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AI、ボードゲームのイラスト、それにボードゲームのデザイン(IAs, illustration et création de jeux de société)

本記事は、Bruno Faidutti氏が2022年12月26日に投稿した「IAs, illustration et création de jeux de société」(英題:AIs, boardgame illustration and boardgame design)の翻訳である。

AI技術の発展が著しい。その影響はボードゲーム業界においても大きく取り上げられているように思われる。最初は、Midjourney(テキストの説明文から画像を作成する独自の人工知能プログラム)であり、その後はChatGPTで大きく騒がれたと思われる。本記事は、Faidutti氏によるAI技術とボードゲーム業界に係る雑感めいた話にとどまる(というか雑感だ。)。

ところで、訳者はAI技術の専門家ではないため、この記事の言っていることの当否はなかなか判断がつかないところである。よくある悲観論かなとは思うところではある。なお、原文が「AI」や「Artificial Intelligence」という単語を用いているので訳文も「AI」や「人工知能」と記載しているが、正確には「AI技術」と思われる。

翻訳するに当たって、毎回、基礎的な事項を調査するのだが、その中でボードゲームの種々の過程でどのような影響があるかについて簡単にまとめられた記事を見つけた。また、AIによるサポートを用いてボードゲームを製作した記事も見つけた。まだまだ掘っていけば、さまざまな記事が見つかるように思われる。Kickstarterにおいても、AIに関する利用ポリシーが公表されたことを記憶に新しい。興味があれば、こういった記事のほかにもさまざまな記事を参照されると有意義であるように思われる。

元記事は以下のリンク先を参照されたい。ヘッダー画像はみんなのフォトギャラリー機能を利用させていただいた。

この数週間で、教員とゲームデザイナーという私の2つの仕事において最も話題となった議論事項の1つは、人工知能の参入が予想よりもはるかに早く進んでいるということだった。今はまだ、教員たちは多少なりともChatGPTを用いた生徒の課題を見分けることができるが、それが長続きしないことがわかっている。私たち教員は、まずもって、そして早期に、不正行為を防止するために生徒の能力を評価する方法を変化させなければならないのだろう。その後、機械の推論能力(synthesis)や思考能力(reflexion)が我々の能力を上回る世界において、もっと有益となる新しいカリキュラムを考えなければならない。おそらく、数学、言語、文学、経済学は減らして、手作業(handiwork)、力学(mechanics,※機械学)、調理、それに裁縫が増えるだろう。ボードゲーム業界では、イラストレーターは、既にMidjourneyとその仲間たちに仕事が奪われつつあることを恐れている。けど、私のようなボードゲームデザイナーも、違った形で将来を考えるべきだと思う。このブログは、私の生徒や同僚の教員たちよりもボードゲーマーに読まれるほうが多いから、以下では、主として、新しいAIがもたらす可能性があるボードゲーム業界への影響と、私たちがとり得る反応について話そうと思う。

ウェブ上、まあ正確には、Discord上でMidjourneyが突如出現した。大体、数か月前だ。これによって生み出されたのは、最初は好奇心、ついで驚きと戸惑い、そして懸念、時には反発であった。こういったテクノロジーによる考えられる影響を正確に分析するためには、当然だけど、歴史学者であり社会学者であるべきだ。私はそれに属するんだけど、それだけでなく、神経科学とコンピュータ科学の専門家でもある必要がある。私は、この2つの領域についてほとんど門外漢である(two domains in which I am largely incompetent)。この二重の不適格さ(ineptitude)があるにもかかわらず、もしくは、二重の不適格さがあるおかげで、個人的には、この数週間で読んだコメントの大多数が、コンピュータが何をしているのか全くわかってなかったり、主義主張的に不適格とみなしたりするアーティストや、印象的な技術的パフォーマンスをぼけーっと見ただけで、多かれ少なかれ意図的にその人間らしさや社会的な意味合いを無視したオタクによるものだったように思えた。

MidjourneyによるSFボードゲームの箱絵
Midjourneyによるファンタジー一家のボードゲームの箱絵

あらゆるボードゲームデザイナー、ボードゲームイラストレーター及びボードゲーム出版社を含む全ての人が、Midjourneyや、時にはStable Diffusion(※Midjourneyと同種のサービス)をいじり始めている。こういったツールは、少なくとも簡単に使い方が覚えられる人たちにとっては実に強力なものだ。というのは、私がプログラミングに指示するのが非常に苦手のようで、本当に納得できるものを作ることができなかった。とにかく、出版社は、ほぼ無料で、常に納期に間に合ってくれるイラストを夢見るようになり、デザイナーは見栄えの良いプロトタイプを夢見るようになり、イラストレーターは悪夢を見るようになったとさ。

アーティストが自分たちを安心させようとして想像する希望的観測の主な論拠は、人工知能によるイメージは魂が抜けたものだし、これからもそのままであって、それでは意図や感情を伝えることができないというものなので、ゲームイラストレーターが最も懸念をしている人たちに含まれる。大抵の場合、ボードゲームのアートは純粋に理解に役立つもの(illustrative)であるから、こういった論拠の全ては、ボードゲームのアートに必要とされているものでは決してない。私は、この論拠すら虚無な(vain)ものであると思う。そして、ほとんどのグラフィックアーティストは、仕事そのものが脅かされるとはいわないまでも、少なくとも今の彼らのやり方について比較的短期間でその立場を脅かされることになる。ここでの問題は、コンピュータが人間をどこまで真似することができるかではなく、我々の脳がコンピュータと本当に異なる働きをしているかどうか、我々が機械にとって異質なことをし続けることができるのかということだ。既に述べたとおり、私は、人間の専門家ではないし、コンピュータの知性や推論の専門家でもない。けど、(※我々とコンピュータの)違いがそんなにあるかはよくわからないし、繊細な感情を伝達することがグラフィックAIの領域外に長い間あり続けるかもわからない。ビーチで夕焼けを見たことがある人なら誰でも、その感動を伝えるのに感情は不要であるとわかっているさ。文章生成AIであるChatGPTは、まだ機微に富んだものではないとはいえ、ユーモアを示し始めている。

いずれにせよ、職が危機に瀕しているのがボードゲームイラストレーターだけではないとしても、彼らは前線にいる(※最初にあおりを喰らう)。SNS上にいる私の友人であるアーティストの大半の反応は、出版社に対し、データベース内にある既存又は多くの場合に法的に保護されている作品を利用する、"不誠実な"AIの使用を自制するように求めていくというものだった。このネオラッディズム(neo-luddism, ※現代技術に反対する主義・思想。新しいラッダイト運動)は、正当な理由がなく、虚無で、望む結果をもたらさないものですらある。正当な理由がないというのは、AIの大部分についてみると、人間のアーティストと大きく異なった作業をしていないからだ。AIは、見たことがあったり、時として学習したことさえあったりする既存のアートから着想を得ている。そして、文化的に宙に浮いた(a cultural limbo, ※文化的な文脈がない)中から創造することはない。虚無であるというのは、人工知能によるアートが人間によるアートと同じくらいの良いもので安価であれば、繊維産業でのラッダイトの意に反して起こってしまったように、人工知能によるアートが最大の市場シェアを手にするのが不可避であるからだ。将来的なAIとの補完性に疑問を抱いていたり、保護されたままとなろうニッチな市場を見つけようとするアーティストは、何とか生き抜く可能性が高くなるだろうね。機織り職人はほぼいなくなった。15年前よりかは少なくなったけど、翻訳者はまだ存在していて、紛い物ではない(authentic)手書きの(hand made)翻訳のために高い金を払いたいやつなんかいないので、コンピュータで作業しているよ。

MidjourneyとChatGPTの出現に、ほぼ全員が驚いた。AIの必然的な進歩、とりわけこれまで以上に複雑で創造的な仕事を行うことを予想していなかった。このペースなら、数か月ではないものの、数年以内に、Midjourneyがピカソレンブラントよりも良い絵画を描きつつ、ChatGPTが完全に本物らしいシェイクスピアの演劇やドストエフスキーの小説を書くようになっても驚きはしないね。オンラインのAIは、今のところ特化しているが、次世代型は、もっと多才になり(versatile)、例えばゲームデザイナーのような創造的な道楽みたいな仕事(the work of creative dabblers)を取り扱えるようになるだろうさ。私が間違っていることを望むよ。けど、私の見込みでは、一、二年以内に、こういったAIが、私のようなプロのデザイナーが製作したボードゲームと同じくらい良い完全なボードゲームをデザインすることができるようになるだろう。すぐに、AIは、もっと多くの参考文献と具体例を伴って、スペリングや文法的に優れた形で、このような記事を書くことができるようになるんだろうね。

私たちは、長い間、芸術的な仕事や知的な仕事が技術的な進歩や自動化によって脅かされることは決してないと思っていた。取って代わるのは、ありふれた手作業しかあり得ないとね。私の青年時代である60年代では、ロボットが建物を建設し、組立てラインで作業し、時には家を掃除する世界を夢見ていたが、いつかロボットが絵を描いて詩を書くことを想像した人はいなかった。その逆が起こっている。そして、機械に行わせることができないことに対して、通常、高い賃金を支払うこととなっているので、配管工、宅配便の運転手、家政婦がアーティストやエンジニアよりも高い給与をもらう世界に入り込みつつあるかもしれない。少なくとも同水準の給与となり、必ずしも悪いことではない。残念だけど、資本主義の内在的な論理のおかげで、上向きの変化よりも下向きの変化の方が起こる可能性が高いね。知識人は適応しなければならなくなるだろう。不器用な私というと、適応することはできなさそうだなと感じるね。

こういった憂慮とは対照的に、SNSのあちこちで、特に徹底したオタク共から、機械と共存する将来の生活について楽観的な見解を見ることもできる。人工知能は、人間の知性、更には人間の愚かさによって生み出された社会的・環境的な問題を解決することができるかもしれない。しかし、こういった話は、アートや創造とはほとんど関係がない。ロボットが肉体労働を担い、コンピュータが知的作業を担うのであれば、私たちは、セックス、ドラッグ、ロックンロール、そしてボードゲームに費やす時間が増えるはずだろう。古代の農業における技術的な進歩に感銘を受けたアリストテレス以来、この予想は何十回となされてきた。そして、今回が、まさしくそうなると信じる理由などない。この話は、非常に重要な点を看過している。機械やロボットにより行われる肉体作業の大部分とは異なり、創造的で知的な活動というのは、主として楽しいものである。大多数のアーティストにとっての現実の問題は、作者の権利ではなくて、作者の楽しさにある。平凡で苦痛な作業を機械に代行させることは良いことかもしれないが、予想以上に難しいことのように思える。創造的な活動を機械に代行させることもまた別の難しさがあり、より問題性がある。こういった変化に関する社会的な影響については、これ以上深入りするつもりはない。その話は、政治的な文脈に強く依存するし、労働者、それも知的労働者にとってすら非常に都合が悪いもののように思える。

上述したとおり、私は、神経科学やコンピュータ科学にあまり詳しくはない。私が間違っているかもしれないし、すぐに人工知能が生身の人間と同じくらい素晴らしい創造的な仕事をして、それが区別できなくなってしまうと考えていることについて、願わくば間違っていてほしい。しかし、たとえ私が間違っていたとしても、AIを止めようとか、AIが禁止された小さな世界に退避しようとかということは誰も得しないと思う。"虚無"は、おそらく、このブログ投稿の中で最も頻繁に使用した形容詞だろうね。

最近AIについて記事を書いたあらゆるジャーナリストのように、私もChatGPTに意見を尋ねたんだ。"ボードゲームのデザインとイラストに対するAIの影響はどんなものになるだろうか?"と尋ねたら、その回答は、ほとんどゲームの内容を取り扱っていて、興味深いものではあったが、ここで議論した内容ではなかった。私は、"ボードゲームデザイナーとボードゲームイラストレーターの仕事と職に対するAIの影響はどんなものになるだろうか?"と質問を書き換えた。奴の予想は、私のほど強烈ではなくて、2021年末までにこの問題について表現された平均的な見解に基づくものであるので、私が驚くところはなかった。そうは言っても、"研鑽と準備"をするようにと忠告するものだった。

人工知能(AI)の活用により、ボードゲームデザイナーやボードゲームイラストレーターの仕事や職に対してどのような影響が出るかについて正確に予測することは困難でございます。しかしながら、例えば、ゲームのコンセプトを生成するとか、基礎的なイラストを作成するとかというような、ボードゲーム製作に関連する特定の作業を自動化するためにAIを用いることは考えられます。こうすることで、特定の作業に従事する人間の労働者の需要を減らすことになる可能性がございますが、AIが人類の創造力や創造性に完全に置き換わることはあり得ません。

ボードゲームデザイナーやボードゲームイラストレーターの仕事を手助けするツールやリソースを供給することによって、AIが彼らの作業効率を高めることもあり得ます。例えば、ゲームのアイディアを生成したり、高品質のイラストを作成する手助けをしたりするために、AIを用いることが考えられます。

あらゆる専門性のある職業と同じく、ボードゲーム製作においてAIを活用することにより、デザイナーやイラストレーターの職やキャリアに変化をもたらすかもしれません。この分野におけるAIの進化を入念に監視して、影響を受ける労働者側がこういったあり得る変化に向けて研鑽して準備することが重要なのであります。

以上

※Bruno Faidutti氏の記事としては、ほかに以下のものがある。

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