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2023年11月 読書メモ

今月を見ただけでこの記事を書いている人間のミステリの趣味がわかりそう。今月読んでいるようなミステリが好きです。

ポール・アルテ『吸血鬼の仮面』(行舟文化)
相変わらずカーが大好きな人の書いた小説で嬉しくなってしまう。まずは途方に暮れるような謎を山ほど用意する→からのちゃんとした解決、びっくりするくらい常識的で普通にできるトリック。
ただ人が死ぬ数は多くてそこはカーとは違う。とは言いますが、カーにもシリアスな作品はあるのでその辺りを連想できる。

カーター・ディクスン『五つの箱の死』(国書刊行会)
カーのファンが「こんな奇怪な事件が本当に合理的に解決されるのか?」と思わずにいられないネタを出してくる一方、カー本人は「何?」みたいな謎を出してくるので、ほんとにもう誰も勝てないなって思いますね。
例によって男女のラブコメはあるしHM卿は登場から大暴れだし章のラスト一行でものすごく気になる引きを用意するし、手堅く小説としてうまいのですがそれはそれとして提示される謎は「何?」で素晴らしかった。何?
※このコメントは全人類がカーター・ディクスンとジョン・ディクスン・カーが同一人物であることを知っている前提で書かれています

唐嘉邦『台北野球倶楽部の殺人』(文藝春秋)
第六回島田賞受賞なんですが本当に島田荘司が書きそうな小説で嬉しくなってしまう。不可能だが怪奇ではない犯罪と社会問題に取り組む姿勢と足を使いよく話を聞く刑事。

グザヴィエ・ド・メーストル『部屋をめぐる旅 他二篇』(幻戯書房)
決闘沙汰で謹慎中に書いた部屋から一歩も出ない旅行記。18世紀の旅行ブームの最中に、紙上旅行とか想像の世界旅行というわけじゃなくて本当に旅行記をまじめに書いている。政治的に割と過激な人らしく、他二篇にそのあたりがうかがえて面白い。
訳者解題がnoteにある。https://note.com/genkishobou/n/n4ac6690f230b

パトリック・シャモワゾー『カリブ海偽典』(紀伊國屋書店)
クレオールの歴史についての小説だと思って読み始めたらそれに収まる話ではなかった。主人公はカリブ海のみならず世界各地をめぐっているし、語り手と記述者についてのテキストでもあった。語り手と言ったけど副題が「最期の身ぶりによる聖書的物語」なので、声に出して語っているわけではない

カーソン・マッカラーズ『マッカラーズ短篇集』(ちくま文庫)
クィアとしか言いようがない人間と人間の関わりがある。冒頭の中編「悲しき酒場の唄」がね、もうすごかったので、こんなところにいないで早く読んで呆然としてほしい。


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