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ばれ☆おど!⑲


 第19話 美少女効果


 カン太が指し示す方を見ると――

 小柄な制服姿の女子高生が金髪のツインテールを元気よく、ぴょこぴょこ跳ね上げながら歩いていた。その後ろには、長身の男子高生を従えている。

 ――よく見るとスナック菓子(おそらくポップコーン)を抱えているではないか!


「あれは新聞部の部長じゃないですか?」
「うむ。そうだな。ちょっと声をかけてみるか」
 源二はそう言うと、大声で呼んだ。


「おーい! あいざわー!! あ・い・ざ・わ・あ・い・り!!」


 その大音声に周囲の通行人たちは驚き、一瞬静まり返った。
 そして、いっせいに源二が呼び掛けている方向をみる。

 すると、アイリは猛ダッシュで逃げ始めた。
 そのあとを副部長の藤原が慌てて追いかける。
 瞬時にして、二人の姿はショッピングモールから消え去った。

 源二は不満げに舌打ちした。
「チッ、募金が嫌でスルーしやがったな!」

 カン太は思う。
(今のは誰でも逃げたくなるから)


 アイリたちが去ったあとも、動物愛護部の募金活動は大盛況であった。
 それもそのハズ。うるみと緑子の美少女コンビが絶妙すぎるのだ。

「かわいそうな動物たちに皆様の愛の手を。ご協力おねがいしまーす」
「おねがいしまーす」

 うるみと緑子が笑顔で呼びかける効果は絶大である。
 あっという間に行列ができる。
 ――「頑張ってください!」と握手を求める人たちが徐々に増えてきて、募金活動は、もはや『握手会』と化していた。

 延々と続く行列に切れ目はない。ずっと続けるわけにはいかないし、途中で切れ目を作るのは忍びないが、それも仕方ない。

 源二は告げる。
「そろそろ、今日の募金活動を切り上げる。アカンよ。いつものやつを頼む」
「了解しました」

 カン太は行列の最後の人の後ろに回り込み、持ち出したプラカードを高く掲げた。そのプラカードには『最後尾』と書かれている。

「募金にご協力の皆様! 本日は大変ありがとうございました。今日はここまでに致します。誠に申し訳ありませんが、また来週行いますので、是非ともご協力お願い致します」
 そう言って、カン太は頭を下げる。

「えー」
「ぶーぶー」
「うっそー」
「わーわー」
「ふざけるな」
「いやだー」
 あちこちから発せられるブーイングの嵐がカン太を襲ったが、それも徐々におさまっていった。

「本当に申し訳ありませんでした」
 最後にもう一度そう言ってからカン太は頭をあげた。
 カン太は思う。
(こんな募金活動なんて普通じゃない。頭を下げる意味が違うような気がする)


 動物愛護部の今日の募金活動は、開始から一時間ほどで終了となった。
 すばらしい成果である。短時間でかなりの額の金額が集まったのだ。まさに『美少女』効果といえよう。

『美少女効果』――おそるべし!

(作者注※次回の募金活動からは、『ネコ耳』装着を考えています)

 源二はしみじみとした様子でつぶやいた。
「去年は苦労したが、今年はあの苦労がウソのように簡単に募金が集まる。本当に助かる……」


 ◇ ◇ ◇


   

 翌週の金曜日。十二月十三日。ついに潜入取材の決行日がやって来た。放課後、動物愛護部の部室には、潜入取材チームとして――

 相沢アイリ(新聞部部長)
 藤原大福丸(同副部長)
 源二光蔵(動物愛護部部長)
 漆原うるみ(同部員)
 吾川緑子(同部員)
 吾川カン太(同奴隷)←
 シータ(同アドバイザー)

 ――以上七名が集まった。

 源二から簡単な作戦の説明があり、全員真剣な面持ちで聞いている。
「……以上が、作戦の概略だが、状況によっては臨機応変な対応を心掛けろ! 一つ間違えば命取りになることを忘れるな!」

 源二の説明が終わると、新聞部部長のアイリが挨拶する。
「今回の潜入取材へのご協力感謝する! サテンドールの全容を暴き、全世界に奴らの悪事を知らしめるのだ!」
 そう言って、アイリは拳を天に向けて突き上げた。


 校門の外ではワンボックスカーが待機していた。
「我が新聞部がチャーターした車に乗り給え! ハハハハハ……」
 アイリがそう言うと、各々が装備や機材を車に運び込み、乗り込んでいく。

 全員が乗り終えると、彼女は人差し指をまっすぐ前方に突き出し、声を張り上げた。
「では、出発だ! 発進!!」

 ◇ ◇ ◇

 予定通り十分ほどで『芝川マリーナ』に到着した。十二月ということだけあって、船着き場はイルミネーションが施されていて、キラキラと輝き、とても美しい。
 この時期のクルーザーの利用法はやはり、アレなのだろう。
 そう。この時期特有のアレだ。……リア充爆発しろ! (作者注※なんて清々しい表現なんだ)


 荷物を全部積み替えるとクルーザーは取材チームを乗せてゆっくりと進みだした。ゲートを通過して芝川に出ると、ゆっくりと加速していく。空を見上げると冬場ではあるが、時間が早いせいで夏の大三角(アルタイル・ベガ・デネブ)が西の空で輝いている。

 速度が少し上がってきた。


 カチン!


 しばらく進むと、何かが船にぶつかる音がした。

 カチン! キン、キーン! カチン!

 目を凝らして、岸の方を見ると、中学生くらいの少年たちがバカ騒ぎしているようだ。そのうちの何人かが、こちらに向かって何かを投げている。

「あのガキども! 石投げてやがる! アブねえだろ!」
 とアイリが叫んだ。

 源二がそれに答える。
「そうだな。イタズラにもほどがある。……緑子君、出番だ。アイツラを大人しくさせてくれ」

「……わかりました」

 緑子が放った矢はすべての石に命中する。
 何度投げても石は少年たちの目の前で砕け散った。
 そして粉々になった石は少年たちの頭上に降り注ぐ。

「なんだよ? これ?」
 少年の一人がそう言うと、もう一人がそれに答える。
「じゃあ、あれ、やっちゃう?」

 鉄板のロケット花火を取り出すと、カン太たちに向けて発射し始めた。
 だが、そのロケット花火は空中分解してさく裂する。中には向きを変えて少年たちを襲うモノもあった。

「うわ!! なんで?」
「うわ!!!」
 少年たちが奇声をあげ、大混乱しているうちに、カン太たちを乗せたクルーザーは彼らの射程から遠のいていた。

「緑子君、ご苦労だった」
「いいえ、でも、矢が無駄になったわ」
「そうだな。だが部費の心配は今のところない。大丈夫だ

 アイリはとても感心した様子だ。
「これが噂の『あの』ワザね。すごーい!」


 ◇ ◇ ◇

 出発から一時間ほどかけて荒川を下って東京湾にでる。さらに二十分ほどすると燃料補給の予定地である船橋ボートパークに到着した。
 源二は持ち前の大きな声で高らかに告げた。
 
「これより燃料補給に入る。およそ三十分かかる予定だ。それまでは各々自由行動とする!」

 編成チームのメンバーは各々散って行った。
 カン太もその場を離れようとしたが、源二に呼び止められた。

「アカンよ! ちょっと、いいか?」

「はい。なんです?」

「そろそろ、ユーには教えてもいいかなと思ってな」

「え? 教えてもいいって? 何をです?」

「私がユーの秘密を知っているのはわかっているな?」
「そりゃ、十分過ぎるほどわかってますよ」

「だがな。ユーにはもう一つ重要な秘密があるだろ?」

「えっ?! えっ!?」

 カン太は、かなり焦りながら、思う。
(もしかして、あれかな? いや、それとも、あのこと? いやいや、それとも……今度はなんだ?)

「私がユーを動物愛護部に入部させたいと思った一番の理由は、その秘密にある」

「…………」

「ユーを強引に入部させたことは、謝罪する。だがな。どうしても我が部にはユーの『その能力』が欲しかったのだ」

「能力? ……!! もしかして!」

「あれは全くの偶然だった。あの時、私は自分の目を疑ったよ」




(つづく)

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ご褒美は頑張った子にだけ与えられるからご褒美なのです