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ばれ☆おど!㊼

第47話 追跡者の正体


「チッ、先越されたか。もちろんわたしもよ」


 うるみの声に最初に反応したのは、緑子だった。

 綾香、ぜんじろう、樹里もその緑子に続く。
「当然ね。私もそれでいいよ」
「俺の活躍のみせどころだな」
「ご一緒します」

「みなさんありがとう。じゃあ、これから作戦の説明をします」

 カン太はそう言うと、シータに告げた。
「シータ。もし、おかしなところがあれば、途中でもいいから、教えて下さい」
「はい。吾川様。わかりました」

「では、これは一つの提案だから、もし、これの方がいいという意見があれば、遠慮なく言って下さい。ただし、採用するかしないかはオレの独断です。では――」

 カン太は説明を始めた。
「まず、人質がいる小屋です。そこを急襲します。無傷で人質を確保します。ここには、僕と綾香さんと緑子の3人で当たります」
 カン太の考えは、作戦のリーダーとして人質の確保は自ら指揮をとりたい、といったところだろう。

「そして、残りの毛塚さん、深牧さん、漆原さんは主力の2か所に分かれた小屋を襲撃して下さい。まずメデューサがいない弱い方を一気にせめて沈黙させて、最後にメデューサと決戦します。人質の安全が確保され次第、オレと緑子と綾香さんも戦闘に加わります。これでどうでしょうか?」

「俺はそれでいいと思うぜ」
 ぜんじろうは鋭く目を輝かせながら、カン太の作戦に同意した。

「私もそれでいいわよ」
 綾香も不敵な微笑みを浮かべながら賛意を示す。

 緑子、うるみ、樹里も深くうなずいた。

 最後にシータが意見を述べた。
「私も、いまのところ、その作戦がベストだと思います。ただ、罠を仕掛けてくる可能性もありますので、現地で、もう一度偵察することが、作戦の成功率を上げると思います」

 カン太は大きく目を見開きシータを見つめ、笑顔で大きく頷いた。
「そうだね。じゃあ、偵察用ドローンを今回も用意しておこう。敵の意表を突きたいから、今からすぐに作戦に入りたいと思います」
 敵が気づいて準備を整える暇を与えずに、急襲する。本能的にカン太はこの種の作戦の肝(きも)を心得ていた。


「決行は一時間後。それまで各自準備して、ここに戻ってきてください。車は樹里さんが用意してくれたので、それを使わせてもらいます」


 ◇ ◇ ◇


 高速度道路の街灯が流れるようにして、後方に飛んでいく。
 その様子をぼんやりと見つめる。
 カン太、緑子、うるみ、樹里、ぜんじろう、綾香の六人はいま、黒塗りのワンボックスカーでひたすら北に向かっていた。

 運転手は深牧家のお抱えである。彼は無表情で樹里に告げる。
「お嬢さま。いま気づいたのですが、我々は後をつけられているかもしれません」
「田島。それは本当?」
「まだ確証はありません」
「撒ける?」
「はい。やってみます。ちょっと荒っぽくなります。みなさまお気をつけ下さい」
 そう言うと、彼はアクセルを深く踏み込んだ。タイヤはスキール音を鳴らしながら、車と車の間を縫うようにしてどんどん前に進んでいく。

「お嬢さま。やっぱりです。この車は追跡されています」
「振り切って頂戴」
「はい」

 さらに、スピードを上げて突き放そうとするが、相手も負けじと食いついてくる。
 大型トラックに阻まれて、なかなか前に出られない。トンネルに入り、緩やかにカーブしているが、このスピードだと急カーブ並みの遠心力がかかり、カーブの外側に体が引っ張られる。タイヤは激しくスキール音を鳴らし、ほんの少しでも運転を誤れば、トンネル内での大事故になりかねない。
「お嬢さま。申し訳ありません。私の腕ではこれで限界です。相手も私と同じでカーレースの経験者ではないでしょうか?」
「そう。田島がそう言うのなら仕方ありません」
 そう言うと、樹里はカン太に尋ねる。
「吾川さん。どうしますか?」

 カン太は、険しい表情で答える。
「まさか、こちらの動きが筒抜けなのかな? まずそれを確かめる必要があるよ」

 その時、綾香に抱かれているシータが話し出した。
「吾川様。では次の出口で下に降りて、相手を確かめましょう。ちょうどよいところがあります。そこまでは私がナビをします」

 樹里の切れ長の目が妖しく輝く。
「田島。今の話の通りでいって頂戴」
「はい。お嬢さま」


 激しくスキール音を鳴らしながら、トンネルを抜けると、高速の出口の看板が見えた。あと、一キロ先。

 一分ほどで分岐点に達する。ウインカーをつけず、一番右側の車線から、三車線またいで高速の出口に向かう。後ろを振り返ると、相手も食らいついてくる。

「高速を降りたら信号を左折して下さい」
「了解」

 ちょうど信号は青。フルスピードで突っ込んで、急ブレーキをかける。うまく減速したところで急旋回して、交差点を通過した。もちろん相手も突っ込んでくる。しかも信号は赤に変わっている。だが、うまくついてきている。

「右に大きな看板が見えます。その手前の脇道に入って下さい」
「了解!」
 激しくタイヤを鳴らしながら脇道に入る。一分ほどすると、街灯がほとんどない真っ暗な山道に入った。

「もうすぐ左側に少し開けた空き地があります。そこで停車して相手の動きを見ましょう」
「了解」

 ハザードを出して、空き地に停車する。
 相手も同じように、ハザードをだして、すぐ後ろに止まった。

「じゃあ、ご対面といきますか」

 そう言って、カン太は車のドアを開けた。
「みんなは車で待ってて。何か罠があると困るから。もしもの時は、助けてよ」
 カン太は、笑顔で腕を上げ、親指を立てた。そして車を降りる。

 カン太は相手の車に近づいていく。
 ヘッドライトがまぶしくて車内の様子がわからない。
 だが、人影が動くのが見えた。車から誰か降りてくる。相手の車のドアが閉まる音が二つ聞こえた。

 バン、……バン


「吾川さん。ご無沙汰しております」
 そこに現れたのは、この春より新聞部の部長に昇格した、藤原大福丸だった。

 そして、長身の大福丸のうしろから小柄な女子がぴょこんと出てきた。

「あ、この前はスクープ写真ありがとうございました。今回も大事件ですね。申し遅れました。私はこの度、新聞部の副部長に着任しました相沢杏子と申します。以後お見知りおきを!」


 淡い緑色の髪をなびかせ、エメラルドグリーンの瞳の美少女。相沢杏子(あいざわあんず)。
 これは二度目の杏子との邂逅(かいこう)。
 カン太は胸騒ぎを覚える。



(つづく)



ご褒美は頑張った子にだけ与えられるからご褒美なのです