人よ、変われ!滅びる前に。People, change! Before it perishes.

あなたは山本義隆さんを知っていますか? ある人にとっては元学生運動家として、ある人にとっては物理の予備校講師として、ある人にとっては科学史の作家として、ある人にとっては原発や世の中に対して警鐘を鳴らす知識人として、知られています。

1960年代後半。少年の私がテレビを見ているとNHKの定時ニュースが流れました。アナウンサーの「内ゲバで大学生が死傷した」という声で、私は画面を見ます。驚きもせず、いつものように。それは時代にとって普通のニュースでした。両親のうんざりした顔を見ながら、私は思ったものです。「もう十年早く生まれていたら、自分だって…」。

1980年代前半。バブル少し前に大学生になりました。大学は京都で、もちろん京大ではなく偏差値の低い私立です。正門の横には独特の文字で書かれたタテカンがありました。タテカンの文字を読んでも、ヘルメットの学生を見ても、私は、ただ70年代の名残を見ているようでした。

柴田翔、三田誠広、映画『いちご白書』、サイモンとガーファンクル、村上春樹、などなど。

馬鹿な大学生は馬鹿なりに学生運動に興味を持ちました。自分が生きる80年代前半の同時代の社会問題に気づかないのが馬鹿な証拠ですが。そこで初めて山本さんを知ります。湯川秀樹博士の下で将来を嘱望されていた秀才が学生運動へ。私は関連書籍を図書館で借りて、ぽつぽつと読みました。書かれている言葉には嘘もなく、言い訳もありません。私よりも上の世代にありがちな、嫌な熱さもありません。すっきりしています。変な例えですが、その文体は「レイモンド・チャンドラー」のようなでした。

そのあとも私は山本さんの著作に果敢に挑戦しましたが、さすがに物理学の専門書や予備校生が読むような参考書には歯が立ちませんでした。すると『磁力と重力の発見』に出会います。その後『一六世紀文化革命』、さらに『世界の見方の転換』を読み進めました。私を取り巻く、世の中のしがらみを、すべて忘れさせてくれました。当時ひどい鬱病だった私にとって「パキシル」よりも効果的でした。そのようにして、山本さんは科学史作家であると同時に、精神的な救世主となりました。

そして私たちはあの瞬間を迎えます。2011年3月11日(金)14時46分18秒。

その年の8月、いち早く山本さんは『福島の原発事故をめぐって いくつか学び考えたこと』を出版します。装丁はごくシンプルです。また変な例えですが、その本は『ザ・ビートルズ』(俗称『ホワイト・アルバム』)のようでした。それから4年後に『原子・原子核・原子力 わたしが講義で伝えたかったこと』を、今から2年前に『近代日本一五〇年 科学技術総力戦体制の破綻』を、それぞれ世に送り出します。

この3冊の通奏低音は怒りです。私は読後に「無知と無策に対する、作者の怒り」を感じました。政治家、資本家、生活者、知識人、マスコミ、体制、時代、歴史、そういったものに対して、山本さんは冷静沈着に怒っています。今までの著作には感じられなかったものが滲み出ているようでした。

この3冊は誰にでも、すぐに読めます。私でも読めましたから、特に難しいことは書いてありません。『磁力と重力の発見』よりも簡単です。実に読みやすいけれど、私は人の馬鹿さ加減を思い知りました。このまま滅びた方がいいくらいに。あなたも読めば、私の言っている意味がわかると思います。

これまで「3.11」について、あらゆる治者や智者から、さまざまな警鐘が鳴らされてきましたが、私にとって最もわかりやすく、最も静かに響いた鐘はあの3冊でした。あっという間に読めますが、何度でも読むべきだと痛感します。それはなぜか? 日本は結局、あの時のままだからです。世の中も人も(私も含む)。あの時とは? 9年前? いいえ、150年前です。



この記事が参加している募集

#推薦図書

42,597件

#読書感想文

189,831件

もしあなたが私のnoteを気に入ったら、サポートしていただけると嬉しいです。あなたの評価と応援と期待に応えるために、これからも書き続けます。そしてサポートは、リアルな作家がそうであるように、現実的な生活費として使うつもりでいます。