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嘘日記

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嘘の話を置くマガジン
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2020年3月の記事一覧

3-8の話

長く続く無職生活のおかげですっかり宵っ張りになってしまった。引きずられるように起きる時間も先にずれていく。起床が朝と結びつかなくなり、日が出ていれば朝、起きた時間が朝になっていく。あと何日かすれば、また時の巡りが戻るだろう。私はそのあたりに来る夜の眠気が好きだ。小学生以来久しく感じていないような強烈な眠気になす術なく降伏する瞬間が好きだ。

無職になっても、週末は待ち遠しいものだ。むしろ働いていた

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2週間小話を毎日更新し続けた所感

夜をまたいでしまったので3月4日の話は無し。小話の連続更新は2週間で途切れた。ついでに2週間短い話を毎日更新した所感を残しておく。

⑴ ネタは案外出てくる
1000文字程度の話と決めてるので、あまり気負うことなく書けた。書くこと無いなと焦っても案外なんとかなる。書きながら要素を思いつくこともある。書きたいと思って残したメモは案外役に立たない。それを書きたいと思った時の状態は大体において忘れている

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3-3の話

雪が降り続けてもう直ぐ3日目になる。乾燥した粒の小さな雪は解けずに積もるので、毎朝家から山道までの小道がつぶされないように雪かきをしなければならない。私が住む地方に雪が降り続けるなんて前例が無いことだ。買い出しに行けず困っている住民もいるようだ。もっとも車を持っていない私には特に関係の無いことだけど。

園芸用の3本鍬を使い小道を少しだけ起こしていく。踏み固まった道が日光で溶けるとスケートリンクの

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3-2の話

神は細部に宿るという言葉が好きだったXは、彼が高校2年の冬に死んだ。死の予兆はなく、ただ死んでしまった。突然のことに戸惑い涙を流す同級生を見ながら、私は怒りを隠すのに精一杯だった。「知りもしねえくせに勝手に泣いてんじゃねえよバーカ」と怒鳴り、かたっぱしから机を蹴り飛ばしたかった。Xの訃報を告げられたあの朝のことを私は今でも忘れていない。椅子の硬い背板の感触と腿の上で硬く握られた拳。すすり泣く同級生

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3-1の話

私は石鹸をデパートで買っている。それは帰宅後の手洗いのためにしか使わない。なぜなら香りが強く、香水と変わらない匂いをまとうことになるからだ。接客業ではないので香水を咎められることはないが、すべてにおいて無難かつ無味無臭をモットーに会社で過ごしているため、少しの変化さえ何か言われるのではないかと緊張してしまう。そんなのはごめんだ。私にとって良い香りなんてのは家で楽しむくらいで十分だ。

今日はいつも

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