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インタビュー|宅録DIYサウンドエンジニアEnomoto

Bearwearが前回リリースしたミニアルバム『DREAMING IN.』は全曲、バンドマン/サウンドエンジニアEnomotoの自宅アパートの6畳間の部屋でレコーディングされた。宅録に近いDIYな環境であり、ドラムも打ち込みであるにも関わらず多方面からサウンドのクオリティを褒められる作品に仕上がった。

BearwearメンバーとEnomotoは前々から交流があり信頼しあっている仲である。年齢も同じ。フランクでアットホームなEnomoto家で行うレコーディング。友達の部屋に遊びに来た感覚で時間も気にせず、リラックスした自然な状態でレコーディングに挑めた。

ASIAN KUNG-FU GENERATIONのGotch氏がギターのサウンドを褒めたり、ドラマー本業の人でもドラムが打ち込みであることに気づかなかったり。Bearwearが多くの人に聞いてもらえるきっかけとなった文句なしの出来栄えの作品となっている。

普段は自身のバンドでベーシストを務めながら、これまで数々ものバンドの作品を手がけた若干23歳の若手エンジニアEnomotoに、今回は自宅レコーディングの醍醐味やノウハウについて語ってもらう

1. Enomoto

Enomoto: エノモトです!レコーディングエンジニアになりたくて山梨から上京して専門にも通ったにも関わらず不登校になって、今はSee You Smileでベース弾いてます。

主なクレジットはBearwear始め、See You Smile、Good Grief、No Bright Girl、sunsetinfall、NOHALA、など。

2. なぜ極限にDIYなレコーディング方法を選んだのか

Enomoto: 選んでいる、というかそれしか出来ないからです。実は昔からPCでゲームミュージックなんかをポチポチ打ち込みしては、ニコニコ動画とか、YouTubeにアップして狭い界隈で批評しあって楽しんでいただけの者ですんで、慣れてるのが自前の最強に貧乏な宅録環境だけなんですね。音楽制作の舞台をバンドに切り替えて初めて「DAWも扱えるバンドマン」という自分の存在価値に気付きました。

そしてバンド活動の最中、友人周りに僕が宅録を家で1人きりでニヤニヤしながらたしなんでいるというオタク臭い噂が伝わり、初めて自分以外のバンドレックの依頼が来ました。2015年の夏でしたね。そこが人生のターニングポイント。その時はできることを全力でやったつもりが、後から聴くといやまだ良くなりそうだな。みたいな、意識の沼にハマッちまいまして、抜け出せなくなりました。手のひらの中で、どんどん音が良くなるのが楽しくて楽しくて仕方なくなっちゃった

それから2019年現在までもうレコーディングという仕事の虜です。良い結果にならなくて迷惑をかけたり辛い時期も正直あったんですが、4年も同じことを続けられてるのは、いつもこんなタコ野郎に仕事ふってくれる仲間のおかげです。

ウチはスタジオ代とかガッツリ取れるような環境でもないし。バンドには安く上がらせて、僕は納得いくまでMixする時間をもらう。WinWinの関係でやらせてもらってます。てかいっつも友達価格です

3. 自分の部屋で大半のレコーディングを終わらせる

Enomoto: ホームレコーディングの醍醐味は丸一日、時間に縛られず、納得いくまでテイクを重ねられることです。周りのバンドが一日何時間か限られた時間で高いお金払ってスタジオ押さえてってやってる中、お金もそんなにかけずにひたすら録り続けられる。バンドからしたら有難いですよね。

でもね、Bearwearは皆お上手なのですぐ録り終わっちゃうんですよ(笑) 録りの日は、音作りの時間が大半でしたね。このレベルなら本当はもっと金かけていいレコーディングスタジオで録ればいいじゃんとか思うんすけど、流石に失礼なので本人の前では言いませんでした。いやマジいい経験になりました。ありがとう。

4. 使用機材

・DAW Cubase 8
・IF Audioent iD22
・DI Avalon U5
・Speakaer Fostex PM0.4n(生産終了)

Enomoto: 機材は極力慣れてるもの使うようにしてます。特にDAWって隠し機能めちゃくちゃあるんですよ!!上手い人は道具の使いこなし方をよくわかってるので、友達のRECを見学させてもらって、先輩エンジニア方のそういう姿を見て頑張って盗みました。CubaseおよびDAWはショートカッキーのカスタマイズを使いこなしてなんぼの世界。「特定のキーでリファレンストラックに一瞬で切り替える」やり方なんかは他のDAWだとワンステップ多いことがあるんで便利ですよ。

IFは値段があがれば聴こえる音が増えていきますから、良いものを使うに越したことはないです。iD22は中堅ですね。ハイがよく聴こえます。
DIではAvalon使ってますがEQかます意味あんまないので通すだけ。Fostex PM0.4nはDAW初めて触ったときから使ってます。

あと6畳間の隅っこって結構音が良いんですよね。今はドンキで買ったハンガーかけにドンキで買った毛布をかけて反射を抑えた低予算ミックスブースを作ってあります。プラグインはWaves社一強だった時代はとっくに終わりましたが、WavesのSSL4000Eは卓への変な憧れと、尊敬するエンジニアが全チャンネルに挿してた影響でそれをマネしてずっと使ってます。最近はスネアとかボーカルコンプにBlack Rooster AudioのVLA-2Aとか、EQならA.O.M AudioのtranQuilizr G2なんかが好きで良く使います。Magpha EQも軽くて音がいい。

5. クライアントであるバンドとの意思疎通

Enomoto: バンドがどんなサウンドを求めているかを必ずリサーチします。知らないアーティストはタワレコ、中古店でCD買ったり、TSUTAYAで借りたりね。配信ならプレイリスト作ってもらうのもいいですよね。ネット販売も、CD買う時間がない時はよくお世話になります。

音のコミュニケーションは技術力と同じレベルで大切だと思ってて、どっちかに偏るのもなんか違う。そういう感じね!みたいなニュアンスで話が進めばチョ〜楽なんです。仕事エンジニアよりも、時間に余裕がある分、クライアントの音楽性を100倍理解してあげるつもりでやらないと、お互い気持ちよくはなれないですよ。

6.まるで生ドラムのように聞こえるドラム打ち込み

Enomoto: ウチはBFD3で打ち込んでます。マルチトラックで書き出してDAWで更にミックスし直してます。

あと打ち込みドラムが誰でも生に近づけられるとっておきの裏ワザ。ドラマーさんに、クリック聴きながら叩いてもらって録画。それをDAWに同期させて目耳コピする。DAWと同期してる動画を再生しながら、打ち込みの音を聴いてても違和感がないところまで詰めればおk!難しいことなんて考える必要はない!

Bearwearの時も、ドラマーさんに叩いてみた動画をわざわざ撮ってもらっています。

7. ギター・ベースなどの竿録り

Enomoto: Amplitube4で音作りしてます。これが重くて重くて・・・毎日がCPUとの闘い。
Bearwearはもってる竿がみんな良いし上手いから生で録りたいな〜なんて思ってましたけど。(予算がね!)

レコーディングって単純作業が続くから長くなると耐えられないんで、タイマーを導入してます。
Bearwearは竿1曲40分で締め切らせていただいてました。おかげで大分スムーズに曲を録れました。それができる技量があるんです。単純作業が飽きる人、特にバンドマンには効果バツグンですよ!早く終わらせてのんびり外食でもできたほうが、絶対いいでしょ!

あとたまに、いいテイクが出なくて長時間だらだらRECしちゃうなんてこともあるんですが、アレはアレでダメです。練習してこないプレイヤーもだし、緊張するディレクションをしてしまった側も。そういう時、バンドマンはライブ慣れしているので「ライブだと思えばいいよ」とディレクションすることがよくあります。ライブの熱量をうまくパッケージングするのが僕の中では最優先です。

8. Bearwearレックのギターサウンドで意識したこと


Enomoto: とにかく残響音に対する姿勢がやっぱり他のバンドとは一線違えた感じだったので、普段は残響のハイを削るんですがあえてギャンギャンに上げたり、普段使わないプリセットを多用したりと新しいことを沢山しました。

エンジニアはリバーブを残響ではなく、空間表現として使います。部屋を作るイメージです。でもBearwearの音楽性には、部屋って概念は必要ないと思いました。だから特にe.g.って曲なんかは極力部屋っぽくならないように心がけています。夢の中で楽器同士がふわふわ浮いてるイメージなんです。

9. 最近のエンジニアリング

Enomoto: リアルな現状。イマドキのバンドって、CDを作ることよりもマーチ(物販)で回収するほうがよっぽど効率がよいと気付きだしたので、予算を縮小するところが増えています。だから僕ら宅録勢みたいなのがもっともっと音を良くする為に頑張るべき。その為の近道をいくつかご紹介します。

・書籍『とーくばっく』の購入
実践的なデジタル録音の基礎はこれを読むことで身に付きます。右も左もわからない人向けというより、ちょっとDAWをかじりだした人向け。逆にこれが理解できないと、他の話に進めない。

・Twitterでプロに直接きく
質問箱ってやつあるじゃないですか。あれ国内エンジニアさんたちがメチャクチャ使いこなしてるので、Twitterでそのコミュニティの輪を見つけて、質問やDMを投げてみたらいいと思います。気まぐれで返してもらえたりします。海外ではエンジニア専用の掲示板があり、アマチュアの質問に対してプロが丁寧に答えてくれます。ネットには古い情報が蔓延してるので、常にそういう場所から新しい情報を仕入れましょう。

・Mix教則動画をみる
国内外問わず、技術をネットの海に流しているエンジニアは今少なくありません。「わーだー専門学校じゃねぇよ」「URM Academy」「SLEEP FREAKS」などなど探せばいくらでもあるので、どんどん掘り下げちゃいましょう!


10. 「音めっちゃいいな」って思った曲


Enomoto: 音がめっちゃいいかは定かではないんですが、好きな質感だったものをあげるとすれば…

・State Champs - Secrets, All You Are Is History
適度なパンチ感と楽器配置のステレオイメージはステチャンではこのCDが一番いい。けどリードギターの処理やドラムの音はLiving ProofってCDが最高です。

・Microwave - Dull 
イントロを目を閉じて聴くだけで、海外のライブハウスに飛べます。

・The All-American Rejects - Gives You Hell
勝てる気がしない。

・Gaia Cuatro - Tardio
昔白馬の某ペンションに泊まってオーナーのおじさんに最高のオーディオ環境でレコードを回してもらいながらコーヒーを頂きました。あの時の感動が耳から離れません。助けてください。

11. おわりに

Enomoto: 予算の都合で宅録が選択肢に入るバンドはホントに今多いですよね。宅録のアドバンテージである自由さをもっともっと活かして、自由な創作の場を今後も提供し続けたい思いです。Bearwearに限らず、チャンスをくれたバンドさんたちには100%の力を毎回納品してます。そして安さが目的になってはいけないという旨を正直に伝えています。それを踏まえても僕に頼む意味があるとするならば、僕もやる意味がある仕事と心から思えます。

多分ずっと1人でやってると思いますので、ご縁がありました際は、どうか宜しくお願いします。


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