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ボードゲームにおけるラウンド終了時の目標の良いところと悪いところ(The Pros and Cons of End of Round Objectives)

本記事は、Anthony Faber氏が2023年3月6日に投稿した「The Pros and Cons of End of Round Objectives」の翻訳である。

長文にわたるデザイナー・ダイアリーの翻訳が続いたことから、やや疲弊しているので、このような短めの記事を翻訳してもいいだろう。

筋金入りの「テラミスティカ」ファンから見た「テラノヴァ」のちょっとした感想も記載されている。なぜ、「テラノヴァ」は、「テラミスティカ」とは異なる出版社から発売されるのかについてまことしやかにささやかれてる根拠のない噂に関するヒントなのかもしれない。

元記事は、以下のリンク先を参照されたい。ヘッダー画像はみんなのフォトギャラリー機能を利用させていただいた。

文字の壁をゆっくりと苦労して読み進めるよりも、この議論を耳で聴きたいというのであれば、私たちのポッドキャスト「Two Wood for a Wheat」の以下のエピソードを聞くといい。そこでは、「兵馬俑」のレビューもしている。

ラウンド終了時の目標というのは、現代ボードゲームにおいて"中間得点"という広範なカテゴリに属する。「バニーキングダム」や「ザ・ギルド・オブ・マーチャント・エクスプローラーズ」のようなゲームでは、プレイヤーは、ボード上で達成したあらゆる事柄について、それぞれのラウンドの終了時に中間的な得点計算を行う。そして、各ラウンドで、その得点は幾何級数的に(※geometrically, 原文はこの単語を用いているがタイポと思われる。)増える(もし、うまくプレイしていたならばね。)。ラウンド終了時の目標は、中間得点の形で毎ラウンドに行うという性質と、ゲーム終了時の目標にある特異性とを併せ持っている。1ラウンド目の終了時に、サプライにあるあらゆる小型装置(widget)につき2点を得る、2ラウンド目の終了時に植えられている木につき3点を得るなどなど。

クレジット: Anthony Faber

ラウンド終了時の目標の活用には2つの強みがあるとみられる。1つは、ゲームごとに多様性が生まれるということだ。異なる目標により、毎回、全く異なるパズルが生み出される。そして、何百回プレイした後であっても、「テラミスティカ」や「テラミスティカ:ガイアプロジェクト」というラウンド終了時の目標で最も有名なゲームにおいてみられるとおり、ゲームの面白さが維持される。2つめの利点は、こういった目標により緊張感が生み出される。自分は、こういった魅力的な目標を達成するために自分の計画から逸脱するのか? プレイヤーは、目標を達成するために2番目に良い手(suboptimally)プレイするコストと、目標から得点(やリソース)を得られないコストとを比較検討しなければならない。

適切に計画を立ててうまくプレイするために、ゲームが始まる前であっても、多くの場合、プレイヤーはこういった決断をする必要がある。ゲーム開始前の目標の品定めは、「テラミスティカ」や「テラミスティカ:ガイアプロジェクト」(及びその後継作である「クランズ・オブ・カレドニア」や「バラージ」)の筋金入りのファンども(diehard fans)が深く楽しむポイントだ。

これらの4つのゲームでは、各プレイヤーによってドラフトされる非対称のプレイヤー固有能力は、こういった目標と多かれ少なかれうまくかみ合うものだ。

しかし、他の人たち、特に、所定のゲームの熱狂的なファンではない人たちは、こういった全く同じ事柄を弱点とみることとなる。ゲームシステムについて精通してない人であれば、こういった目標を適切に評価することは困難であるし、固有能力やスタート位置の選択を誤ってしまうと、ゲームの最初の手番が行われる前に敗北する立場に置かれることとなってしまう。さらに、ゲーム終了時の目標がプレイごとに多様性を作り出すとしても、制限があるように感じさせてしまう可能性がある。つまり、プレイヤーは、やりたい戦略を完全に自由に追求することはできない。例えば、もし、プレイヤーが、科学技術に基づく戦略を試してみようとするが、その代わり、目標がマップ上での迅速な拡大に対するインセンティブを与えるものであった場合には、そのプレイヤーは、自分にとって面白みのない形でプレイするか、下手なプレイをするかの二択を強制されることとなる。

広い意味では、この相違は、どういうゲームが楽しいかという点に関する2つの根本的に異なる見解の衝突である。一方は、プレイヤーの心のおもむくままにどんな戦略でも追求することができるという完全な自由に由来する楽しさである。他方は、変化する目標(と他の要素)を適切に評価して特定のセットアップに基づいた最適なプレイ方法を導き出すパズルを解くという楽しさだ。後者を好むプレイヤーは、頻繁にゲームを遊ぶ可能性が高いので、特定の戦略ばかりしたり、特定の戦略を全くしなかったりするのは問題ではない。それは、結局のところ、次のゲームで異なるプレイをするインセンティブになる可能性が高いからね。

ラウンド終了時の目標を利用したゲームデザインの落とし穴の1つは、そのゲームのバランスが、メカニズムが魅力的になるために適切でなければならないことだ。もし、目標が十分に重要なものでなければ、プレイヤーはほとんど無視するだろうし、それら(※あんまり重要ではない目標)をゲームに取り入れてしまうと、ゲームが肥大化していると感じさせてしまう危険性が伴う。真逆はもっと悪い。もし、目標が重要すぎるとしたら、目標を達成するか否かについて緊張感のある決断というのは一切なくなる。全プレイヤーは、完全に目標を達成しなければならなくなり、さもなければ、敗北するだけだ。

このことは、昨年出版された「テラミスティカ」の単純化したバージョンである「テラノヴァ」に起こったことだと思っている。あらゆる面において、このゲームは、半分のプレイ時間と半分のルールしかないのに、祖先である(progenitor)「テラミスティカ」の本質を見事に捉えている。しかし、得点する機会をいくつか省いたことで、ラウンド終了時の目標が重要すぎるものとなってしまった。苦しいトレードオフが伴うことは一切ない。結果として、得点を取得する方法に関するプレイヤーの選択からは、そうする(※苦しいトレードオフが伴うような選択をする)のに十分な方法がないことから、ゲーム終了時に緊張感が全く存在しない。

クレジット: Anthony Faber

意思決定をする空間を増やす、ラウンド終了時の目標を設けるのに、ユーロゲームである必要はない。激しいプッシュ・ユア・ラック形式のバックビルドとエリアコントロールのゲームである「Wonderland's War」は、ボード上に各ラウンドで異なる量の得点分の価値がある場所を設けている(このセットアップは毎ゲームで異なる。)。こうすることによって、基本的に、毎ラウンド変動する目標が生み出されることとなる。このラウンドで大量の得点分の価値がある場所を大きく押し進めるか、今の段階では数点分の価値しかないが、後々にもっと多くの価値が出る場所に向かうか。多くの場合、現在価値が低めの場所は、そんなに争われることがなくて、後々により価値が生じた段階でその場所で得点を得るために自分の軍隊を駐留させることができるので、後者の方が良いプレイということになる。

時として、ラウンド終了時の目標はゲームプレイというよりもテーマに基づいていることがある。「Obsession」では、Fairchild卿と夫人の寵愛を得て、最終的に結婚に至るために各ラウンドで争いがある。メカニズム的には、このゲームの目標は、私の好みからするとランダムすぎる。その理由は、各ラウンドの最初になってFairchild卿と夫人が望むことがわかるのであり、プレイヤーは、彼らが求めていることを既にやってしまっているかもしれないし、やってないかもしれないという状況だからね。けれども、テーマ的には、ジェーン・オースティンの求婚(courtship)というテーマに完璧に合致しているし、みんないたく気に入っているように思える。得点計算の時になるまでFairchild家の目標を全く明らかにしないことで、もっとランダムにするバリアントすらある。

クレジット: Anthony Faber

最後に、私のエッセイが、お気に入りのこだわりの話題(obsession)に触れることなく終わることなんてほとんどないね。そのこだわりってのは、ゲームが人間のバイアスや誤りをどのように明らかにしてくれるかということだ。昨年発売された「兵馬俑」といったゲームの中には、プレイが進むにつれてラウンド終了時の目標の価値が増加するものがある。論理的には、プレイヤーは、後に出てくる目標を優先し、最終的にはその目標はそれ以上の価値になるので、序盤で目標達成に向けて(※戦略を)構築すべきだ。しかし、そうではなくて、ほかの何よりも特定のラウンドの目先の目標を追求するプレイヤーを目にすることが多い。この目先のことを重視するバイアス(immediacy bias, ※直訳は即時性バイアス)、あるいは時として現在志向バイアスとも呼ばれるものは、正当化されるように思える。つまり、今がプレイヤーにとってこのラウンドの目標を獲得する最後のチャンスであって、ほかの目標に向けてアクションを行う時間がまだあるからね。しかし、将来に向けて一生懸命やりくりすることなく、各ラウンドで目標から目標に目移りして競走に参加するプレイヤーというのは、人生と同じように「兵馬俑」でも敗北することになる。

みんなはどうかな? 重要なラウンド終了時の目標を用いているお気に入りのゲームは何かな? みんなにとって、ラウンド終了時の目標がうまい具合にいってない場合はどんなときかな? 下のコメント欄で教えてほしい。

以上

※Anthony Faber氏の記事として、ほかに以下のものがある。

(上記記事は本記事と特に強く関連している。)

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