畑 依裕

本の話をしたり短歌を作ったりします。

畑 依裕

本の話をしたり短歌を作ったりします。

最近の記事

2023年・今年の10冊

毎年ひとりで開催している「自分が今年読んだ本の中から10冊を選んで振り返る」企画です。今年読んだ本から選ばれるので今年出た本とは限りませんし、10冊になるとも限りません。 本年の結果は以下の通りです。分冊が多いので実際よりも多く感じるかもしれません。それはそれとして11冊あります。 バルザック『ラブイユーズ』(光文社古典新訳文庫) やっぱりバルザック先生はすごい。ナポレオン信奉者からのならず者というルート、日本で言うと明治維新乗り遅れの悲哀みたいなものもないではないかもし

    • 2023年12月 読書メモ

      毎年年末にその年読んだ本から10冊選ぶ遊びをしているので、12月はちょっと間隔が詰まって忙しくなってしまう。来年からこの記事をどうするか考えないと。 『蒸気駆動の男 朝鮮王朝スチームパンク年代記』(早川書房) 韓国の時代劇を見ている人はぜったいに面白いはずなのでぜひ読んで下さい。知ってる!!と思うはず。見ていなくてもタイトルなら知ってるような人物や事柄が出てくる時代小説。時代が時代なのでしんどい話も多いが読む価値はある。一人(人?)の男をずっと追いかけているところもいい。

      • 2023年11月 読書メモ

        今月を見ただけでこの記事を書いている人間のミステリの趣味がわかりそう。今月読んでいるようなミステリが好きです。 ポール・アルテ『吸血鬼の仮面』(行舟文化) 相変わらずカーが大好きな人の書いた小説で嬉しくなってしまう。まずは途方に暮れるような謎を山ほど用意する→からのちゃんとした解決、びっくりするくらい常識的で普通にできるトリック。 ただ人が死ぬ数は多くてそこはカーとは違う。とは言いますが、カーにもシリアスな作品はあるのでその辺りを連想できる。 カーター・ディクスン『五つの

        • 2023年10月 読書メモ

          振り返るとどうも過去に実績のある著者やレーベルに偏ってませんか?という感じがある。面白かったのは確かですがもっと冒険したい。 ローラン・ビネ『文明交錯』(東京創元社) 作者の名前とテーマでもう面白いことがわかってる本じゃないですか? 実際に面白くて何も言うことがない。歴史のパロディに毒があってよろしい。 ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザ『過去を売る男』(白水社エクス・リブリス) エピグラフだけではなくボルヘス的だった。ずっと茫洋とした話をしているしまさかの展開もあり、よ

        2023年・今年の10冊

          2023年9月 読書メモ

          この月は『サラゴサ手稿』を読み終わりました。他には劉慈欣に手を着けたので、読書が趣味の人にとっては大きな動きがあった月。 アンソニー・ホロヴィッツ 『カササギ殺人事件〔上・下〕』(創元推理文庫) みんなネタバレに配慮しているのかそこは気にしてないのか、それ以外の理由かであまり触れている人を見かけないのですがこれは作家についての小説では?著者の興味がそこにあるのかは別として結果としてそういう作品になっている。 作家(とそれに関わる人々)の業とか嘔吐を催す面についてであり、でも

          2023年9月 読書メモ

          2023年8月 読書メモ

          国際関係についての本をたくさん読んだ。そういう本だと思わずに読んでも出てくるものなので。 大木毅『独ソ戦 絶滅戦争の惨禍』(岩波新書) 本当に得るものが何もなくて戦争にうまいも下手もないなという気持ちになった。始めないのが最良。それとこう、日本でも旧日本軍の海軍はまともだったみたいなことを言う人がいますが、そういう人ってドイツにもロシアにもいるんだなぁと思った。 ジャック・ロンドン『赤死病』(白水uブックス) 続けて人間がひどい話を読んでいる。ちょっとタイトルとか作者名か

          2023年8月 読書メモ

          2023年7月 読書メモ

          各所の話題作をていねいに潰していった感じのある月。並べると笑っちゃうくらい尖っている。 宿野かほる『ルビンの壺が割れた』(新潮社) 真相にはそんなに驚かなかったのだが(こいつ気持ち悪いな……と思いながら読んでいたので)この小説を懐かしく切ない叶わずじまいの恋物語だと思って読むのが一番きもちわるいですよwwwwという作者の意地の悪さが見えたので五億点。別にそういう意図がなく書かれてたのだとしたら5点です。 ピーター・スワンソン『アリスが語らないことは』(創元推理文庫) ミス

          2023年7月 読書メモ

          2023年6月 読書メモ

          毎月amazonへのリンクを張るのが結構な手間なので、メモとしてはそこまでしなくてはいいのでは?という気持ちで省略することにする。 レオン・サジ『ジゴマ〔上・下〕』(国書刊行会) Wikipediaがフランス語と日本語しかない! ファントマは26言語あるのに! 本当になんでこんなに日本でうけて1980年代になってから東映の子ども向け特撮に出たりしたんですか? お話は面白いけどなにぶん新聞連載小説なのであっこれ部数増やそうとしてるな……というのは強く感じる。でも面白いので文句

          2023年6月 読書メモ

          2023年5月 読書メモ

          時ならぬイーヴリン・ウォー祭、と言いたいのだがイーヴリン・ウォー祭が時は今ってなるのいつですかね。今じゃないの? フォルカー・クッチャー『死者の声なき声〔上・下〕』(創元推理文庫) まず歴史物の味わいがある。トーキー、ナチ党、糖尿病、このへんは二十世紀前半のこの時期にしか出せない味。 『デカメロン・プロジェクト』(河出書房新社) ボッカッチョは一人だったから完成までに何年かかかったそうだがこちらはみんなで書いているのでそんなにはかからなかった。河出書房新社と白水社エクス・

          2023年5月 読書メモ

          2023年4月 読書メモ

          「知り合いにものすごく会う」みたいな月でしたね。 ルイザ・メイ・オルコット『仮面の陰に あるいは女の力』(ルリユール叢書) 最高でしたね。主人公の詰めが甘くてちょっとはらはらするけどちゃんとハッピーエンドになるので文句の付けようがない。なにぶん騙される側の上流階級の皆さんがイヤすぎて、これはもう主人公を応援するしかないじゃないですか。 帯に引用されている主人公のセリフも味わい深い。 若草物語そんな面白くないよね?と思っている人にはぜひ読んでいただきたい。著者がこういう小説を

          2023年4月 読書メモ

          2023年3月 読書メモ

          なんとなく選ぶといつの間にかミステリになっている。 伊藤典夫編訳『吸血鬼は夜恋をする』(創元SF文庫) 1950~60年代の短篇集なのだが、まあびっくりするくらい男性が主人公の話に偏っていて平板なことったら。バリエーションが獲得される以前の歴史が肌で感じられる一冊でありました。面白いは面白いがこの頃の世界にタイムスリップしたくはない。面白いは面白いですが。いや面白いですよ。面白いのは。 フリオ・リャマサーレス『リャマサーレス短篇集』(河出書房新社) 『黄色い雨』がだいぶす

          2023年3月 読書メモ

          2023年2月 読書メモ

          河出書房新社の本が多いので画像は国立競技場です。作品社の本が多い月には旧竹書房ビルにするの? マルカ・オールダー/フラン・ワイルド/ジャクリーン・コヤナギ/カーティス・C・チェン『九段下駅 或いはナインス・ステップ・ステーション』(竹書房文庫) 日本がこうなった事情が実にありそうで、われわれが気にしてることをよく調べていらっしゃるなという面白さがある。 シーズン1全10話のもくじが海外ドラマのようでわくわくしてしまう。最終話はちょっと延長している。 ヴィルヘルム・ゲナツィ

          2023年2月 読書メモ

          2023年1月 読書メモ

          これまでTwitterでやっていた最近読んだ本のちょっとした記録。 本当にちょっとした記録なのであらすじとか内容を詳しく知りたい人は各自お調べ下さい。 出版社の人のエゴサで引っかかるように始めたのですが、いまどきTwitterだけでエゴサしてる会社もないだろう、ということでこれからはnoteです。 ジョージ・W・M・レノルズ 『人狼ヴァグナー』(国書刊行会) ものすごい低俗だけど歴史小説の風格があって面白かった。タイトルの人物より姫の造形が最高だし16世紀地中海世界を背景に

          2023年1月 読書メモ

          2022年・今年の10冊

          毎年ひとりで開催している「自分が今年読んだ本の中から10冊を選んで振り返る」企画です。今年読んだ本から選ばれるので今年出た本とは限りませんし、10冊になるとも限りません。 本年の結果は以下の通りです。 今年の日本で起きた最大の事件といえばヤン・ポトツキ『サラゴサ手稿』完全版新訳の刊行開始ですがまだ完結していませんし、そもそもあれを入れると「今年の2冊」になって終わってしまいますのでここには含めていません。 フランシス・ハーディング『嘘の木』(東京創元社) あまりそういう印

          2022年・今年の10冊

          2021年・今年の10冊

          これは「自分が今年読んだ本の中から10冊を選んで振り返る」という企画です。今年読んだ本から選ばれるので今年出た本とは限りませんし10冊になるとも限りません。 本年の結果は以下の通りです。 スチュアート・D・ゴールドマン『ノモンハン1939』(みすず書房) そうか下克上って日本特有の悪なのか……という気付きがあった。確かに中国産でもないしキリスト教世界にも見かけないな。当たり前ながら「弱いものが強いものを倒して痛快」なんて単語ではないからな。そりゃ日本軍もあかんようになる。

          2021年・今年の10冊

          まだたき火をしている(『蛇の言葉を話した男』の話)

          アンドルス・キヴィラフク『蛇の言葉を話した男』(河出書房新社) 具体的な年代は誰も言わないからわからないがエストニアにキリスト教が広まりはじめた時代の話のようだ。主人公は森の中で家族とともに暮らしているが先行きはあまり明るくない。村に住む子どもたちは新しい名前をもらってだんだん文明化していきそうな気配がある。古い社会が滅びようとする時代の話ではあるのだけれど、歴史的背景は断片的にしか見えないので、遠い未来の人間が滅びようとする世界で、何か新しい信仰が生まれはじめたころの話で

          まだたき火をしている(『蛇の言葉を話した男』の話)