見出し画像

第三章数学と幽霊Ⅱ、第十四話 恭子

第三章 数学と幽霊Ⅱ
――――――――――――――――――――――――――――
性同一性障害と勘違いして悩む
義理の妹に悩むぼくの物語
第三章十四話 恭子

第十三話 愛光女子学園-恭子と順子
第十四話 恭子
第十五話 邪教

恭子の仮出所

 純子よりも一ヶ月遅れで私は仮出所した。ママには連絡したが、興味なしって感じ。まあ、そうだろうね。ママはナイトクラブの経営で忙しいし、母子家庭だからね。保護司の事務所に一緒に行って、と言ったけど断られた。仕方ないね。

 保護司は区会議員で、近藤と言った。千住桜本町のマンションの四階に事務所があった。出所してその足ですぐ近藤の事務所に行った。近藤は親切にいろいろと保護観察で私が何をしないといけないのか、説明してくれた。私は、更生保護法四十八条三号の「三号観察者」なのだそうだ。更生保護法六十六条で、未成年の少年少女に関する保護観察の期間は、原則として少年が二十才に達するときまでと規定されているが、保護観察に決定したときから少年少女が二十才に達するまでの期間がニ年に満たないとき、には、保護観察の期間をニ年となる。

 つまり、私は、十九才なので二十一才までが保護観察の期間だということ。クソっ!二年まるまる監視下におかれるってことじゃねえかよ。いい子のフリをしないとな。いい子だって納得させられれば、保護観察の解除があるってことだ。

 この近藤という議員は、足立区保護司会からの推薦で保護司になったボランティアだそうだ。近藤から定期的に保護観察官という公務員に報告が送られる。だから、問題がないと保護司が判断すれば、保護観察官とは会わなくていいということだ。

 保護観察対象者が、一般遵守事項や特別遵守事項を守り、社会の一員として更生したと判断された場合には、「良好措置」を取られることがある。

 一般遵守事項っていうのは、①再犯・再非行をしないよう健全な生活態度を保持すること、②保護観察官や保護司による指導監督を誠実にうけること、③住居を定め、その地を管轄する保護観察所の長に届け出をすること、④③に届け出た住居に居住すること、⑤転居又は七日以上の旅行をするときは、あらかじめ、保護観察所の許可を受けること、だそうだ。

 特別遵守事項は、私の場合、罪状がクスリと売春、売春教唆だから、バレなきゃいいのさ。

 保護観察中、月に数回、保護司との面接がある。面接は、保護観察対象者の生活状況を聞いたり、遵守事項を守っているかどうかの確認、悩みごと等の相談やその指導等なんだってさ。

 私は、家が母子家庭で母親が水商売をしていること、今日は出所してすぐに来て母親の都合がつかなかったが、今度は一緒に来ます、ハイ、反省しています。二度とやりません。と嘘泣きをした。

 ハイ、住まいは母親のマンションです、高校にはまだ復学する気が起きません。近藤議員にご指導いただき、将来復学したいと思います。当面は、どこかでアルバイトをして、家計を助けるつもりですと、嘘八百を言ってやった。ロリ顔の私が上目遣いで目をウルウルさせて言えばイチコロだよ。

 近藤は、毎週金曜日の午後、予定が空いているので、月に四、五回面接しましょう、という。アルバイトは、出所後で求人が難しいから、私の知り合いのコンビニでどうか?と言われた。親切な議員さんだよ。私はわかりました。ご紹介いただけるコンビニのバイトで構いません、と答えた。

自分の部屋

 近藤の事務所を出た時は夕方になっていた。携帯は、入所している間もママが料金を払ってくれていたみたいだ。ママに連絡した。保護司の事務所に行った、今、事務所から家に帰る所と説明した。ママは興味がなさそうに聞いていて、「私は店にいるから、今日も遅い。帰らないかもしれないから、店屋物でも取って食べてよ。お金はいつもの金魚の水槽の後ろに三万円くらいあるから、それを使って頂戴」と言われた。いつものように、私には興味がない、って感じ。どうでもいい。

 マンションに帰った。自分の部屋に行って、クロゼットの上の棚に置いてあるバービードールの箱を取り出す。箱の中身は、11インチのパソコンとメモ、現金。純子に内緒でくすねたクスリと売春の売上は、五箇所のネットバンク口座に分けて預金してある。メモはパスワードを自分だけの暗号で書いたものだ。誰にもわかりゃあしないよ。預金は合計で五百五十万円ほどある。

ダークウェブ上の掲示板サイト

 パソコンを立ち上げて、ダークウェブ上の掲示板サイトを開く。サイトは日本語掲示板「オーちゃんねる」。見た目はネット掲示板「2ちゃんねる」に似ているが、中身は隠語だらけ。さまざまな売買に利用されている。隠語で2千件以上の売り文句が並ぶ。「アイス」という言葉で検索した。

 「アイス」の売人にメールを入れてみた。返信は一時間後にきた。「直接手渡しか、郵送で購入可能」とのこと。1グラム三万八千円だ。とりあえず、十グラムを注文した。明日十一時に池袋の改札で手渡ししてくれるということだった。

(よしよし、これでアイスが手に入る。あとは、女の子を調達すればいい)

 明日は、議員が紹介してくれたコンビニに面接に行く。コンビニに電話して、明日の午後にアポを入れた。ちゃんと一般遵守事項は守らないといけない。コンビニだって、シフトをちゃんと守って、欠勤なんかしないようにしよう、と私は思った。仕事の合間に、女の子を調達すればいい。

再犯防止なんざクソ食らえ

 順子のおじさまの連絡先はないし、携帯も解約されただろうが、おじさまの友人のドクターってジジイの連絡先はある。ジジイに言って女の子の売りの相手を紹介してもらえばいいんだ。とりあえず、ジジイに抱かれりゃ、ジジイはイチコロだよ。ロリ好きだから、恥ずかしがって、よがり声を出してやりゃあ、言いなりになってくれるさ。早速電話してみよう。

「ドクター。お元気ぃ~?恭子だよぉ~。え?今日、出所してきたんだぁ~。そおそお、ひどい所だったよぉ~。同じ部屋のデブのブスにレズのお相手させられちゃったんだよぉ。毎日、泣いてた。え?レズのお話とか聞きたいの?変態だねぇ~、ドクターは。ええ?会いたいってぇ~。いいよぉ~。いつにする?今すぐだってぇ~?恭子、どうしようぉ?じゃあ、あとで、夕飯を食べてからまたお電話するわね。じゃあねぇ~」

 フン、スケベジジイ。今日はいくらふんだくってやろうか?まあ、男は七ヶ月お預けだったから、ジジイがオモチャつかってくれたらサービスしてやるか?ジジイだから、立ちが悪いしねえ。

 ケッ!再犯防止なんざクソ食らえだ。片や、高校生や大学生の女の子を抱きたいジジイがいる、片や、簡単に金が入って、クスリもやりたい女の子がいる。需要と供給だ。私はその仲介をするだけだ。なんの悪いことがあるか?ママだって、商売とか言って、ジジイとホテルにしけこんでヒィヒィ言っているじゃないか?この恭子さんがやって悪いことなんざないね。

 今回は、女の子に与えるクスリも順子がやったようにうまく量を調整して、ヤク中だと周りにバレないようにしないとな。智子みたいなのは真っ平だ。敏子とか恵美子には声をかけないようにしよう。アイツラが何を考えているかわからないし、保護司にたれ込まれたらヤバいからな。新しいメンバーを揃えなきゃな。
※ 参照:第二章八話 高校三年順子、紗栄子と順子

 そう言えば、少年院の同じ部屋のおとなしいやつ、なんだっけ?名前は?真弓だっけ?あいつの実家は世田谷だったな?真弓の高校の同級生を狙うか?千住近辺の高校、大学はバレてるんでやばいしな?真弓にクスリをやらせて、いうことを聞かせるか?

呪い代行

 クスリと売りで金を貯め込んで、将来はネイルサロンでもやりゃあいい。バカな男を騙して、家庭を持つのもいいさ。おっと、その前に、美久と順子とやつらの女の子どもをギタギタにしないとな。腹の虫が収まらないぜ。

 どうしてやろうか?誰か雇って輪姦させて、不具にしてやるか?それとも?

 そういやあ、「オーちゃんねる」で、「呪い代行・呪術代行」って掲示があったな?それなら足がつかない。調べてみるか?

画像2

画像1

分銅屋の順子

 出所から一ヶ月、順子は毎日分銅屋にきて、女将さんが大学に行って、節子が高校の授業を受けている間、分銅屋の店番をして料理を作っていた。女将さんのお古の和服も板についてきた。今日明日は、女将さんが高エネルギー加速器研究機構の東海キャンパスに打合せで行っているので、節子と順子が店を切り盛りしている。節子も和服だ。

 美少女の美久は、長髪の茶髪で身長は160センチくらい。昔の後藤久美子にちょっと似ている。可愛い顔をしている。順子は、身長165センチ、ダークカラーのボブのヘアスタイルだったが今は黒髪に戻して、前髪を額に垂らし切り下げ、後髪を襟足辺りで真っ直ぐに切りそろえている。黒木メイサのようなハーフっぽい顔立ちをしている。美久より一才年下だが、美久より大人っぽい雰囲気だ。

 節子も順子と同じくらいの背丈で、色気のある大人っぽさがあるが、順子はクールで近寄りがたい雰囲気があった。しかし、分銅屋に勤めだしてから、笑顔を絶やさず、愛嬌を振りまいていた。客の評判も上々で、千住近辺の若い男性客が格段に増えて、常連の高年齢の客たちがブツブツ言っている。

化粧

 その日は、時間も早く、店には順子と節子と紗栄子しかいなかった。
「順子ネエさんよぉ、前はドラゴンボールの18号みたいに高飛車でツンツンしていたのが、今じゃあ愛嬌振りまいちまって、調子狂うぜ。おかげで節子は全然もてなくなっちまうし、千住中の若いのが押しかけて大繁盛だよ。その内、クリリンみたいなチビと結婚しちゃうんじゃないか?」と紗栄子が言う。

「なに言ってんだい、紗栄子。もう、しばらくは男なんてコリゴリだよ。分銅屋が繁盛してくれればいいさね。女将さんに借金も返さないといけないしね」とつっけんどんに答えた。順子は、クスリと売春で幾人かの被害女性から民事訴訟を起こされて、慰謝料を女将さんに借りて支払ったのだ。女将さんは返済はいつでもいいと言ってくれたが、彼女にとってはそうも言っていられないのだ。

「紗栄子の言うとおりだよ、順子ネエさん。あんたが美久ネエさんの次に美人だから、私が目をつけていた客もあんたに取られる始末だよ。ブスの化粧でもしてもらって、オカメヅラにでもしてもらわないと、私の出番がないよ。女将さんだって、最近人気が落ちたよ、アラフォーはもてないよ、と言ってたよ」と節子も憎まれ口をニコニコして言った。

「あら?私、スッピンだけど・・・ダメかな?」と順子が肩をすくめる。
「あんた、スッピンでそうなんだから、化粧なんてしたら男ども総なめになっちまうぜ。ファンデをベタベタに塗って、頬紅を真っ赤につけて、カッペの化粧にでもしてもらわないと、節子も私もハンデもらえないよ。美人は得だぜ。スッピンでもこちとらにハンデつけられるんだからね」と紗栄子。
「節子、紗栄子、お褒めいただいてありがとう。しかしね、そんなもの、今の私には無用の長物さ。分銅屋が儲かればそれでいいのさ」と順子。

悪い予感

 そんな話をしていると、紗栄子は急に寒気を覚えた。背筋がゾクゾクした。なんだ?いったい?風邪かな?いや、そんなものじゃないな?黒い気が、邪気が通り過ぎたみたいな・・・

 板場の中でツマミの下準備をしていた順子も体をブルッと震わせた。「なんだ、順子ネエさん、あんたも寒気がしたのか?腹出して寝たんじゃないのか?」と紗栄子が言うと「何いってんだい、紗栄子。なんか、イヤなものが通り過ぎたみたいでさ・・・」と答えた。「ああ、順子ネエさん、私も黒い気が、邪気が通り過ぎたみたいな気がしたんだよ」と紗栄子。

「おいおい、二人して、何を言っているんだい。気持ちの悪い。私は何も感じないけどね。塩でもまくかね?」と節子。

神社さんにお祓い

「節子はそういうのを感じない体質なんだよ。う~ん、何か悪いことでも起こらなければいいけどなあ・・・」と紗栄子が言うと、順子が「紗栄子、神社さんにお祓いにでも行くか?私は悪いことをいっぱいしてきたから、反省の意味でも神社さんにお祓いでもしてもらおうかな?」と順子が言う。

「それ、いいかもしれないな。順子ネエさん、あんたと漢字は違うが、純粋の純の時任純子ってのが、私たちと同じ高校の同期で、私の親友でさ、神社の娘なんだよ。氷川神社の。二人でお参りに行ってみるか?」と紗栄子。

「そうだな、明日、女将さんが戻ってきたら、明後日でもお参りに行ってみようか?」と順子。「じゃあ、純子に言って明後日の夕方お参りに行くと伝えておくよ。

「お二人さん、神社にお参りに行くなら、私の良縁もお願いしてきておくれな」と節子。



サポートしていただき、感謝、感激!