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中道・中庸の視点でコーチングに関わる情報を読むこと

近年、情報のグローバル化とともに、日本国内にも様々なスポーツのトレーング方法や考え方が海外から取り入れられるようになり、SNS上でもよく紹介されるようになってきています。
国内にとどまらず海外のコーチングに関わる情報が、労力をかけることもなく簡単に手に入れられるようになってきたことは、より良いコーチングを行なっていく上で非常に重要なことですね。

しかし、ここで非常に重要になってくることが、”新しい情報だから、海外からきた情報だから正しい”というように安易に考えないことが重要だと思います。

修士課程在学中、ソウル・オリンピックで野球日本代表の主将を務めた筒井崇護先生(筒井大助先生)に副指導教員として指導をしていただきましたが、筒井先生はアメリカへ指導者研修に行かれた経験も踏まえつつ、海外と日本とのコーチングのあり方について「”どっちかでなくてはいけない”なんてことはない」と強調されていました。

先生のお話では

「日本には日本人にあった指導があって、日本の今までの指導の良さだってある。それを全く無視して”アメリカのコーチングはすごいね!これを取り入れなきゃ。やっぱり向こうは進んでる”となるような風潮はおかしい。」
「日本人の築いた今までの指導方法は残して、直した方がいいものについてはいろんなものを参考にして変えていくべき。」

とおっしゃられていました。
私もまさにそのように思っていました。

また、アメリカに指導者研修に行っていた時のご経験を通して、日本の選手とアメリカの選手の感性の違い、”自分で考えて”練習している選手の多さなど、様々な面での違いがあることを考慮しないままに、日本のコーチングが劣っていてアメリカのコーチングが進んでいるという見方をすることは良くないことであると話されていました。
日本人選手の良いところがたくさんあるし優れている点は多くあるのに、日本人に「合った」指導というものはあまり考慮されていないということは、本当に良いコーチングを目指していく上での課題点でしょう。

本質的に”これが適切なコーチングである”と判断するには、多面的多角的な視点から考えていく必要があります。
「アメリカのコーチングが優れている」と安易に信じ込んでしまう風潮があるとすれば、おそらく”日本に無い考え方で真新しさがあり、日本と違っている”から、優れていると思ってしまうのかもしれません。
日本に無かったもの・違っているもの=優れている”という捉え方をしてしまっているということです。

しかし、”日本に無かったもの・違っているもの=優れている”というのは論理的に飛躍しすぎています。
確かに、私たちが持っている既存の知識には無かった、真新しい情報を手にすると、既存の知識よりも真新しい情報の方が印象強く残り、肯定的に捉えてしまいがちになるかもしれません。
”これまでと違う”という新鮮さが、一層こちらが正しいと思うことを助長するのでしょう。

もしかすると「アメリカのスポーツ指導が進んでいるように”見えている”」だけのことなのかなと、一歩立ち止まる必要も時にあると思います。

そこで、闇雲に海外からの情報に対して鵜呑みしてしまうことを防ぐために、我々が意識しておきたい考え方として「中道」や「中庸」というものがあります。

より良いコーチングを行うには、どのような情報に対しても”良い”、”悪い”の二つの対立軸で考えるべきではありません。
また、「真新しいから」「海外で行われているから」という理由は、良いコーチングであるという根拠になるには程遠いでしょう。
新しさに踊らされるのではなく、少し俯瞰した目を持って、最適なコーチングとは何かということについて追求していく中で、それぞれの方法を考察するべきです。

その考察においては、「コーチングの目的」や「コーチングの価値」問いっったような、選手をどのような姿へと導くのかという目標・ゴールだけでなく、環境面や文化などといった選手を取り囲む部分にも目を向けていく必要があります。
こうして考えていく上で、そのまま活用できそうであれば活用し、工夫が必要であれば改変していくなどしていくべきでしょう。

アメリカ的な考え方で非常に活用できる部分もあれば、文化的背景に影響を受ける国民性によって合わない部分もあります。
合わないだけでなく良さを無くしてしまうこともあるかもしれません。

このように考えていくと、これからの指導者や教育者は、溢れかえっており、次々と入ってくる情報を精査し、吟味していくことができる能力が必要担ってくるのではないかと考えることも出来そうです。
そして、吟味していく上で、日本におけるコーチングの課題だけでなく日本の文化的背景などといった面にも理解を深めておく必要がありそうです。

また、非常に参考になる考え方として、”グローカリゼーション”というものがあります。
この言葉は、「グローバリゼーション(地球規模)」と「ローカリゼーション(地域規模)」を繋げ合わせたものです。

主に経済やビジネスの場で用いられる言葉ですが、この考え方は参考になるものです。
ビジネス的には、グローバル化を目指して世界的な視点から商品を展開していきつつ、それぞれの国や地域のニーズに合わせて調整していくことを指しますが、スポーツのコーチングにおいても同様のことが言えるでしょう。

世界的には、アスリート中心のコーチングが主流となっていますが、この大枠を踏まえつつ、それぞれの地域や国の文化的背景や国民性、ニーズに合わせて調整していくことが必要です。

そのためには、闇雲に入ってくる情報をそのまま信じ込むのではなく、中道・中庸を意識し、俯瞰して捉えていくことが重要となってきます。

★補足☆

※副指導教員とは
私が大学院にて所属していたスポーツ実践学コースでは、事例研究が主眼に置かれていることとコーチ養成という視点から、主指導教員(アカデミックスーパーバイザー:学術領域の専門家)に加えて、副指導教員(マスターコーチ:競技の専門家)の2名での指導体制でした。
副指導教員は、主に競技の専門家としての観点から研究指導を行う役割を担っています。

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