムラサキ」と表記されていたのは、自分で実際に目にしたことがあります。ひょっとして「大アサリ」って使えなくなったんだろうかと、その時も表示の厳格化について思い出しました。

 さてまずは「アカマンボウ 都市伝説」で検索してみます。いきなりバイアスがかかっているのは承知の上。パソコン一台で事実を突き止めるなんてのは不可能ですので、まずは正しい知識のような顔をして出回っている情報にどんな反論があるのかを見ていこうと思うのです。
 一つ目にでてくるブログで、いきなり「デマです」と断言されてしまってます。漁獲量が少なく、安定供給できない。マグロとして売るより、アカマンボウとして出した方が話題性があるのでは、と散々です。
 「アカマンボウ 都市伝説」でWikipediaもでてきます。「所謂都市伝説である」とバッサリです。

 普通に考えて安定供給されないものは、大手チェーンではたとえ安くても限定ではないメニューとしては扱いにくいでしょう。既に結論が出てしまったような気がします。ですが確認のため、今度は「アカマンボウ 漁獲量」で検索。なんだかさっきと似たような検索結果で、具体的な漁獲量の出てきそうなページがありません。さらに「アカマンボウ 漁獲量 水産庁」で絞込み。でも統計資料みたいなものはヒットせず。
 調べていくうちにこんな記事まで「謎の巨大深海魚アカマンボウをカメラがとらえた」。日本の事情ではないですが、そこそこ良い値段で売れるものの、アカマンボウ漁はされていなとのこと。群れをつくらないのでアカマンボウだけを狙って漁をするのは採算に合わないので、マグロやカジキ漁で混獲されるものが流通する。ということで、ここまでチェックしてきた個人ブログなどと同様の内容がナショジオでも書かれているのですね。

 ここで調べるのを打ち切ることにします。ネットで調べただけで嘘と断定するのは危険ですが、アカマンボウが「マグロ」として提供されているという話は、限りなく疑わしいですね。Wikipediaの記述と同じく都市伝説と断定しちゃってもいいんじゃないかと、個人的には思います。少なくとも自慢気に「回転寿司のマグロは、アカマンボウなんだぜ」とか言ったら、恥をかくことになるリスクがかなり高そうです。

 ところで思い出してみると、かつては大手ハンバーガーチェーンでも似たような噂がありました。パティに通常は食用にしない生き物の肉が使われているというもの。かつて牛肉が高級品のイメージがあった時代に、そのイメージを覆すような価格でハンバーガーを提供したチェーン店に対する、冗談交じりの不信感の表明のようなものがあったのかもしれません。「冗談交じり」というのは、その噂を大真面目に信じていた大人がどれだけいたか、と思うからです。

 考えてみれば、ここ二十年くらいでしょうか、もっと前からでしょうか、大西洋産のクロマグロの枯渇が大きな話題になり、太平洋産のクロマグロまで巻き込んで国際的な保護の対象になるのではないか、というような報道があったりしました。
 それでなくても元々、寿司は高級品だったわけです。(江戸時代まで遡ればファストフードだったという言い方もできるでしょうが、握り寿司をファストフード扱いできたのは漁場と消費地が極端に近かった江戸の立地があればこそでしょう)それが冷凍・冷蔵技術の進歩や、流通・販売にかかわる企業努力でスーパーや回転寿司で安い寿司が食べられるようになり、とうとう100円寿司チェーンの登場に至ったということを考えると、マグロとアカマンボウを巡る噂は、かつてのハンバーガーを巡る噂の繰り返しと言えるのではないかなぁという感想がわいてきました。

 今後もこの話題についてはアンテナをちょっと伸ばしておきたいと思います。ひょっとして興味深い新事実に突き当たったら、追記したり新しい文章を書くかもしれません。

(2023・2・18追記)
 アカマンボウの写真をTwitterに上げている方がいたので、貼り付けておきます。アカマンボウってこんな魚です。
 鮮魚を扱うプロの方が「珍客」と呼ぶことの意味を考えると、やはりマグロの代用にするのは無理があるでしょう。

 トップ画像は「みんなのフォトギャラリー」からお借りしました。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。本業のサイトもご覧いただければ幸いです。

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