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第三章数学と幽霊Ⅱ、第十五話 邪教

第三章 数学と幽霊Ⅱ
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性同一性障害と勘違いして悩む
義理の妹に悩むぼくの物語
第三章十五話 邪教

第十三話 愛光女子学園-恭子と順子
第十四話 恭子
第十五話 邪教

手配

 さすがに恭子は順子の一番の妹分だっただけあって、行動が早かった。
出所した当日、自宅で夕飯をすますと順子の売春ビジネスのパートナーだったおじさまの友人、ドクターに会いに行った。ドクターは銀座のファイブスターホテルを予約していてくれた。夕食は済んでいたが、ルームサービスでいろいろな料理を堪能した。お酒も飲まされた。今日はクスリなしだけど、まあ、酔っ払えばジジイだって我慢できるよ、と恭子は思った。
※ 参照:第二章六話 高校三年順子、恭子

 ロリ言葉で甘えて、ドクターはイチコロだった。元からセックスは好きだったので、オモチャも使われてジジイ相手に久しぶりのセックスを堪能した。女の子さえ用意すれば、ジジイは友人を紹介してくれるという。これで需要の用意は整った。後は、真弓をたらしこんで、女の子の供給を準備すればいい。ちょろいもんだわ。

 翌日にはクスリの売人から池袋の改札で手渡しでアイスを10g、現金三十八万円と引き換えに手に入れた。北千住に戻って、バービードールの箱にクスリを隠した。そして、近藤議員の紹介のコンビニに面接に行った。一日置きに夜間シフトと昼間シフトの勤務だという。これは議員の紹介だし、真面目に勤務して、保護観察の一般遵守事項と特別遵守事項を守らないと。

 コンビニの店主は舐めるような視線を恭子の全身に浴びせてきた。ほほぉ、このジジイもちょっと体を許してやれば、アリバイとかで協力してくれるかもしれないね?と恭子は思った。膝上二十センチのミニスカートを着てきた甲斐があったというものだ。少し脚を崩して下着を見せてやると覗き込んでいる。このジジイもちょろいもんだわ。

真弓

 母親のマンションに戻ってパソコンを開いた。「オーちゃんねる」の「呪い代行・呪術代行」という掲示からレスが来ていた。明日だったら、渋谷で待合せできるという。話が早いじゃん?向こうの「呪い代行・呪術代行」の内容を聞いて決めようと思った。

 渋谷かぁ~、どうせなら、真弓に会ってお話をしてもいいな?真弓は確か下高井戸が実家だったな?高校は、二階堂高等学校か?体育大学附属の女子校ね。土屋太鳳の学校じゃない?偏差値もたいしたことがない学校だわ。ということは、体育会系の欲求不満の女子高生がたくさんいるってことだわね?

 よしよし、真弓から手づるを手繰って、この女子校と体育大学の女の子を組織してやるか?と恭子は考えた。早速、真弓に電話した。復学する気が起きない真弓は実家におり、実家近くの井の頭線永福町駅で恭子と待合せをした。京王線下高井戸駅の方が家から近いのだが、高校の近くなのでそこには行きたくないという。

 改札口で待っていた真弓に恭子は駆け寄った。「真弓、ひっさしぶりぃ。元気してた?」と恭子は真弓をハグする。少年院の中で、さんざんレズで愛し合った仲だ。真弓は、出所以来、家に引きこもり、外にもあまり出なかった。寂しかった。

 真弓は少年院仲間で、傷をなめあえる恭子には親近感を持っている。恭子は、ポケットからブドウの果汁グミの小袋を取り出した。自分で一個食べる。真弓にも差し出した。「真弓、果汁グミ、食べる?」「あ!恭子ちゃん、ありがとう」と袋を破って口に放りこんだ。
※ 参照:第二章三話 高校三年、順子、現在

「真弓ちゃん、どこ行こっか?」と恭子は真弓に聞いた。今日は恭子はボーイッシュな格好をしている。ミルクフェドのTシャツと表が黒で裏地が薄紫のダブっとしたパーカーにボトムズはスキニーパンツ、スニーカーだ。髪の毛をアップにしている。真弓は、VANSのパーカーとミニスカートだ。恭子よりも多少背が高い真弓を上目遣いに見て「なにか食べる?それとも・・・」と言う。

「それとも?」
「それとも、久しぶりに・・・エッチしようか?真弓?」
「え?え?エッチ?」
「うん、エッチ。これから渋谷に出て、道玄坂のホテルに行こうよ。途中のコンビニで何か買ってさ。お話だけでもいいじゃん?二人っきりで。どう?」
「う~ん、いいよぉ~。行こっか、そこに」と真弓が答えた。

 井の頭線で渋谷に向かう。ドアの脇に二人で立った。電車の中で、恭子はグミをもう三個、真弓に与えた。合計四個か。クスリは弱くしておいたけど、初めてだから、これでもかなり効くはず。

 だんだん、真弓、ムズムズしてくるよね?ちょっと脚を真弓に擦り付ける。多少混んでいるのをいいことに、真弓の脚の間に自分の脚を割り込ませた。電車の揺れを利用して、真弓の股間を太腿で擦った。真弓は小鼻を膨らませて、潤んだ目で恭子を見る。つないでいた手をギュッと握りしめた。しめしめ、出来上がりだ、と恭子は思う。慣れたもんだよ。

 道玄坂に行く途中のコンビニでスナック菓子やケーキ、飲み物を買った。ホテルはスタッフと対面しないで済むホテルを選んだ。部屋に入ってドアを閉めた途端、真弓は恭子に抱きついてきた。唇を押し付けてきて、舌を絡めてくる。恭子は、その舌をチュウチュウと吸ってやった。真弓に唾を呑ませる。立ったまま、恭子は真弓の下着に手を入れて、敏感な部分をなで上げた。おいおい、真弓、かなりできあがって、やけに積極的だな。もう、下着の中はおもらししたみたいだよ。

 一時間半ばかり、恭子は真弓の体を堪能した。もちろん、自分も。真弓に体中を舐めさせた。最後に、二人共指で逝ってしまう。

 シャワーを浴びて、ベッドでいろいろと寝物語をした。真弓は、引きこもっているが、親しい友人にLINEでちょくちょく話をしているようだった。「みんなお小遣いとか足りないんじゃないの?欲求不満かもしんないね?」と恭子が聞くと「女子校だから、男の子と知り合う機会もあまりないもん。欲しい服もお小遣いの範囲じゃ買えないよ、とみんな不満たらたらよ」と真弓が言う。よしよし、この恭子さんが気持ちよくしてあげて、お小遣いをあげようじゃないか?と恭子はニタっとする。

 その日は、少し延長して、真弓を可愛がってあげた。処女じゃないのは惜しいけれど、なかなかこの子は素質がある、マグロじゃないし、相手を喜ばせるテクニックがある。こりゃあ、ジジイとジジイの友人に高く売れそうだ。真弓の友達も引き込めば、小さいグループはできるわね、と恭子は思った。

 呪術代行の人に会うから今日はこのぐらいかしらね、と恭子は次に会う日を決めて、ホテルを真弓と一緒に出た。改札口まで一緒についていってやった。さてっと、呪術代行って何をするのかしらね?と恭子は思った。

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「彼の法の集団」

密教の立川流は、性的儀式を信奉すると誤解されて風評被害を受け、そのため勢力を減らし、江戸時代中期に消滅した。しかし、実際は、性的儀式を信奉していたのは、名称不明の密教集団、「彼の法の集団」であって、それと混同されたのだった。
「彼の法の集団」は、十三世紀前半から十四世紀前半にかけて、荼枳尼天を本尊とし、「髑髏本尊」などの性的儀式を信奉した日本の密教集団である。本来の名称が不明なため、宗教学研究者の彌永信美が便宜上このように命名した。内三部経流という別称もあった。
「彼の法の集団」は、正規の真言僧ではなく、民間信仰のシャーマン的な人間によって作られたのではないか、といわれる。実際、彼らの儀式は、真言密教的に有り得ないものとなっており、真言宗を聞きかじって憧れを抱き真似しただけの素人が作ったかのようにも見えるという。彼らは、性的儀式を中心的な儀式として用いた。
しかし、「彼の法の集団」は、十四世紀前半には、急速に衰え、仏教の一派としての形を保てず民間信仰にまで零落していったそうだ。彼らには、狐・犬・狸などの髑髏を所持し、呪術を施す巫女たちがいたようだ。いずれにしろ、淫祠邪教の類である。

血脈

 この「彼の法の集団」の巫女の血脈がほそぼそと江戸の農村部に残り、彼らの淫祠邪教を伝えていた。戦後になって、彼女らの息子の一人が真言宗総本山の僧になった。総本山は彼の出自に気づかなかった。彼は本山で、得度、受戒、加行、伝法灌頂の順に修めていき、僧籍を取得した。やがて、修行が済んで総本山を降りた彼は、実家の近くの世田谷区の密教寺院の住職を拝命した。

本来、真言密教では、妻帯は愛欲という強い煩悩をわざわざ作る行いであり、女犯は禁止され、妻帯はもちろんご法度であったが、明治時代に仏教を弱体化させる為に政府(神道側、神社本庁の画策)によって公に妻帯が許された。彼は、「彼の法の集団」の巫女の血脈を伝える従姉妹の女性を妻に娶った。彼の密教寺院は、「彼の法の集団」の隠れ蓑になった。

 この僧は、一男三女をもうけたが、上の三人には「彼の法の集団」の秘事を行う才能に欠けていた。末っ子の三女だけが秘事を行う才能を持ち合わせており、母親から「彼の法の集団」の巫女となる訓練を受けた。この末っ子の名は綾子(あやかしの子)と言った。

 恭子がレスした「オーちゃんねる」の「呪い代行・呪術代行」という掲示板の掲示名は、綾子だった。

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曽根崎綾子

 渋谷の犬の銅像の近くに来て、恭子は教えられたスマホに電話をした。キョロキョロと見回すと、二十代後半らしいビジネススーツを着た女性が電話に出た。「もしもし、鈴木さん?」と女性が言う。偽名を使ったのだ。恭子は訝しんだ。呪術代行でビジネススーツ?ま、いっか。「もしもし、綾子さん?私鈴木です」と電話に出た。「ミルクフェドのTシャツとパーカー着てます」と恭子は綾子に手を振った。今度は綾子が、こんなお嬢ちゃんが依頼人?と訝しんだ。支払い能力があるのかしら?

 恭子は、綾子に駆け寄って綾子を見上げた。綾子は身長が170センチくらいあって、しかもハイヒールをはいている。「綾子さん、背が高いですね。ね、ね、私を見て、綾子さん、こんな子供が?って思いましたね?」と言った。綾子は、このチビ、勘が鋭いね?と思った。

「何を言うんですか?鈴木さん。そんなことは思ってませんよ。立ち話もなんですから、静かな場所でお話をお聞きしましょうか?」と南口の方に向かって歩いて行った。恭子が追いかける。首都高沿いを歩いて、セルリアンタワーの前を左に曲がった。ビルとビルの間に小さな公園があった。綾子はそこのベンチに座った。恭子もその隣に腰掛けた。

「さあ、ここなら、誰も聞き耳を立てられません。鈴木さん、お話をお伺いしましょう」と恭子に話しかけた。恭子はどこまで話していいのか、さっと考えると、ホントとウソを取り混ぜて話すことにした。「私は、騙されて少年院に昨日まで入所していたんです。騙した相手は、私を利用して、ヤク中にさせて、売春を強要したんです。私はその相手を恨んでいます。呪ってやりたい。それで、綾子さんの掲示板を見てご相談したいと思いました」

「そお、なるほどね。背景はわかりました。それで、これはビジネスですから、お客様の支払い能力は細かい話の前に確認しておきたいの。その鈴木さんを騙した相手が何人なのかわかりませんが、一人最低で二十万円かかりますよ?お支払いできますか?こういう、不法ではありませんが、このような行為ですので、お高いですよ」と綾子が言う。

 私は、スマホでネット銀行の自分の口座サイトを出して、綾子に見せた。「この口座は、残額ニ百万円あります。他にも口座を持っています。呪いたい人間は、五、六人ですから、足りると思いますけど?」と綾子に言った。

「まあまあ、こんな確認をさせて申し訳ありません。わかりました。鈴木さんには支払い能力があるということで確認できました。では、私の事務所にまいりましょうか?」と綾子が言った。「行きましょう、私の事務所へ」「遠いんですか?」「いいえ、ここです」と綾子は公園のすぐ横のマンションを指し示した。

 綾子は、メイサ南平台というマンションの二階に恭子を連れて行った。表札には「曽根崎綾子」と書いてあった。なんだ、本名だったんだ。部屋に招き入れられる。その部屋は、玄関を入ってすぐのドアを開けると、十畳のリビングダイニングになっていて、その奥が八畳の洋室だった。リビングダイニングはキッチンはあるが、北欧風の事務テーブルにパソコンが有るだけ。開け放した洋室は、いろいろな測定器具がならんだ研究室のようだった。応接セットがあった。この部屋に人の住んでいる気配が感じられない。「呪い代行・呪術代行」をする部屋とは思えなかった。

 綾子がにっこり笑って恭子に「あら?薄暗い部屋で水晶球とか並べてあって、魔女の帽子でもかぶると思ってましたか?ガッカリさせてごめんなさいね。現代は、呪術代行と言っても極めて科学的なものなのよ」と私の心を読んだかのように綾子が言った。

 応接セットのソファーに私は促されて座った。すぐ横に綾子が座る。「さあ、鈴木さん、私の目を見てね」と優しそうな口調で言う。大きな吸い込まれそうな目だ。綾子はすごく美しかった。トップモデルになれる美貌だ。恭子はそんなものに負けまいと彼女の目を見返した。彼女に手を取られた。細く長い指で、ひどく熱い。彼女の両手が私の手を押し包む。目を閉じまいとしたけど、やけに目が重い。あれ?グミ食べ過ぎちゃったかな?と思った。目を閉じてしまった。

呪縛

 すぐ目を開けた。そのつもりだった。だけど、ひどく長い時間目を閉じていたような気がした。綾子はまだ私の目を見ていた。「はい、事情はわかりました。末次恭子ちゃん、あなたが呪いたいのはまず六人ね」と言う。「どうやって、私の名前がわかったの?」と私は驚いた。

「私は専門家よ。それくらい、目を見て手を握ればわかります。それに、恭子ちゃん、ウソはいけないな。呪いなんて暗い想念なんだから、話を綺麗事に作る必要はないのよ。気持ちはわかりますけどね。最初から自分の悪事を話せるわけないものね。そうか、クスリに売春ね。悪い子ねえ、あなたは。それで、あなたを暴力でのしてしまって少年院に送り込んだ少なくとも六人を呪いたいのね。美久、順子、楓、節子、紗栄子、佳子ね。あと男の子もいるけど、まず、この六人ね。どうしましょうか?病気にする?事故に合わせる?彼女たちの大切な人を失わせる?あなたの暗い想念は深いから、かなりのことができるわよ」と綾子がそのキレイな顔を歪めて笑った。私はゾッとした。

「大丈夫。私を怖がらなくてもいいわよ。私は、巫女みたいなものよ。物理的な手をくださずにそういったことができます。心配しないで。誰もあなたのことには気づかないわよ」

「あの、呪いって、呪う人間の髪の毛とか爪とか血とか・・・」「そのようなもの、私には必要ないわよ。恭子ちゃんは、ただ、私に『アイツよ』とその人間を見せてくれればいいだけよ。そうね、これは成功報酬としましょうか?一人二十万円。幾人でも。前金として、七万円。成功したら、のこりの十三万円。ボランティアみたいなものよ。恭子ちゃん、可愛いもの。特別サービスでやってあげるわ」

 私はちょっと怖くなったが、綾子の目を見ていると断れない。思わず「お願いします」と言ってしまった。綾子は「私に任せておきなさい。安心しなさい。さあ、私の胸の中に飛び込んでおいで」と言って手を広げた。私は拒否できず綾子の胸に抱かれてしまった。深い安心感に包まれた。綾子がニコッと微笑んだ。私は目を閉じてしまって、顎を上げ、唇を差し出した。綾子の舌がヌルっと私の中に入ってくる。私は、真弓にとっての私のように、私が綾子への捧げものになってしまったように感じた。綾子が私の体を弄り、私を思いのままにするのを感じたが、嫌な気持ちではなかった。意識が遠のいていった。

 綾子は恭子の意識を読みながら、さっきあげた美久、順子、楓、節子、紗栄子、佳子の六人の背後に、自分にとって敵となる手強い存在を感じ取った。姉妹だね。それから、順子、紗栄子。わたしと同じ巫女だ。あと誰かわからないが、一人いる。そいつらに神霊が憑いている。その神霊だけじゃない。強力な何らかのエネルギー体が二体いる。

 普通の呪いの依頼者だったら、綾子にあまり興味を抱かせない。しかし、渋谷の犬のところで恭子を見てから、綾子は恭子の怨念の対象に尋常でないものを感じていた。恭子の依頼がなくても、いずれこの姉妹たちとは決着をつける必要があるのがわかった。

 それにこの娘の暗い悪の想念は美味しそうだ。恭子がしようとしていることも実に美味しそうだ。無垢な少女がたくさん暗いところに落ちてくる。これは久しぶりに好物にありつけそうだ。この娘もジックリと私の使い下級巫女にしてやろうじゃないか?

 綾子は、ゆっくりと意識をなくした恭子の服をはいでいった。

 さあ、チビの小娘、おまえの穴という穴から、私の想念を吹き込んでやるよ。黒くおなり。真っ黒に。それから、おまえの真弓という小娘もいただこうじゃないか?彼女の友達たちも。

 安倍晴明も言ったよね、「人を呪わば穴二つ」ってね。小娘、おまえの呪う相手の墓穴の横におまえの墓穴も掘らないとね。私がおまえを吸い尽くした後の抜け殻をおまえの墓穴に放り込んでやるよ。

 綾子の顔は、恭子がさっき見たトップモデル並みの美貌はなく、黒く歪んでいた。



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