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仕事が変わって自信をなくしがちのときに (『文にあたる』牟田都子さん)

こんにちは。バタやんこと川端里恵と申します。
PodcastとVoicyで「真夜中の読書会〜おしゃべりな図書室」という番組を配信しています。

「真夜中の読書会」のスクリプト公開始めます!


先日、リスナーの方から「いつも途中で寝落ちしてしまうので、他の番組のようにスクリプトもアップしてもらえないでしょうか」というリクエストをいただきまして。

そうか! そうだわ! いつも原稿を書いてから収録しているのだから、書き起こさなくてもテキストがあるわけで。それを公開したらいいのではと思い至ったのでした。

というわけで、遡ってスクリプトをアップしていきたいと思います。紹介した本のリンクや関連書籍、参考記事などのリンクもなるべく掲載します。

スクリプトと言っても、実際の放送内容と少し違っている可能性があります。原稿をそのまま読み上げるのではなく、いつも大まかな原稿を書いて、だいたいこんな順番でこんな話をしようって記憶してしゃべるので、予定とは違う話になること多く、何度か録り直しているうちにカットすることもあって。もともとはこういう話をするはずだったんだなという差分も楽しんでいただけたらと思います。

3年も続けているのでもうちょっとスラスラしゃべれるようになれよ、と思う。

ミモレ編集部から人事部に異動になり休止宣言をしたのちに、リターンズとして復活してからの回を少しづつ書き起こしていきますね。


帰ってきました!【真夜中の読書会・第112夜】仕事が変わって自信をなくしがちのときに(2022.11.23配信)

真夜中の読書会〜おしゃべりな図書室へようこそ。こんばんは。講談社のバタやんこと川端です。『真夜中の読書会〜おしゃべりな図書室』では、水曜日の夜に、ほっとできて、明日が楽しみになるをテーマに、おすすめの本や漫画の神フレーズをご紹介します。

こんばんは。お久しぶりです。お元気でしたか?

約半年ぶりの配信となりました。6月にミモレ編集部から異動になりまして、配信を少しお休みしていました。仕事が変わった直後は、なかなか気持ちが落ち着かなくて、小説も頭に入っていかないようなふわふわした感じだったんですけど、ようやくちょっと日常のペースを掴んできて、最近はむしろ読書したほうがよく眠れるって感じで、毎日いろんな本を読んでます。

皆さんと共有したい本が溜まってきてしまったので、またこちらの配信も再開したいという気持ちがむくむくと湧いてきたわけなんです。

さて、ではでは、早速ですが、今夜のおたよりご紹介します。配信休止中にいただいたメッセージですね。ペンネーム・hijihaseさんからいただきました。

「今年の3月に転職しました。自分のキャリアのために望んだ転職でしたが、実際に仕事を初めて見ると、大変なこともたくさんあり、自分のダメなところや苦手な部分を痛感する日々です。たまに周りの人からの少々きつい言葉に涙が出そうな気持ちになることも。心が折れそうと思った時に、また明日も頑張ろうとふんわり思える本はありますでしょうか」

@hijihaseさんより

といただきました。ありがとうございます。

「仕事の内容は学びも多く興味深いので、修行と思い、なんとか気持ちを維持して奮闘している」と書いてらっしゃって。ああ、わかります。私も、転職ではないですが、転職に近い異動だったんで。これまであまり向き合わなかった苦手なところを痛感しながら、修行〜っと思ってやってます。

hijihaseさんへ、今日の勝手に貸し出しカードは、牟田都子(むた さとこ)さんの『文にあたる』にしました。

この本は読んだ瞬間から、「真夜中の読書会」で喋りたいな〜って温めてました。たぶん、本が好きな、読書が好きなこの番組を聴いて下さってる方は、みんなキュンとする本です。もうお読みになった方も多いかもですが、どんな本か、そしてなんで、転職したばかりhijihaseさんにおすすめしたいと思ったのか、後半に続けます。


敬意ポイントが似ている人とお仕事をしたい

『文にあたる』は人気校正者の牟田都子さんのエッセイ本です。(ちなみに、校正さんのことを、講談社では校閲さんっていいます)

この本はある本からの数行引用があって、そこから関連して牟田さんのお話、考えが広がっていくっていう構成になっています。牟田さんご自身が校閲を担当された本もあれば、お好きな本もある。校正や文章にまつわる一節を引っ張ってきているので、そこだけ読み返してもかなり読み応えがあって楽しいです。光野桃さん、川上未映子さん、村上春樹さん、三谷幸喜さんなどなど……引用元の本も読んでみたくなるから、無限に読みたい本が見つかってしまう無限地獄本ですね。

そんなわけで、本好きさんにはキュンポイントの多い本なんですけど。ある種のお仕事エッセイとしてもすごく味わい深い本なんですよ。

校正者とはどういう仕事かって話が何度も出てきます。私が印象に残ったのは、「校正の仕事が向いてると思ってる人は向いてない」って話と「校正は、減点方式の仕事」という話です。

100点満点が前提でそこから点をひかれる一方。ファインプレーで挽回する、逆転するってことができないと。確かに、編集や営業の仕事は、たとえミスをして失点を犯しても、ファインプレーで挽回することができたりします。「校正が素晴らしかったとか読者さんから言われるわけじゃないし、校正さんが素晴らしいから本が売れるとかいうことでもない」何も気づかれないのがベストみたいな。
私が今いる総務の仕事もそういうところありますね。自分たちの仕事の存在感がでないほうがうまくいってる証拠みたいな。

じゃあ何に矜持を持って、プライドを持って仕事をすればいいのかっていうと『文にあたる』の帯に、中の一説が引用されてまして。私もそこがすごく好きな一説だったので、ちょっと読みますね。

校正者にとっては百冊のうちの一冊でも、読者にとっては人生で唯一の一冊になるかもしれない。誰かにとっては無数の本の中の一冊に過ぎないとしても、別の誰かにとっては、かけがえのない一冊なのだ。

『文にあたる』牟田都子

お仕事の矜持、何を大事にするかって話でへえっと思った箇所をもう一個読みます。川上未映子さんの『すべて真夜中の恋人たち』より。

「わたしはね、信頼できる仕事をする人がすきなの」という。「こう言っちゃうとなんだかまるきり時代錯誤の馬鹿みたいなんだけど」と自嘲しながらも、「自分の人生において仕事というものをどんなふうにとらえていて、それにたいしてどれだけ敬意を払って」いるかが気になってしまうのだと。

川上未映子さんの『すべて真夜中の恋人たち』を牟田都子さんが『文にあたる』に引用した箇所より

そうか、敬意か。敬意ね。何に敬意をどのくらい持ってるかっていうのが似てる人とは仕事ができますね。いろいろ細かいところは意見が割れても、敬意の置き所が一緒な人とはやっていける。

で、この本『文にあたる』は隅から隅まで、文に対する敬意で溢れているから、何度も読みたくなっちゃんだなあと思いました。

さて、この本から神フレーズを紹介して終わります。


「出過ぎた鉛筆」になってないか


十年間をふり返ると「かんなをかけたがる」校正をしていました。てにをはを整え、説明を補い、文の前後を入れ替えて、誰にとっても読みやすくわかりやすい文章にすることが校正の仕事という気負いがあった。こういう校正を「出過ぎた鉛筆」と呼ぶのだと、あと読みの先輩に教わりました。

牟田都子『文にあたる』より

ちょっと補足すると、校閲さんがここ直したほうがいいですよって指摘するポイントには2つの種類があって、明らかに間違っている、事実と違うとか誤字脱字みたいなものは、赤色で修正が入り、直した方がいいのでは? あってますか? っていう”念の為の示唆”は鉛筆で、指摘が入るんです(赤と鉛筆の区別は講談社のやり方かもですが)。鉛筆は編集者とか著者の判断で消す、スルーする、あるいは調べた上で「このままでいいです」って判断をすることもあるんですよ。

文芸書はまた違うと思うんですが、私がやっていた女性誌とかノンフィクション、実用ジャンルの記事は、鉛筆でも”ご指摘ごもっとも”なことが9割で、ほとんど校閲さんの指摘通りに修正することが多かったです。だって、校閲さんって最初の読者であり、その人が「分かりづらい」って言ったら、きっと分かりづらいんですよ。

さっき、校閲の仕事ってあんまり表立って褒められたり、感謝されない仕事みたいな話を引用しましたけれど、校閲さんのファインプレー、まじありがとう、危なかった〜! 気づいてくれて感謝! ってことはもう数えきれないくらいありました。でもそれを伝えたことはないなあ。この場を借りて、数々のファインプレーにお礼を言いたい。

鉛筆ってね、絶妙ですよね。コミュニケーションにもあるよね。直したほうがいいと思うけど、直さなくてもいいみたいな。直さなくてもいいけど、直したほうがいいと思ってるよっていう意思表示でもあるわけじゃないですか。

後輩とか他の人の仕事ぶりに対して、直さなくてもいいけれども直したほうがいいよって、気づいちゃったらすごく言いたくなるんだけど。これは「出過ぎた鉛筆」かなって思ったんですよね。「このままでいいんです」って結果、その子が思ったとしても、指摘を受けたって事実は残っちゃいますもんね。かんなをかけるようにツルツルにしようとしなくてもいいかもって思い直したりして。

そして自分自身にもかんなをかけすぎちゃうところがあって。
ご相談してくださったhijihaseさんももしかしたらそうなんじゃないかなって。もっとこうすればとかこうしたほうがよかったとか、自分自身に出過ぎた鉛筆を入れちゃってるとしたら。あまりいい出来じゃないなって気づいちゃったけどスルーするっていうのもひとつありかもしれないですよ。

私も自分自身にあまりかんなをかけすぎないようにしようって思いました。

hijihaseさんメッセージありがとうございました。
これまでは、紹介した本を実際にリクエストくださった方にお送りしていたんですが、編集部所属ではなくなってしまったため、私が直接SNSなどで住所や本名を聞いたりするのもあまりよろしくないかと思い、今後は本のご紹介のみにとどめさせていただくことにしました。よかったら手に取ってみられてください。

また、今後は、番組に関するお便りは、Instagramのアカウント@batayomuのDMでお受けいたします。取り上げてほしい本や、リクエスト、番組のご感想などをお寄せください。

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さて、今夜もお時間になってしまいました。真夜中の読書会おしゃべりな図書室は、リスナーの方からのお便りをもとにおすすめの本や漫画を紹介しています。インスタグラムbatayomuからメッセージをお寄せください。

それではまた来週、水曜日の夜にお会いしましょう。

おやすみなさい〜。おやすみ〜。

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