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第41話:飲食と電卓

アーケードが

改装された年

アーケードに 

東館ができた

東館には

吹き抜けのある

階段があり

ワークスペースや

団らんスペースには

緑があふれていた


西館は

古いまま

残された

従業員の食堂と

アーケードが所有する

大きな倉庫も

そのまま 残された


その食堂で

わたしは毎日

昼食を食べている


電子レンジで

凍った弁当を

解凍して

水筒に入れた

あたたかい

お茶を飲む


他の従業員も

だいたいは

わたしと同じように

なにか用意してきたものを

食べたり飲んだりしている


向かい合って話をしながら食べている人もいる

このひとと、このひとは、必ずといっていいほど

毎回同じ場所で、同じ格好で

おしゃべりしているなというグループが

何組かいる


その中にうもれて、ひとり

がむしゃらに電卓を打っているひとがいる


わたしはいつも

この人の背中が見える位置に座って

弁当を食べている



このひとは

食堂でほとんどなにも食べずに

電卓の上で、指だけ、動かし続けている


電卓を打ちながら、コピー用紙に印刷された数字を、

同時に確認し、そのようにして

電卓と書類の間を永遠と行き来している


この人の背中から、リズムと息遣いが

きこえてくる


このひとの鼓動を追いかけながら

弁当を食べる


この人はいつになったら、ごはんを食べるのだろう

この人は、どうしてこんなに、電卓を打つのが速いのだろう

このひとは、お腹が空いたと思っていながら、電卓を打たずにはいられないのだろう

このひとは、どんな顔をしているのだろう


でもわたしはいつも切実に思っていることがある


ごはんを食べることは、

電卓を打つのと同じくらい

大切なことだ





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