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#6 まるで愛人ーその場だけの愛の伝達


彼が居ない3ヶ月間、私の貧乏生活は底知れぬものだった。大体OPT(大学を卒業した後に研修として働けるビザ)でコミッションで、1日$1の生活が何ヶ月も続いた。しかしやっと暗いトンネルを抜けたようにビジネスの方法を見出し、スポンサーも取れるようになり、仕事が乗り始めた頃だった。死ぬほど働いて、一日中アパートから一歩も外に出る時間もなく、UPS(配達)もいつもピックアップに来てもらっていた。意識がなくなると寝るだけで、朝は電話で6時(NY時間の9時)に起こされる毎日だった。


そんな時、以前女に騙されて私を追い出す羽目になった元ルームメイトがその女と別れ、また私をサンマテオの家の同じ部屋に呼び戻してくれた。春には他の出版会社からヘッドハントされ、アメリカの就労ビザをスポンサーする事も決まった。仕事は忙しかったが、環境はバークレーのボロアパートよりよほどマシだった。そうやって仕事に明け暮れて3ヶ月が過ぎた。


6月、私の誕生日の前の日に、彼がハンガリーから帰ってきた。いつも彼は帰ってくると、ハンガリーの生活の事ばかり話す。私を誕生日ディナーに連れて行きながらもそんな話をする彼に「無神経だな」と思った。でも初めて私に披露してくれたネクタイ、スーツ姿はとても格好よかった。その夜、私達はロマンチックな夜を過ごした。3ヶ月の穴埋めと思いたかったが、まだ彼の心は私の方には完全にはなかった。


でもそれからの一ヶ月間、私のしたたかな努力もあり、また彼の心を少しずつ取り戻したような気がする。私達は頻繁に会い、よくコミュニケーションをとっていた。しかしどれだけ頑張っても私はいつも2番で彼女が1番。いくら抱き合っても、砂のように流れていく、その場だけの愛の伝達だった。私はまるで不倫をしている愛人のようで、会話の中には、未来の言葉は一切なかった。


いつも聞かされていたのは、彼女がいつ来て、彼がまたいつハンガリーに行くということだけ。そしてもうすぐ“私の時間(彼との)”が終わる時、彼にお願いした。「今度彼女が来たら私は去る(別れる)から、その代わり誰か男を紹介してね。あまりにも寂しすぎるから」と。


7月4日、アメリカの独立記念日に呼ばれた彼の友達が主催するBBQに彼といっしょに出かけた。友達に紹介されると、公認になったようでうれしかった。そこで出会ったカップルとは、この後もずっと付き合うことになった。

その夜、そこに居たお金持ちの友達の自宅で花火を見る事になった。そこの家で私はハッパをして、また前のように意識が朦朧としてしまった。私を狙っている独身男が居たが、何も起こらないように、彼がピッタリ私の横について守って付いてくれてたのが心強かった。その手の暖かさを朦朧の中でもはっきりと覚えている。


7月の半ば、いよいよ彼女が来た。私はもちろんお呼びでないし、そっとしておいた。いつものようにサンマテオの家で仕事に没頭し2人の事は忘れようとしていた。


でも数日後、彼から毎日電話がかかってきた。彼はいつも多分彼女が寝た後、11時過ぎから夜中にかけてかけてきて、私は初めて、彼からの「愛の告白」を聞く。「僕が何を言おうとしているか分かる? 君に会いたい。。。」彼の心は揺れ動いていた。


そしてついに彼女が彼の家に居るにもかかわらず、私に会いにサンマテオまでランチにきた。その後私の部屋で関係を持った。「恋をしている男」を感じた。

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