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今日も更紗は、絶賛生存中

数年前にこの本に出会った。私にとっては「家庭の医学」よりも体の為になる本だと思っている。

私はいろんな持病もあり、精神的に「もう嫌だな」と思っていた時に大野更紗さんのことを知った。そしてその足で本屋に直行してこの本を手に入れた。難病を扱った闘病記は他にもたくさんある。それらのほとんどは神妙な面持ちで読まれることだろう。この本も括りでいえば闘病記になるのだろうが、この本はそんじょそこらの闘病記とはちょっと趣が違うのだ。

笑える。

こんな大変な苦しい思いをしている人のことが笑えるのだ。不謹慎かもしれないが、たぶん読んだ人がみんな笑っているに違いない。

大野更紗さんは上智大学大学院生だった頃、難病である筋膜炎脂肪織炎症候群という難病を発症した。当時住んでいた長屋の一室で煎餅布団にくるまってうめき苦しんでいるところからこの本は始まる。うめきながらもビルマ難民のリサーチをするためにタイに行くことが決まっていて、ビルマ研究者になるべく体の不調を誤魔化しながらタイへ行ってしまう。そして不調に耐えきれずに途中帰国することになる。それからその病気と診断されるまでに死ぬ思いで病院に通い、死ぬ思いで検査を受け、死ぬ思いで入院生活をおくる。麻酔なしで手術を受けたりもする。しかし難病であるゆえ治療法はない。

目次を読むだけでも更紗さんの凄さがわかってしまう。

「絶望は、しない」「わたし、難病?」「わたし、ビルマ女子」「わたし、入院する」「わたし、壊れる」「わたし、絶叫する」「わたし、瀕死です」「わたし、シバかれる」「わたし、死にたい」「わたし、流出する」「わたし、溺れる」「わたし、マジ難民」「わたし、生きたい(かも)」「わたし、引っ越す」「わたし、書類です」「わたし、家出する」「わたし、はじまる」

読んでいる私も顔をしかめたくるような苦痛の日々をなんでこんなにも軽やかな文章で書けるのかとびっくりする。もちろん更紗さんの文章力のなせる技なのだが、基本的に自分自身を客観視する技もすごいのではないかと思う。

いーたーい!!2009年11月初頭のある日。わたしは、オペ室で、麻酔なしで左腕の筋肉を切り取られながら、泣き叫び絶叫していた。ちなみに室内に流れているBGMは、忌野清志郎の『毎日がブランニューデイ』である…なにゆえ、わたしはこんなところで2時間も麻酔なしで切られ続けているのか。キヨシロー、どうなっているんだYO!(本文より一部抜粋)


でも、更紗さんが書いているのは単なる闘病の記録だけではない。毎日死ぬ思いで生きながらも、日本の医療や福祉制度の問題点、地方自治体の問題点、医者と患者の不都合な真実など、難病になってから真剣に考えたことが更紗さんなりの知識でちゃんと記述されている。世の中は(いや日本は)困っている人にとって本当に優しい国なのか、手を差し伸べてくれる国なのか、甚だ疑問を感じるが、一生懸命に生きていると「ほらっ」と優しさを分けてくる人もいる。そういう人に巡り会うのは更紗さんの人柄なのかもしれないと思う。

この本を読むと、だいたいのことは平気になる。まだまだ自分は大丈夫だと思えてくる。「どんと来い!」という気持ちになる。困っている人を足がかりにして自分の元気を手に入れるなんてどこか虫が良すぎるのかもしれないが、「家庭の医学」には記載されていないであろう病気に立ち向かう原動力みたいなものをこの本で得ることができる。きっと更紗さんなら許してくれるだろう。「はははっ、そりゃよかったね」と言ってくれるだろう。

更紗さんは現在執筆活動は休止されているようだが、東京大学医科学研究所・公共政策研究分野の特任研究員として患者さんと患者さんが生きる社会を目指して研究に励んでらっしゃるようだ。

更紗、がんばれ。
彼女はまだ闘病中。
絶賛生存中。

何かに困ってる人、読んでみて。

きっと未来は明るくなる。





読んでいただきありがとうございます。 書くこと、読むこと、考えること... これからも精進します。