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ばれ☆おど!㉗

 第27話 脅迫状は突然に


 その時である。
 カン太の中に激しい敵意と闘争心が沸き起こった。

 オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ(明らかにアレですね)

 気迫の連打がメデューサの顎や頬に鈍い音と共に決まる。
 続けざま、沈みかけるメデューサのみぞおちに膝でローキックをお見舞する。
 カン太は目にもとまらぬ早技を次々に繰り出し、そのままノックアウトさせてしまう。

 一体、カン太に何が起こったのだろう? これは確かに謎だ。

 実は何を隠そう、こんなことがあったのだ。
 ――カン太は去年の夏の西郡との決闘以来、自分の弱さを悔いた。そして、とある空手の道場に入門したところ、よき師に出会うという幸運に恵まれたのだ。厳しい修行の日々だったが、戦闘力をあげるための研鑽は確実に己の肉となり血となる。努力は実り、めでたく、あの武闘派(源二・うるみ・緑子)に引けを取らない戦闘力を身に付けたのである。

 カン太は思う。
(あの道場に通っていてよかった。修行の成果だ)

 だが、特異体質を持つメデューサはすぐに起き上がる。

「フフフ……。よくやったと誉めてやろう。だがな。組織の手によってサイボーグ化されたアタシの体には通常の人間の攻撃は通用しない。残念だったな。ははははっ……」

 すると、カン太は再び、動けなくなる。

「さてと、手間を掛けさせやがって。ここで腐れ縁に終止符をうってやるよ」
 そう言うとメデューサは緑子に歩み寄る。
 メデューサの薄紅色の瞳は殺意で燃え盛っている。

 その時であった――。
 肉に突き刺さる刃物の鈍い音がする。
 振り返ると、そこにはうるみの下忍〝コトリ〟の姿があった。
 両手にそれぞれ三本ずつの手裏剣を構えている。その赤い髪からのぞく耳には七色に輝く勾玉を想わせるイヤリングがきらめいていた。

 少しでも動こうとすると、コトリの棒手裏剣が飛んでくる。

「フフフ……。そうだった。アタシにはもう一人天敵がいたな。降参だ。じゃあな」
 そう言うと、メデューサは懐から何かの固形物を取り出して放り投げた。
 コトリが応戦するも、あたり一面は煙で全く見えなくなった。

 煙が消えてくると、動けるようになったカン太と緑子だけが取り残されていた。
 カン太は、緑子に歩み寄る。

「まだ、動けないか? ……だよな。じゃあ、おんぶだ」
 カン太はそう言って、緑子を背負って倉庫からでると、外は夕暮れ時を迎えていた。空が、茜色に染まり、一番星が西の空に輝いている。

「なあ、緑子……。駆け付けてくれてありがとう」
「…………」

 緑子はまだ動けないのだろうか?
 たくましくなったカン太の背中を抱いたまま、家路につく。
 二人の姿は黄昏のまどろみの中へ溶けるように消えていった。



 ◇ ◇ ◇


 その翌日、再び樹里からの誘いがあり、今回は緑子のお許しが出て、カン太は、ひとりで深牧邸を訪れた。
 玄関に入ると、子犬のように素早くカン太に飛びつくミリアである。相変わらず、ロリっ子に人気のようだ。
 奥から、唸り声が聞こえてくる。
 ひときわ、唸り声が大きくなったかと思うと、二頭のライオンがカン太に向かって疾走を始めた。近づくやいなやカン太に飛びついて、押したおす。そして顔をペロペロと舐め回すのであった。相変わらず、ライオンにも人気のようだ。

「ちょ、ちょっと、樹里さん、お願いっ……」
 カン太は息も絶え絶え、樹里に懇願する。

 ところが、ミリアが二頭のライオンをポカポカと可愛くなぐりはじめる。
「ダメー!」

 すると、ライオンたちは残念そうに振り返りながら、奥へと消えていった。
 やっとの思いでライオンから開放されたカン太は客間に通された。
 ソファーを勧められ、カン太が座ると、ちょこんと横にミリアが座る。すでに定位置と化しているらしい。
 美味しい紅茶にショートケーキを振る舞われる。ティーカップとお皿がセットになっている。とてもおしゃれで、それを眺めているだけでも、なごんでくる。おそらく、高級ブランド品に違いない。

「あの、この前のことなんですけど、その後どうなりましたか?」

「お答えする前に、今から話すことは、秘密にしてくれると約束してくれますか?」
「もちろんです。守ります」

「では、お話します」
 そう言うと、樹里はオッドアイでカン太を覗きこむ。右側の青い瞳に吸い込まれそうになる。
「うちの父の会社のアカウントに誘拐の脅迫状が届いたの」

「脅迫状ってお金を要求されたの?」
「そうです」

「秘密にするってことはまだ警察には連絡してないの?」
「ええ。今はあの子(子馬)の無事が最優先なの」

「なるほど。難しい判断ですね」
「いいえ。それ以外選択肢はありませんでした」

「そうでしたか。それほどまでに、その子馬の身を案じて」
「はい。心配で仕方ありません……」

 そう言うと樹里はカン太に、深牧家への誘拐犯からの身代金の要求の全文を見せた。

【ハロー。そんな顔しないでね。お宅のお馬ちゃんはまだ、元気ちゃんだからさ。
ところで、お腹すかしてるみたいで機嫌わるいな。あまり聞き訳がないと、あたしもイライラして何するかわからないしな。困ったな。どうしよう。ああ、困った。あ、そうだ。いいこと思いついた。こうしようよ。ベストな解決方法だよ。
いちおくえん。持ってきてね。うまくここにそれが来たら、お馬ちゃんは解放。めでたし。めでたし。あ、そうそう、あるところに繋がれてるんだよね。そこには、なんと。なんとだよ。時限爆弾が仕掛けられているんだな。たしか、あしたの夕方には爆発するみたいだね。
もう解除できないからね。あ、でもすぐに爆発させることはできるんだな。
だ・か・ら・もし、警察が動いていることが、わかっちゃったら、その時は、わかるよね。
じゃあ、ここに来てね~】

 添付の画像データには地図があった。一箇所にドクロマークがつけられている。そこに来いということなのだろう。

 誘拐の事実を知っている者は限られている。ということはこの投稿者が犯人であるとみて間違いないだろう。それに爆弾も本物である可能性も否定できない。うかつに動けば、愛馬の命はない。


 ◇ ◇ ◇


 一方、動物愛護部では、その件で動く計画になっていた。秘密を守るという約束をしていたが、カン太の様子がキョドっていることから、緑子の問い詰で、秘密が暴露されたのだ。
 経緯(いきさつ)はこうだ――。

「ねえ、カン太、どうだったの? 楽しかった?」
「い、いや、そうだな。相変わらず美味しい紅茶だったな。ハハハ……」
「ねえ、私に隠し事してるでしょ?」
「してないよ。何言ってるんだよ」
「そう。じゃあ、こうしたら?」
 そう言うと緑子は、カン太の首を締めた。
「……ぐ、ぐるじぃ……や、やめ、で……ぐ、で…………」
「じゃあ、何があったか、話してくれるの?」
「……………………う、…………う……………………」
 カン太は懸命に首を縦に振った(つもりだ)。
 緑子は手を離すと、言った。
「わかったわ。じゃあ、話して」


 こうして、深牧邸でのカン太が知った秘密は全部員の知るところとなった。
 源二が宣言する。
「我が部は先日、深牧殿に大変世話になった。ところで、いま彼女は私事ではあるが、大変なことになっている。我々が恩人に報いるときがきた」

「おー!」

 そこには新聞部のアイリと藤原も同席していた。
 アイリもポップコーンを高々と掲げ、宣言する。
「我が新聞部も同じ気持ちだ。可能な限りバックアップに努める!」

 こうして南校動物愛護部と同新聞部は樹里の子馬の救出を決意する。
 しかしここで、ちょっとした問題があった。
 果たして、彼女がこちらの協力を受け入れてくれるかという問題である。

(その申し出、本当に有り難いの。だけど関係のないあなたたちを巻き込むわけには行かないわ)
 などと言われて、協力をそっけなく断られる可能性が大きいのだ。

 単独行動したいところだが、犯人が示した地図がない。つまり、どこに囚われた子馬がいるのか、わからない。

 ダメ元で一度樹里に電話をかける。その役目は新聞部部長であるアイリが引き受けた。
「あ、もしもし、あ、こんにちは。…………実は私達はあなたの愛馬がさらわれて危険な目にあっていると聞きました。ですので、あ、そうです。ええ。………………」

 源二が聞いた。
「どうだ? やはり……」
「うん。取り付く島もない」
「では仕方ない。あの作戦でいく! アカン、出番だ」



(つづく)


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ご褒美は頑張った子にだけ与えられるからご褒美なのです