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名盤と人 第4回 フロントマンの交代 「Livin' on the Fault Line」 ドゥービー・ブラザーズ

音楽と人が好きだ。ミュージシャンとミュージシャンとの出会いから別れ、成功と苦悩を名盤を通して書き連ねるシリーズ企画。

Michael McDonaldJeff Baxterというスティーリー・ダンからドゥービー・ブラザーズに移籍した2人。彼らの存在がバンドを全く違う方向に導く。この2人の協調から対立を振り返る。

1974年 スティーリー・ダンからJeff Baxter脱退、ドゥービーに参加
1975年 Michael McDonaldがスティーリー・ダンの「Katy Lied」に参加
    ドゥービー・ブラザーズ「Stampede」リリース
    Tom Johnston病気でツアーから離脱、Michael McDonald加入
1976年 「Takin' It to the StreetsMichael McDonald加入後の初リリース
1977年 「Livin' on the Fault Line 」リリース
    Tom Johnston脱退
1979年 ドゥービーからJeff Baxter脱退

彼らにとって7枚目
中ジャケット

Tom JohnstonからMichael McDonaldへの交代劇

ロック史の中でフロントマンの交代劇を鮮やかに乗り切った代表的な例は「ドゥービー・ブラザーズ」であろう。
Stampede」(1975年)までの5枚でイーグルスと並ぶ全米を代表するバンドにのし上がったドゥービーのフロントマンはギター、ボーカル、作曲のTom Johnstonであった。
その彼が突然の病気で戦線離脱。
解散に追い込まれても仕方がないピンチを救ったのが、スティーリー・ダンの準メンバーだったMichael McDonaldである。
当時彼はスティーリー・ダンのツアーメンバーから、1975年にドラマーのJeff Porcaroと共に「Katy Lied」で準メンバーに昇格していた。
しかし同年、元スティーリー・ダンでドゥービーに加入していたJeff Baxterの誘いを受け、Tom Johnstonの代役としてにドゥービー・ブラザーズに加入する。
Michael McDonaldにしてみると無名の存在から、一気にスーパーバンドのフロントマンになる1975年は怒涛の展開だったはず。

翌年の1976年マイケルが加入後に制作されたのが「Takin' It to the Streets」。そして続いてリリースされたのが、この「Livin' on the Fault Line 」(1977年)である。
本作は地味な内容と言われヒット曲も出ずセールス的に振るわなかったため、過小評価されていたが、近年では最高傑作に押す向きもある。
日本でも邦題に「運命の掟」と言う難解な題名を付けたこともあり、スルーされがちな作品だ。

1978年リリースの次作「Minute by Minute」は全米1位を獲得、アルバムタイトル曲はグラミーの最優秀ポップ・ボーカル(デュオ、グループまたはコーラス部門)賞、「ホワット・ア・フール・ビリーヴス」は最優秀楽曲に輝き、一般的には彼らの最高傑作と目されている。

その栄光の影で地味な作品として忘れられていたのが本作である。
Tom Johnston参加の最後の作品としても悲しい記憶として残っている。
(クレジットとしては記載されているが実際の参加はないらしい)

一層Michael McDonald主導が強まったと思われるが、創設メンバーのPatrick Simmonsも4曲を提供し、またJeff Baxterもギターシンセを多用しその独特な音色でジャズ的な味付けを強化している。
さらに、ベースのTiran Porterの黒人らしい骨太なプレイが演奏を牽引しKeith Knudsenのドラムもまた流麗で、リズムセクションの素晴らしさも特筆すべき。
Littele FeatやThe Bandのように演奏の上手さが語られることの少ないDoobiesだが、AOR×JAZZ的な音を出すバンドとしての上手さとバンドの一体感はこのアルバムでは際立っている。

Michael McDonaldとJeff Baxterの協調と対立

さて、Side-A 1.の「You're Made That Way」からして凄い。
マイケルのFender Rhodesのイントロにタイランのベースとキースとドラムが被さり、さらにBobby LaKindのコンガとジェフのシンセギターが追う。
後半に畳み掛けるTOTOのDavid Paichアレンジのホーンも素晴らしい。
あまり語られることがないが、ドゥービー時代のマイケルの作品としてはNO1だと思う。
ライブの演奏も少ないが、貴重なライブ映像を貼っておこう。

そしてSide-A 5.のタイトル曲「Livin' On The Fault Line」も凄い。
このジャズ・フュージョンと言っても過言では無い革新的意欲作はPat Simmonsの作品。
彼らのならではのコーラスワークと繰り返し展開されるクールなインプロビゼーション。ジェフのジャズギター、ゲストのVictor Feldmanのvibes 、パットの生ギターのソロとスティーリー・ダンよりもジャズ的要素に溢れている実験作だ。
タイランのベースとキースのドラムのリズムセクションも名演だ。

このアルバムはマイケルとパットと言う資質の違うボーカリストの競演も聴き所だが、ギターシンセを使った癖の強いJeff Baxterのギターがフューチャーされ、これが普通のAOR的な音楽と一線を画する要素となっている。

AOR的なR&Bのマイケルと革新的な曲構成のパット、そしてジェフのジャズアプローチが一体化し、洗練されクールな演奏が展開される。

実は次作の録音中にスティーリー・ダンの同僚だったMichael McDonaldとJeff Baxterが音楽的に対立し、結果としてグループは一時的に解散し、再度始動したドゥービーにはJeffは加わらなかった。
さらにはジョン・ハートマンも脱退し大幅なメンバー交代となった。

洗練されたAOR寄りのR&B志向のマイケルと過度なジャズ志向でギターソロを弾きすぎるジェフの間での対立らしい。

プロデューサーのTed Templemanの伝記によると、最初のシングルSide-A 3.の「Little Darling」にサックスのソロを入れたかったが、ジェフのゴリ押しでギターソロに変わったらしい。
その辺りから亀裂が生じていたのか。

次作では亀裂を生むマイケルとジェフが「Livin' on the Fault Line」では協調してR&B×Jazz×AORの素晴らしい化学反応を生んだ。

Ted Templemanは伝記でグラミー獲得の後、本作より劣る「Minute by Minute」でまさか獲得できるとは思わなかった、と述懐し「売れなかったがLivin' on the Fault Lineがお気に入りだ」と述べている。

バンドの音楽性は、Tom Johnstonの好きなストレートなアメリカン・ロックから、洗練されたAOR色の強いものへとさらに変化していった。
最もロック色が薄く、ソウル、R&Bそしてジャズ、フュージョン色が濃厚なサウンド。
当時流行のAORとして完全なサウンドをセッションプレーヤーを使わず、自前の演奏で作り込んだところもまた大きく評価できる点だ。

最後に音楽評論家の高橋健太郎による『Livin' on the Fault Line』(運命の掟)に関するインタビューを引用したい。

サンダーキャットの『DRUNK』(2017年)への客演などがきっかけになって「マイケル・マクドナルドって実はすごいんじゃない?」と考えるようになって。それで改めて1970年代後半のドゥービー・ブラザーズを聴き返してみて、この『運命の掟』の面白さに気づいたんです。本作の後に『Minute By Minute』(1978年)という大ヒット・アルバムがあってそっちの方が有名なんだけど、いまの耳で聴いてみたら『運命の掟』の方が断然クールだなと思ったんですよ。

Otonoy

今年の8月、初のソロアルバムをリリースしたジェフが来日を果たしている。
一方、9月には創設メンバーのドラマー、ジョンハートマンJohn Hartman)の訃報も入ってきた。

残りのメンバーは「ドゥービー・ブラザーズ&マイケル・マクドナルド」として結成50周年を記念するリユニオン・ツアーが再開している。

Side-A
1.You're Made That Way(Michael McDonald, Jeffrey Baxter, Keith Knudsen)  2.Echoes of Love(Patrick Simmons, Willie Mitchell, Earl Randle) 
3.Little Darling (I Need You)" (Holland–Dozier–Holland) 
4.You Belong to Me (Carly Simon, M. McDonald) 
5.Livin' on the Fault Line (P. Simmons) 
Side-B
1.Nothin' But a Heartache (M. McDonald)
2.Chinatown (P. Simmons) 
3.There's a Light (M. McDonald)
4.Need a Lady(Tiran Porter) 
5.Larry the Logger Two-Step (P. Simmons) 






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