バレンタイン商戦の中心で、こっそり「チョコレート・ハラスメント」を叫ぶ。カカオアレルギー持ちの「バレンタイン地獄」。

「みんなが好きで嫌いな人はいないだろうと思っているもの、なーんだ?」
少数派だけど、私はチョコレートが嫌い。母親もあまり好きではなかったからか、幼少期から好きではなかったし、自分で買って食べることもほとんどなかった。昔から板チョコはひとりで全部食べられないし、食べたことがないチョコもたくさん存在する。

一度克服してみようと思い立って、開店したばかりのジャン・ポール=エヴァンでショコラショを飲んでみたけど、途中で気持ちが悪くなって半分も飲めずに残してしまった。ココアもやっぱり森永だろうがバンホーテンだろうがメーカー問わず好きではない。チョコを使ったアイスも苦手だ。

10年くらい前に即時アレルギーテストをした結果、私はカカオアレルギー(エピペンをもつほどではない)であることが発覚した。今まであまり好きじゃなかったのも体質的に受け入れなかったからだと分かり、「これでチョコを断る口実ができた」とホッとした。それまでは会社でチョコをもらっても、気を遣って無理に食べていた。

「女子はみんなチョコが好き」だとみんなが信じて疑わない。
そんな中「アレルギーだし、嫌いです」と大きな声で言えなかったし、言いづらかった。あまりにちょこちょこと仕事の合間にチョコが回ってくるので、いちいち断るのも波風が立って嫌だなぁとも思って遠慮していた。

アレルギーが発覚した直後に、思い切って当時の勤務先で「アレルギーなのでチョコが食べられない」ともれなくカミングアウトした。小さい会社だったので全員に伝えた。その会社のそばには洋菓子店がなくショコラティエ1軒しかなくて、社長から「みんなで食べたいから好きなケーキを選んで買ってきて」と頼まれる機会が多かった。ショコラティエでチョコが極力入っていないケーキを選ぶと「どうしてショコラティエなのにチョコケーキじゃないの?」と何回も言われたため、その度に「カカオがダメなので」と詫びたが、すぐに私はそのやり取りに疲れてチョコケーキを買って、自分は食べない選択をした。

そうすると「何で社長がせっかく買ってくれたのに食べないの?」とめざとい人に見つかって言われる。何度も何度もカカオアレルギーだと言ったのにもかかわらず、聞き入れられなかったことが悲しかった。そして海外出張のお土産は決まってチョコだ。みんなに配られるけど、こっそり共有のお菓子入れに戻していた。

「それはあなたの周囲の人が悪いだけの話」とも思われるかもしれないけど、他人を思いやれない、話を聞かない人が多い会社は従業員の個性を尊重できない会社ではないだろうか。私がチョコに対して周囲にNOを突きつけているのに、それでも勝手に「好きだろう」と決めつけて押し付けてくるのは「チョコレート・ハラスメント」じゃないだろうか。

その後違う会社に派遣で行った際も、友チョコが流行していたため、私にとってバレンタインは地獄と化した。男性への義理チョコのお返しも気を利かせて「女子はみんなチョコが好き」神話なのか、やっぱりチョコで返ってくる。たまにマシュマロも返ってくるけど、カカオとともに卵アレルギーが発覚したため、結局食べられない。ついでに今は小麦と乳製品も遅延性アレルギーで食べられないので、チョコだけではなく洋菓子はほぼ絶望的だ。

今は小学生でさえクラスでどの子がどんなアレルギーを持っているのかを理解していて、遠足のおやつも配慮している。それが私にとってはすごくうらやましい。少し前にエピペン持ちのカカオアレルギーを持つ子と友達になって、初めて自分がチョコに対してどれだけ悩まされているかを打ち明けて共感し合えたことで、すごく楽になれた。

チョコは全世界の女子の友好ツールとして存在していることは百も承知だ。
フランスでカカオアレルギーだと言えば「何しにフランスに来た?」と言われるかもしれない。元々飲食の仕事もしていたので、ショコラティエのショコラは宝石みたいに純粋に美しいし、おいしそうに見える。世界中のパティシエがどれくらいショコラに対して命をかけて愛して作っているのかも知っている。でも食べられない。

たったひとことでいいから、誰かにチョコを渡す前に「アレルギーありますか?チョコ大丈夫ですか?」とひとことかけてほしい。これはチョコだけじゃなくて何に対しても同じかもしれない。そんな小さなことでも、アレルギー持ちの生きづらさは少しずつ解消していくはずだと思う。
「自分が好きなもの、みんなが好きなものでも相手が好きだとは限らないし、アレルギーがあるかもしれない」ことを頭の片隅に置いてもらえたらうれしい。

私はインフルエンザワクチンを小学生の時に打って熱を出して、結局卵アレルギーだと判明したので、インフルエンザの流行には極力気をもんできた。この新型肺炎の流行でアルコールが有効だという情報がテレビで盛んに流れているけど、アルコールアレルギーの人も存在する。命の危険があるのに、アルコールが使えない人はどうしているんだろうと思うと、胸が痛い。

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