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ばれ☆おど!㉜

 

 第32話 秘奥義〝カン太の拳〟


 一方、裏側の入り口から侵入したカン太たちはというと――

 金髪ツインテールのアイリ、銀髪ツインテールの緑子、シータを抱いたカン太が突入の構えを見せていた。
 しかし反対側と同様に、こちら側の見張りの黒服も〝ウージー〟で武装していて、厄介で危険な展開が予想された。

 いきなりアイリは黒服に声をかける。
「おい! そこの黒服! 真面目に仕事してるな。感心だ。あ、お前ちょっとカッコいいぞ。その銃。似合うな」
「そうかな? やっぱり? ……って、おまえら誰だ! コラ!」
 すると、黒服はウージー向け、威嚇しながらこう言った。
「死にたくなければ、全員手をあげて後ろを向け!」

 すると、アイリはポップコーンを頬張り、モグモグしながらしゃべる。
「嫌なこった」
 ついでにアカンベーまでする。
「このガキども! 舐めくさりやがって」
 黒服は怒り狂って、銃をアイリに向けた。

 トリガーにかけた指が動き出した、その瞬間だった!

 カキーン、カン、カン……

 派手な金属音が耳をつんざく。

 黒服の銃は緑子によって撃ち落されていた。
 ――カン太の体と黒服の視点が作る、死角からのボウガンの攻撃であった。銃を見ると緑子の放ったボウガンの矢が、銃口に突き刺さっている。

 黒服は何が起こったのか理解できない。
 もし、発砲していたら、暴発して痛い目に遭ったことだろう。

 茫然とする黒服に、カン太はつかつかと歩み寄る。
 黒服はダガーナイフ(両刃の短剣)を抜いて、後方に飛ばされてしまった銃と持ち替える。

「こ、この野郎! 近寄るんじゃねぇ」

 動揺しながらも、黒服は威嚇してくる。
 しかし、構えたそのダガーナイフも、緑子が放った、死角からのボウガンの矢で弾かれる。金属同士のぶつかる音が派手に響き渡る。

 キ、キーン……

 そこに〝カン太の拳〟がさく裂する。

 あ、たたたたたたたたたたたたたたたた……
 あたー!

「お前はもう死んでいる」(作者注:そうです。化石パロディです)

 カン太の猛攻(カン太爆裂拳)を浴びて、黒服は崩れ落ちるようにして倒れた。(作者注:倒したが、死んではいない。もちろん爆発もしない)

「さあ、中へ! 急ごう」

 カン太はそう言うと先陣を切って、倉庫の中に入っていった。
 薄暗い倉庫の中は獣の臭いで充満している。シータ以外は皆、思わず顔をしかめた。
 アイリが口を開く。

「くっさーい! これは相当な数の動物がいるわね。よし! じゃあ、私は撮影するから」

 カン太は思わず、大きな声を出す。

「おい!」

 だが、すぐに声をひそめた。
「……失礼……ちょっと、相沢先輩。アブナイよ。まず、シータに偵察を頼もう」
「……わかったわよ……」
「じゃあ、シータ頼まれてくれるか?」
「はい。吾川様。では少しお待ちください」

 シータはそう言うと、偵察を始めた。
 ――彼女の目が一瞬だけ赤く点滅する。
 すると、最初の偵察ですでに投入していた、子機(超小型マイクロドローン)が動き出す。

 ………………………………

 ひそやかに、かたずをのむカン太。

 ポップコーンをほおばるアイリ。

 ボウガンの矢の残数をチェックする緑子。

 おおよそ1分ほどするとシータが喋りだした。

「吾川様、状況分析終了しました」

「おお、ご苦労様。で、どうですか?」
「はい。この部屋には20頭ほどのライオンやトラなどの猛獣や、コブラやワニなどの危険な爬虫類が多数捕えられています。動物たちの檻は電子ロック式で、おそらくこの部屋のどこかにリモコンがあると思われます。見張りは一人で、やはり、ウージーで武装しています。現在巡回中です。いずれこの付近に来るでしょう」


 シータがそう言うと、すぐに見張りの足音が近づいてきた。
 カン太は、声を落としたまま、作戦を説明する。
「じゃあ、オレが囮になるから、緑子があの銃を処理してくれ、あとはオレが何とかする。そのあとあの見張りを縛り上げて、リモコンを入手する」

「おい! お前ら、そこで何をやっている!」

 作戦通りにはいかず、カン太たちは先に見つかってしまう。
 見張りの黒服は銃を構えて、発砲しようとする。
 この見張りも、あの軍用短機関銃〝ウージー(UZI)〟を装備している。フルオート(連射)で掃射されたら、ひとたまりもない。

「ちょっと、待ってください。撃たないでください。これには深い事情があるんです」
 カン太は必死に、話し合いで活路を見出そうとしたが――

「はあ? そんなの知るかよ!」

 そう言って黒服は発砲する構えをみせる。

 その時であった。
 指先にも満たない小さな虫が、黒服の足から這い上がって、背中に達すると止まった。
 シータが黒服の前に出て、話し出した。

「こんにちは。私から忠告させていただきます」

「…………な、なんだ? この縫いぐるみしゃべるのか?」

「はい。私はシータと申します。いま、あなたの背中に、小さな昆虫型ロボットがとまっています。私の合図でその昆虫は自爆します」

「フフフ……よくできた縫いぐるみだ。だがな、そんなのハッタリに決まってる。まずよくできた、その縫いぐるみから片づけてやる」

 そう言って、黒服はシータに向けて発砲しようとする。
――子機の自爆だと、せいぜい相打ちがいいところだ。銃の方が一瞬早い。このままだと、ウージーの掃射を浴びて、シータがバラバラにされてしまうだろう。


 しかし、黒服がトリガーを引こうとしたその瞬間、シータの目から強烈なブルーライトが出て、黒服の目に照射された。

 黒服は強烈な目の痛みに襲われて、目を抑える。

 その瞬間をとらえ、カン太と緑子が動き出す。
 緑子は電光石火の早業で、ボウガンを構えて放つ。
 矢はうなり声を上げながら、まっすぐに黒服めがけて飛んでいく。

 カキーン

 一瞬の後に、ボウガンの矢は、火花を散らしながら着弾し、ウージーを打ち落とす。

 カン太は、犯人めがけて走り出す。
 ようやく、視界が回復した黒服であったが、すでに時は遅かった。
 カン太は目の前に迫っていた。
 カン太の拳がさく裂する。
「秘奥義、カン太百裂拳!」

 あ、たたたたたたたたたたたたたたたた……
 あたー!

「お前はもう……」

 黒服は音を立てて崩れ落ちる。そのまま意識を失ったようだ。
 すぐに縛り上げて猿ぐつわをかませる。そして、黒服のポケットを探ると案の定、リモコンらしきものを発見した。

「よし! これで動物たちを解放できる」
 カン太は自慢げにいった。
 そこに、アイリが突っ込む。
「何いってるのよ。猛獣を解放したら、大騒ぎよ」
 シータが話し出す。
「吾川様。まず、入手したリモコンが、ちゃんと使えるモノなのか、確かめておきましょう」
「あ、そうだね。お願いできるかな?」
「わかりました」

 シータの解析の結果。リモコンは使用可能。各檻にナンバーがあり、キー入力して操作すると、個別にロック解除と施錠ができる仕組みのようだ。

「シータ。ありがとう。さっきの戦闘の時も君に助けられた。本当に有難う」
「いいえ。吾川様のお役に立ててうれしいです。吾川様はお優しい方です。ロボットの私にも、人間と同じように接して下さいます。シータは吾川様のことが大好きです」

「オレもシータに好かれて嬉しいよ。大好きだよ。シータ」


「…………」

 緑子は氷の微笑を浮かべ、その瞳から暗いオーラを放っていた。



(つづく)


ご褒美は頑張った子にだけ与えられるからご褒美なのです