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俳優業と距離を置く時間

あけましておめでとうございます。下地です。2023年もよろしくお願いいたします。
年末年始を経て、年度末も迫ってきて、たくさんの人たちと話をする機会が多いと、考え事が多くなる時期です。特に、親戚や家族やご挨拶周りでいろんな立場の方と話すと「役者」と名乗っている自分のアイデンティティなんかについても、考えが深まるものです。

初詣でご挨拶をする。
節目の年のスタートライン、思う事が沢山。

うん百万回聞かれた質問

突然ですが、演劇や役者と関わりの少ない(例えばこれを読まない層の)人たちは「役者って毎晩飲んで語り合ってるんでしょ?」というイメージを持っているらしいのです。演劇を生業にしている人は、耳が蛸になるほどされた質問ではないでしょうか。

たしかに、わたしは酒飲みである。そして、こういった質問は飲み屋でされる事が多いのも事実。
しかし、うちの劇団は酒飲み人口が少なかったので滅多なことがなければ飲み会もしないし、打ち上げをしないで解散することもザラ。だから「劇団員とはあまり飲みに行きませんよ」と答えると驚かれる。

それと、観劇経験ゼロの人に「演劇をやってます」なんていうと、とりあえずの思いつきで某有名団体の名前を挙げられて、その団体の認知度のすごさを感じると同時に、数多ある演劇の中でも1つのジャンルしか思い浮かべて貰えてないんだなぁという切なさも感じる。

他にも「将来女優になりたいの?」なんて聞かれたりもする。「すでに仕事はしてますよ」と言っても「いや、だから……」と同じ質問を繰り返される。その人たちが指す「女優(俳優)」は「映像に出ているスター」という認識で「舞台は登竜門で、お茶の間の人気者になりたいんでしょ?」という質問なのだ。

悲しいけれど、わたしの住む世界の一般的な認識は、そんなもんだと思う。

それでも、知らないことに興味を持って聞いてくれたことには変わりがない。誠意を持って返事をしたいので、なるべく正直に、わかってもらえるように答えているつもりだ。
「こういう奴もいるんだな」と思ってもらえたらしめたもんだ。その人の場合、全く縁がなかった演劇との接点が、たまたまわたしという一役者との出会いだった。逆に言えば、ここでわたしがうっかり馬鹿なことを言ってしまえば、その印象がその人にとっての「演劇」の一部になってしまう。
はじめて芝居を観る子供たちの前で演じるのと同じくらい責任重大である。
接点があるのと無いのとでは、再び「演劇」にまつわる何かと出会った時に得られる情報が違うはずだ。その接点がポジティブなものであることを願うばかり。

わたしもそんなに興味なかったし。

いつか書いた気もするが、わたしはあまり演劇に興味が無い立場でいたにもかかわらず、うっかりこの世界に入ってしまった。だから、興味を持たない人たちの気持ちはすごくわかる。

劇場に足を運んで観てくれたお客様のおかげで、さらに言えばそのあと何度も足を運んでくださる好意的なお客様のおかげで生きているわけだが、世間レベルでいえばお客様の層はほんの一部の人たちであって、それ以外の人の感覚の方が大多数。なのに、その大多数の感覚に触れる機会は多くない……んだけど、人気商売で、業界もとても狭いというなんとも言えない矛盾も感じる。その狭い世界でしかものを測れなくなってしまうのは、なんとなくいやだなぁと思ってしまう。

デザイン業から得る「客観性」と「狙い」

ありがたいことに、わたしは演劇きっかけでいくつか別業種のお仕事をいただくことがあるのですが、そのうちの一つがデザイン業です。
ほぼ独学なのであまり胸を張って言えない気分ではありますが、劇団のチラシや物販のイラストを作ったことをきっかけに、グラフィックデザインを齧るようになりました。

2020年には、ご時世柄いろんな商売の人が新しい事業展開を望んでいたようで、デザインの相談を複数受けることに。そのあたりから、副業としても手をつけ始めています。
わたしにとって馴染みのない業界の商品や店舗のイメージを汲み取ってデザインをしたりイラストを描いたりするのは、とても勉強になる。
専門外の業種の依頼を受けつつ、演劇関係の何かをデザインするときにノウハウを活かせたら良いな、なんて思いながらやっています。
おかげさまで、少しずつではありますが、できることは増えてきた気がします。
フライヤーやポスターなどのビジュアルデザインは、出会いのきっかけとしては大きな要素。上手く作れるようになりたいものです。

そんなわけで、最近出来上がった演劇のビジュアルデザインがこちら。
ポスター、フライヤー、ポストカードなどいろいろ展開してます。

突然ですが、高知県でお世話になった人たちと、TCアルプの先輩たちが上演する作品のフライヤーデザイン任されましたので宣伝します。
お近くの方はもちろん、遠方の人だって鰹食べに高知に行けばいいじゃない! 接点だね!


こういうものを作ったり、あるいは演劇のことを考える上で、身近な人々の助言もとっっっても頼りにしています。

例えば、わたしには東京に住む夫がいるのですが、彼は映像制作が仕事なので「映像」と「演劇」という共通点が多く、会話のほとんどは仕事に関する話になります。だから「なんで演劇って○○はこうなるの?」とか「演劇だと××ってどうするの?」なんて会話が生まれる。

彼と話していて「なるほど」と思うのだけど、在宅ワーク時代とは真逆をゆくアナログ舞台表現に対して、常に最新の情報を発信し続けている映像広告の世界だからこそ、演劇の文化は不思議なことだらけだろう。また、わたしも「じゃあなんで演劇って……」と考える機会をいただいている。
デザインのことも、使うソフトが共通していることもあり、アドバイスをいただいたり、逆に協力する機会もあり、いろいろと助けていただいている。

また、衣料関係の仕事をしている友人は、見聞きするジャンルの守備範囲が広い。職業柄、衣装はもちろん、フライヤーデザインやフォント、インスタレーションにも興味があり、演劇作品を見ても役者そっちのけで別要素を楽しんでいたりすることも多い。楽しみ方は俳優じゃなくたって良いんだよな、って思う。悔しいけれど。
この人が良いと言ったものは大丈夫だ! と絶大な信頼を置いているので、何か仕事で不安材料があると、パソコンと賄賂のテイクアウトのコーヒーを持参しご協力を仰いでいる。

感覚を正直に喋ってくれる人たちがいると、自分のやっていることを客観視してもらえる。一つの役や事柄に取り組むと、なかなか全体性が見えなくなることが多い。そういう意味でも、外側にいる人たちの感覚ってとっても大切だ。

同業者の俳優たちにも頼らないわけではないのだが、演劇の現場でも俳優とそれ以外の人たちの目線の違いを感じたことがあった。

役者の好みと伝えるべき情報

劇団の先輩の一人芝居の公演の広報物として、ポストカードを作った時のこと。

デザインを2つの配色パターンで迷って、先輩とわたし以外の意見も聞いてみよう、という話になった。

2020年に作成した、TCアルプの
細川貴司による一人芝居『セツアンの善人』のポストカード。

当時上演中だった公演で楽屋を周り、関係者の人たちにどちらが好きか調査してみた。結果、俳優のほとんどが左の紫っぽい背景のものを選んだのに対し、スタッフさんのほとんどは右の白い背景を選んでいた。

「セクションによってこんなに綺麗に意見が分かれるものか!」と驚き、選んだ理由を聞いたところ、俳優の選んだ理由の大半は「被写体の俳優が素敵に見える方」を選び、スタッフの皆さんは「文字情報とのバランス」の見え方に重きを置いていた。
最終的には2パターン展開で作成することになったのだが、演じることを中心に世界を見ている俳優の視野の特徴が見えた気がした。
どちらのパターンも使い方によってはそれぞれの良さがあるもんだな〜と思ったけれど、公演の制作過程で「白バックが正解に近かったんだな」と気づいたりもした。

この一件以来、基本的にはデザイン関係の助言、殊に人物が写っている画像については、俳優に助言を求めるのをやめた(笑)
なんというか、俳優の視野は、演じる者としての主観が強くなるのだなぁと思った出来事だった。

ちなみに、このコラムの見出し画像を作る際にも、何パターンか迷った末に役者が選ばなかった方の写真を使った。
身内の役者のみなさん、聞いておいて、なんかすみませんでした。

細かい編集楽しいな、と思う画像制作でした。

新しい年を迎えて、いろんなきっかけがあって、最近改めてわたし自身と演劇との距離を見直してみているのだけれど、多分わたしはそういう風に演劇を見たり、考えたり、携わるのが好きなんだなと気付き始めている。
デザイン以外にも、定期的にラジオに出演させていただいていることもきっとそういう観点が強くなった要因ではあると思う。

そんなわけで、まだまだ語り足りないので、次回はラジオのことにも触れつつ、もう少し役者と距離を置きながら、そういうことを書いてみたいな、と思っています。

来月も、よかったらご覧ください。

2023年1月17日 下地尚子



下地尚子の記事はこちらから。
https://note.com/beyond_it_all/m/m1cb913220d43


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