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短編小説 般若の穴 1~4

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記事一覧

『般若の穴 4』

『般若の穴 4』

『般若の穴』 ❹

僕は丹念に前戯を施した。彼女の秘孔の周りの可愛らしい紅葉を愛でた。その紅葉との鮮やかなコントラストを成す彼女の可愛らしい淫毛は、三千院の美しい苔庭を連想させた。
彼女の微笑みは相変わらず観音様に似ていた。僕は彼女からお地蔵さんみたいだと良く言われるし、僕は僕で自分の横顔は空海に似ていると思っているのだが、それは誰からも言われた事がない。
僕の身体の一部は今、彼女の奥深くにまでし

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『般若の穴 3』

『般若の穴 3』

『般若の穴』 ❸

「これ擬宝珠って言うんだけど、なんでこんな形か知ってる?」
擬宝珠を見ながら僕は彼女に尋ねた。僕達は大原に来ているのだった。僕は京都の観光名所の中で大原が一番気に入っていて、前から彼女と一緒に来ようと思っていたのだった。彼女が大原に来るのは初めての事だった。
都会育ちの彼女と違い、自然に囲まれて育った僕にとっては紅葉などは今更と言った感じで彼女程には楽しめないのだが、ここ大原に

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『般若の穴 2』

『般若の穴 2』

『般若の穴』 ❷

「自殺率では先進国の中で断トツに高い水準。ずっと高いまんま」と僕は言った。僕達は伏見稲荷から東福寺まで歩いて来たのだが、門の前には既に長い行列が出来ていた。こんなに人気があるとは思っていなかった。重森三玲の作庭した有名な枯山水と紅葉を楽しみに来たのだが、周りの人の気合の入れようは僕達とはまるで違って見えた。皆が立派なカメラを手にしていたし、来ている服も登山に行く様な格好の人が目

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『般若の穴 1』

『般若の穴 1』

『般若の穴』 ❶

11月初旬、京都伏見稲荷、夜が白み始める。既に参拝の人が何人かいて、千本鳥居の方へと登って行く。「こんな朝早くからバカだなぁ」とか「何もそこまで」とか思いつつ、バカの仲間入りをさせて貰っている様で久しぶりに気持ちの良い朝だ。こんなにもたくさんの鳥居を並べる行為自体がバカバカしい。大人の悪い冗談だ。でもなんだか嬉しい。日本人は大昔からバカだった。そう思うと気分もスッと楽になる。

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