マガジンのカバー画像

29
書いた詩をまとめてます。
運営しているクリエイター

#現代詩

詩28「台風とメランコリア」

台風とメランコリア

「星」の付く街の皮膚科に向かう
昨日の台風の尻尾がまだ停滞している
風が丸くわたしをくるんで強い力でシャツを巻き上げた
髪の毛はもうぐしゃぐしゃで直す力もない
坂道は長く続いて息が上がるので
マスクを外して新鮮な空気を肺に満たした

指先にクトゥルフの目玉のような水泡ができて
その数は日々増えている
宇宙から来た神話生物の目玉は大小さまざま
夜になるとたぶんそいつらは蠢いて

もっとみる

詩27「ミザリー」

宇宙人がやってきてあたしの手首を掴んだ
燃えるような夕焼けだった
薔薇の花びら散らしたような
今まで見たことのない、見たことのない赤
おそろしく綺麗な

涙が横に流れていって納屋の床に滴った
よく見るとあなたも泣いてる
行かないでくれと懇願している
ごめんなさいあたしの脳は全てを拒否して
忘却の津波に揺れてる

古いホウキや錆びたオイルの缶
埃を被ったテントだとかそういうのはわかるの
あなたは誰な

もっとみる
詩26「死にはしない」

詩26「死にはしない」

(どんなに眠らなくても)

油絵を描いていた
100号の自画像だった
部屋の何処かから紛れ込んだ蝿がうざくて
汗をかいていた
夏の間に描かなければならなかった
裸に近いワンピースで私を描いた

(死にはしない)

バイトをしていた
ファミリーレストランだった
グレーの口紅を塗り髪を短く切り揃えて
汗をかいていた
新人に仕事を教えなければならなかった
制服はいつも油で汚れていた

(季節というものは

もっとみる
詩25「わたあめは誰のもの」

詩25「わたあめは誰のもの」

わたあめは誰のもの
白くてなんて古い
虹色のだよ
コットンキャンディ
掴んだら飛んでいけそうなでかいやつ
あれが食べたいなおかあさん
森でさひとりで食べるんだ
リスに分けてもいい
そうしたらさ虹が出るんだ
この街の虹はあれから出来てるんだ
虹色のわたあめ食べたいなあ
ぼくはいつか思い出すんだ
わたあめを食べたんだってね
大きいやつをね

詩24「鳥の埋葬」

詩24「鳥の埋葬」

鳥が落ちていた
うちの玄関フードのガラスに
よくぶつかって落ちるのだ
くちばしから小さな血
この子の内臓はどうなっちゃってるんだろう
綺麗綺麗なハンカチを用意して
庭の墓スペースにしずしずといざなう
そして埋葬
そして黙祷
馬鹿だなあ死ぬなんて
冷たい固い死骸の感触
手を洗ってもしばらく消えなかった
別に個体として愛してはいなかったけど
愛していたよ
小さないのちを
わたしの切り傷を一つあげるから

もっとみる
詩23「木こり」

詩23「木こり」

とーんとーんと音がする
胸に巣くった木を切除する音
小さい木こりが
小さい斧で切り倒す
たおれるぞーと声がする
わたしは安心して午後のコーヒーを淹れる
木こりには麦茶を
愛ってなんだか疲れちゃって
隙間に種が入ったみたい
金魚に餌をやると
喉まで開けて求めてくる
こんな顔をしてたんでしょうか
金魚の喉に黒子

詩15「崑崙」

詩15「崑崙」

意地悪な猿が桃を投げる
食べられない硬い桃だ
あたしは炎の矢で木ごと焼く
散り際の猿の吐息が甘くって
顔を逸らす
紫陽花は返り血を
優しく拭ってくれるから好き
砂糖の入ったコーラは
糖尿患者には垂涎の的
ぬるいノンシュガーほど惨めなことはない
今日は双極性の躁の患者が歌い踊る日
鬱のカーテンはあまりに厚い
血を細く垂らした川には精霊流し
多重人格の人たちが上流から流す
喧嘩もなく花が撒かれる
脈絡

もっとみる
詩11「落雷」

詩11「落雷」

赤い雲が裂けて
森の奥の一本の樹に落雷する
燃え広がることなく
昼間のように明るく燃える
リスは非常食を持って逃げた
ひっそりと深い森の奥
誰も知らない
わたしの胸の中
一本の木が燃える
燃え尽きる様子のないそれは
光の樹のようになり
神様の遣わした大きな鹿
ああわたしは滅んで行くんだね
そして生きていくんだね
涙は蒸気に変わる
わたしの顔を焼く
見知らぬわたしになる
わたしはわたしの髪を捧げる

もっとみる
詩7「ふるえる」

詩7「ふるえる」

そこで震えているものよ
邪悪な猛禽類の目を見たのか
家族が遠くに行ったのか
新聞を細かく読んでしまったのか
魂がぶるぶると線香花火の最後のよう

フクロウはウサギを見つけて去ったし
天国は今はいっぱいで
お前の探す家族はいないだろう
新聞は焚き付けにするものだし
お前の寿命を延ばすだろう

神の作りたもうた精巧な蜘蛛のデザイン
巣にかかった水滴の数珠
それら全てはお前のためのもの
旅に出るのに必要

もっとみる