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ブランコがある家

遮るものもない澄んだ青い空。たまにゆっくりと小さな雲が横切っていく。時間はゆっくりと流れ、空を眺めている私はゆっくりとブランコに揺らされている。ベンチのようなブランコは横になってもゆったりできるくらい大きい。ジョーラ(Jhoola)と呼ばれる西インドのグジャラート州の家でよく見かけるブランコ。そこに来たら誰もが座りたくなる。そよ風が頬にあたり、花の香りが漂う。時期になると様々なハーブやスパイス、フルーツが育つ。そのまま食べることもできるし、ブランコの隣にある家に持って行って何かを作ることもできる。その家はキッチンが真ん中にあり、誰もが入って調理することができる。庭で取れたスパイスやハーブは干して乾燥させて保存することもできるし、フレッシュなうちに調理することもできる。

 ブランコがある家には色々な国や地域から様々な人たちが訪ねてくる。料理を追求したいシェフ、ハーブを勉強したい料理研究家、菜食料理を習いたい主婦、スパイスの歴史を調べる人類学者、アーユルヴェーダを学びたいお医者さん、現実に疲れたOL、自分を探しに来た大学生。と日々様々な人がやってくる。そんな人たちが料理を一緒に作ったり、音楽家がやってくると演奏を庭で聞いたりしている。キッチンがある家には世界中の調味料が並んでいる。そして世界中の人たちがそれのためだけに旅をしてくると言っても過言ではないインド全土から集めた上質なスパイスたちが棚に並んでいる。どれも美しく、どれもとても良い香りである。そんなスパイスたちで作った様々なスパイスミックスもたくさんある。それらは訪れた人たちをもっと料理好きにしてくれる。

 美味しい料理。緩やかな時間。好きなことに没頭できる場所。噂で聞いた人は訪れたいと思う。そして一度訪れたらまた訪れたいと思う。

 ブランコがある家にくる人々が交わりあり、ともに料理を作ったり、自分が関心のあることを話したりすることで不思議と化学変化が起こっていく。新たな味が誕生したり、調理法が生まれたりしてくる。ものが動くだけではなく、人が動き交流することで生まれてくるものなのかもしれない。

 真ん中にキッチンがあり、庭にはスパイスやハーブ、フルーツが育っている。大きなベンチのようなブランコにはいつも誰かが座っている。今日の空も青く、雲はゆっくりと流れている。美しい香りが漂い、穏やかな笑い声が聞こえてくる。

 様々なところから人が訪ねてくる、インドの上質なスパイスを求めて。

 ブランコがある家。世界で一番行きたいスパイス屋さん。学びがあり、気持ちを穏やかにしてくれる場所である。

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