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詩32「流砂」

詩32「流砂」

※第32回詩と思想新人賞の第一次予選通過作品に残していただきました。
ありがとうございました。
作品を公開します。そっと。

流砂

展覧会に来ていた、時間があったので。こつこつ音のする靴はマナーに反していると知っているけれど申し訳ない、そっと歩く。薄暗い展示室に入ると眠りの空気が満ちていて、よく見ると監視員の女性が船を漕いでいた。恋人宛の詩のメモ帳を広げている。宗教画の展示のようだった。あらゆる

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詩31「百合迷宮」

詩31「百合迷宮」

百合が切られていた、頭の部分を全部。三十くらいは生えていたと思う、真っ白い百合。

わたしはその頃めちゃめちゃに古いアパートに住んでおり、他所の庭を眺めて歩くのが好きだった。好みなのはちょっと荒れてて草花が自由に生えている庭。みんなそんな感じだった。その家の庭はそもそも異質だった。百合だけが三十本生えている。目隠しの庭木が何本かと。

子供がたんぽぽの花を親指で飛ばしたように、花が無くなっていた。

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詩30「あした暗黒星雲のほとりで」

詩30「あした暗黒星雲のほとりで」

つま先から死後硬直が始まって
つらい日々に
さよならができる
嬉しい
そのとき
窓の外から
鳥の羽音がした
ものすごく
たくさんの
鳥みたいなものに
あおむけにされ
たましいだけを
抜き取られた
わたし


いろんな世界の、いろんなひとの意識が固まってる何かにアクセスして、中に取り込まれる。愛も戦争もごちゃまぜの集合体だ。わたしの記憶も分断される。がりがりと歯車で摺りつぶされる。夏休みのアサガオ

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詩29「コールマイネイム」

詩29「コールマイネイム」

彼女は最近重くなってきた子供を暖かくして前に抱き
真駒内駅に向かうことにした
真駒内駅は札幌の地上に出ている地下鉄駅
バス乗り場があるから待合室は広い
そこに行こう、と鏡を見る
化粧をしていないそばかすのある赤い顔だ
まだ十代に見えるのか十代なのかわからない

なまえをよんで

彼女が待合室に行くと、真ん中にストーブがあり、
ほどほどに人がいた
外はひどい吹雪になってきたから、逃れて入ってくる者も

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詩28「台風とメランコリア」

台風とメランコリア

「星」の付く街の皮膚科に向かう
昨日の台風の尻尾がまだ停滞している
風が丸くわたしをくるんで強い力でシャツを巻き上げた
髪の毛はもうぐしゃぐしゃで直す力もない
坂道は長く続いて息が上がるので
マスクを外して新鮮な空気を肺に満たした

指先にクトゥルフの目玉のような水泡ができて
その数は日々増えている
宇宙から来た神話生物の目玉は大小さまざま
夜になるとたぶんそいつらは蠢いて

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詩27「ミザリー」

宇宙人がやってきてあたしの手首を掴んだ
燃えるような夕焼けだった
薔薇の花びら散らしたような
今まで見たことのない、見たことのない赤
おそろしく綺麗な

涙が横に流れていって納屋の床に滴った
よく見るとあなたも泣いてる
行かないでくれと懇願している
ごめんなさいあたしの脳は全てを拒否して
忘却の津波に揺れてる

古いホウキや錆びたオイルの缶
埃を被ったテントだとかそういうのはわかるの
あなたは誰な

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詩26「死にはしない」

詩26「死にはしない」

(どんなに眠らなくても)

油絵を描いていた
100号の自画像だった
部屋の何処かから紛れ込んだ蝿がうざくて
汗をかいていた
夏の間に描かなければならなかった
裸に近いワンピースで私を描いた

(死にはしない)

バイトをしていた
ファミリーレストランだった
グレーの口紅を塗り髪を短く切り揃えて
汗をかいていた
新人に仕事を教えなければならなかった
制服はいつも油で汚れていた

(季節というものは

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詩25「わたあめは誰のもの」

詩25「わたあめは誰のもの」

わたあめは誰のもの
白くてなんて古い
虹色のだよ
コットンキャンディ
掴んだら飛んでいけそうなでかいやつ
あれが食べたいなおかあさん
森でさひとりで食べるんだ
リスに分けてもいい
そうしたらさ虹が出るんだ
この街の虹はあれから出来てるんだ
虹色のわたあめ食べたいなあ
ぼくはいつか思い出すんだ
わたあめを食べたんだってね
大きいやつをね

詩24「鳥の埋葬」

詩24「鳥の埋葬」

鳥が落ちていた
うちの玄関フードのガラスに
よくぶつかって落ちるのだ
くちばしから小さな血
この子の内臓はどうなっちゃってるんだろう
綺麗綺麗なハンカチを用意して
庭の墓スペースにしずしずといざなう
そして埋葬
そして黙祷
馬鹿だなあ死ぬなんて
冷たい固い死骸の感触
手を洗ってもしばらく消えなかった
別に個体として愛してはいなかったけど
愛していたよ
小さないのちを
わたしの切り傷を一つあげるから

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詩23「木こり」

詩23「木こり」

とーんとーんと音がする
胸に巣くった木を切除する音
小さい木こりが
小さい斧で切り倒す
たおれるぞーと声がする
わたしは安心して午後のコーヒーを淹れる
木こりには麦茶を
愛ってなんだか疲れちゃって
隙間に種が入ったみたい
金魚に餌をやると
喉まで開けて求めてくる
こんな顔をしてたんでしょうか
金魚の喉に黒子

詩21「愛に至る」

詩21「愛に至る」

もっとも華麗に螺子を外して
思考の飛躍をせねばならない
ワルツもタンゴも一緒くたに
地下の劇場借り切って踊るの
もっと髪を振り乱して言葉を
空から受けなければならない
私もう壊れているのであれば
思考の飛躍をせねばならない
もしも書きたい詩あるのなら
車のボンネットで踊れ夜中に
星座をかき回して未来を食え
棒付きの飴光らせて雨の中を
破れた傘で今日も歩いて行く
水の漏れる頭でゆらゆら震え
紙と万年

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詩20「暑くて」

詩20「暑くて」

昨日は雷だったから
ビニルハウスが幾つか燃えた
焼けたみかん
誰も知らない女の遺体
そこで産まれたかのように
本当に誰も知らない
虹が消える頃
みんなは忘れた
暑くて

はつなつ晴れか雨かのどっちか
繰り返し繰り返しの
ベルトコンベアーの日々よ
輪廻転生飛び降りて
タクシーで家に帰りたい
おいしいパンケーキを作って暮らしたい
願い事を叶えて
生きられる気がしないの
暑くて

君の悲しみが
ぼく由来

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詩19「ある患者」

詩19「ある患者」

沼の中に唐突に落ちる
もしくは目が覚めたらもう沼の中
が双極性障害の鬱だと思う
新しく買った赤いナイフを
どこかの庭のクレマチスの蔓を
羨ましく眺めたら希死念慮である
死にたいと口に出したら心配されるので
ちにたい、の「ち」を、ち、ち、ちと呟いている
(それも心配)
主治医に報告する自分も主治医のセリフも見えている
「先生また調子が良くなくてえ、ちょっと死にたくてえ」
「そうかい今年はずっと良かっ

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詩18「こもりうた」

詩18「こもりうた」

汗をかいたオレンジ絞って昔の話をした
ワインとクラッカー割れた鏡
朧げな記憶が心地よくて
そのまま眠りそうになる
全て肯定するよ君の話を
砂の中の都の大冒険も
君の天使が磔刑にあった話も
全てが心地よい子守唄
痩せたロバがいななくまで
続けてくれ酒はあるから
おじいさんが乗ってたプロペラ機は
藤の色だったと聞く
真偽はいいんだ残ってないし
君を乗せる夢を見ていいだろう
なんて幸せな夜
私は幸せな亡

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