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『般若の穴 4』

『般若の穴』 ❹


僕は丹念に前戯を施した。彼女の秘孔の周りの可愛らしい紅葉を愛でた。その紅葉との鮮やかなコントラストを成す彼女の可愛らしい淫毛は、三千院の美しい苔庭を連想させた。
彼女の微笑みは相変わらず観音様に似ていた。僕は彼女からお地蔵さんみたいだと良く言われるし、僕は僕で自分の横顔は空海に似ていると思っているのだが、それは誰からも言われた事がない。
僕の身体の一部は今、彼女の奥深くにまでしっかりと沈み込んでいて、お互いの身体がしっくり馴染んでくるのを待っているのだった。
「色即是空、空即是色。中身が詰まっているようで空っぽの様で、空っぽの様で中身が詰まっている。今の僕達の状態を言ってるみたいだよね」
「えっ?そういう意味だったの?」
「無色、無受・想・行・識、無眼・耳・鼻・舌・身・意、無色・声・香・味・触・法。無眼界、乃至、無意識界。これってエッチしてる時の感覚に似てるよね。極楽はエッチの時の感覚に似てるっていうお経なんだよ」
「エッ〜!うちのママちゃんがよく般若心経唱えてるよ」
「色ってのはそれこそ色んな解釈があるけれど、きっと男性器の事さ。色事とか言うしね」
「そうなの?空海は何も知らずに日本に般若心経を持ち込んだのかしら?」
「多分、空海は知ってたさ。あいつは童貞ではなかったと思う」
「それってなんかショック。イメージと違う」
「昔のお侍さんは男色が結構大っぴらに為されてたんだけどさ」
「信長と蘭丸とか?」
「そうそう。それでね、お侍さんもだけど、お坊さんの間でも割にそうそう事があったらしいんだよ」
「やっだ〜。ちゃんと修行してたんじゃないの?貴方そんな事言って、お坊さんに失礼よ」
「お坊さんは稚児を愛でたとか、徒然草にもそんな話があった気がする」
「稚児って小さい子供のことよね?」
「うん。だから空海ももしかして・・・」
「うっそー。それは絶対ないでしょ」
「空海は天才だし、あいつはなんでも知ってたさ」
「じゃあ、あなたにそっくりね。あなたは何でも知ってるから」
「ハハッ。僕は空海の足元にも及ばないし、女しか知らないよ。僕は本当に何も知らない。女体の神秘についてもまだまだ分からない事ばかりだよ」
「親鸞は奥さん居たのよね?日蓮は?」
「日蓮は女を抱かなかったと思うけど、親鸞は女にモテて、子供もたくさん居たね。女を抱く時には観音様を抱くような気持ちで抱く様に心掛けなさい、みたいな事を言ったらしい」
「ヘエー。エロ坊主だったのね」
「お寺の様な宗教施設にいれば不思議なことも往々にして起こり得るわけで、観音様と交わる夢を見た次の日の朝に寺の仏像を見に行くと、仏像の腰の部分に怪しい粘液が付着していた、みたいな」
「やっだぁ。最低!ボケた坊さんの仕業じゃん!」
「とんちで有名な一休さんもエロかったと言うね。禅宗の僧侶だから相当厳しい修行を積んだんだろうけど、やっぱ女性の魅力には勝てなかったんだね」
「女は怖いね」
「でも、自分の煩悩とちゃんと向き合ったからこそ、女は極楽なんだと悟れたんだね」
「あなたはちゃんと向き合ってる?」
「はい。向き合っておりますよ」
「今夜もちゃんと極楽しようね」
「はい。謹んで極楽承ります。でも、もうちょい馴染ませてから」
「ウフフ。そうね。一休さんも女の子を抱いてる時は観音様を抱く様な気持ちだったのかな?観音様って大体ヒゲ描いてあるけどね。女性っぽいけど、本当はオッさんなんだよね、観音様って」
「殆どゲイの世界観だね。ハハハッ。昼間、三千院とか来迎院とか観てきたけど、仏像がファッションショーのモデルだとして、きらびやかな舞台の裏では素早く衣装を着替える為に、モデルは全裸になるんだよね?」
「仏像、着替えないし」
「モデルってさ、ステージ裏では全裸で着替えるって言うじゃない?そんなの見たら勃起して男のモデルはランウェイ歩けないんじゃないの?自分なら絶対まともに歩けないと思う」
「だからゲイが多いんでしょ」
「そっかぁ。デザイナーって、ショーの最後に大勢の綺麗なモデルさんに囲まれて出てくるじゃん?煩悩を断ち切らないと、あんな場面で平常心ではいられないね」
「ゲイこそが悟りの境地だったりしてね。でも女の場合、男が悟りに導いてくれるんでしょ?今夜もちゃんと導いてくれるの?」
「はい。謹んでお導き致します」
「うん。あなたはいつも期待を裏切らないしね」
彼女は僕を色々な気付きに導いてくれる。彼女は極楽の花園で揺れる蓮の蕾だ。彼女は僕を極楽に連れて行ってくれる。
「君がオルガスムに達すると、それは僕の自信と誇りになる」
「ウフフ。あなたのアソコが元気だと、それは私の自信と誇りになるわ。ねえ、もうそろそろいいんじゃない?」
「うん。でも、もうちょっと般若心経の話をさせて。般若心経って空海が日本に持って来たって事らしいけど、釈迦の十大弟子の一人に舎利子っていうとても頭の良い人がいてさ、般若心経にも舎利子が出て来るんだけど、その人は釈迦より年上だったんだとさ。晩年は重い病気になって釈迦の教団を離れて故郷に戻って、母親に看取られながら死んだね」
「母親より先に死んじゃったんだぁ。お母さんも気の毒ね。じゃあ、お母さんは般若のお面の様な怖い顔をして泣き悲しんだでしょうね」
「だから、般若の心境」
「ハハッ!よく出来てる」
「でも、実際は般若って怖い顔の女の人って意味じゃないけどね」
「エッ?違うの?」
「般若坊っていう人が最初に作ったから般若のお面って言うだけで、元々般若って智慧とか真理とかって意味なんだとさ」
「ヘェ〜。でも、女は出産の時は般若みたいになるよ。なんか繋がってない?」
「ああそうか。人は皆、般若の様な顔のお母さんから産まれて来るんだね。関係あるかも。今の君は可愛らしい観音様みたいだけどね」
「ウフフ。あなたはお地蔵様みたいよ」
「釈迦は元々は釈迦族の王子様で、普通にお嫁さんがいて子供もいたけど、舎利子はそういうことはなかったのかもしれない」
「なんか、お釈迦様だけズルイわね」
「舎利子もそれはそれで良かったんじゃない?女と交わると余計な煩悩も生まれてくるしさ」
「あなたも私のせいで煩悩が増えたって言いたいの?」
「えっ?そんな事はないけどさ」
「ねえ、そうなんでしょう?言いなさい!言ってぇー!」
「いや、違うけどさ。それにしてもさ、般若心経ってのに舎利子の名前が出てくるんだけども、何故選りに選って舎利子なのかなぁって。釈迦には弟子が他にもたくさん居たのにね」
「ん?なんか話変わった?」
そこで僕は彼女の首筋に軽く舌を這わせ、腰を静かに動かしてみた。「ア〜ッ」と彼女はいつもの悦楽の喘ぎ声を漏らした。
「舎利子は智慧第一の弟子だったからってのが定説だけどね。般若は智慧って意味だし」
「お母さんのところに帰る前に、釈迦と色々と話したでしょうね」
「ああ、なるほど。故郷に帰る前の釈迦と舎利子との話し合いが般若心経の元になってたりして」
「そうだよ。絶対そうだよ。それって凄い発見じゃない?」
「うん。凄い。君に出会えたからこんな素敵な事に気付けたんだね」
「お役に立てて嬉しいわ。それじゃあ、最初から般若心経訳してみて」
「最初から訳すの?うん、じゃあ、えっと、出だしは…」
僕は一行一行思い出しつつ、般若心経を現代語に訳していった。
「観自在菩薩・行深般若波羅蜜多時。自在に観る菩薩。君の事だね」と僕は言った。
「あなたの事、自在に観れるようになりたいわ」と彼女は優しい笑みを浮かべて言った。
「行深、今の状態かな。ちゃんと深く行ってる?」
「うん、ちゃんと奥まで当たってるゥ」と彼女は満足気に言った。
「今、君の腹の中は膣蜜がたくさん出てるよね。照見五蘊皆空。母の胎内から抜け出て明るい場所に来ては見たものの、皆々様に置かれましては大層空しかった」
「あなたも空しかった?」
「度一切苦厄。もう一度言っとくけど、世の中一切が苦厄だね」
「え〜ッ、ひッど〜い!私と居るのも苦厄なの?」と彼女は少し僕を咎めるような口調で言った。僕は先を進めた。
「舎利子。色不異空、空不異色、色即是空、空即是色。陰茎は女陰とは異なるし、女陰は陰茎とは異なるものだけれど、段々とどっちがどっちなのか分からなくなってくる?女の子ってそうなの?」
「ま、ま、まぁそうねぇ。気持ち良くなってくるとそんな感じになるかも。男はそうじゃないの?」
「違う感じがする。僕の陰茎は君の女陰じゃないよね。女の子は快感が持続する時間が長いよね。それでかなあ?」
「イッた時は身体がホワンホワンして何が何だか良く分からないし、ただ気持ち良いとしか言えないの。言葉で説明しようとしても無理なの。でも、あなたとだから気持ちイイんだからね。あなた以外とは絶対したくないんだから」
「僕も君とが気持ちイイよ」
「ウソ!絶対ウソ!でも嬉しい」
「受・想・行・識亦復如是。想いを受け入れ意識を行き渡らせ、君が僕のを受け入れたり、僕のが君の中に入って行ったり、これが反復されるもんなんだね。そう言えば、僕もイク瞬間は陰茎とか女陰とか分からなくなってるかも。溶けちゃう感じになるから」
「でも、あなた絶対中出ししないじゃない?ちゃんとコンドームするし、偉いよねぇ」
「シャリコさん、是諸法空相、不生不滅、不垢不浄、不増不減ですぜよ」
「私、シャリコじゃないもーん」
「是故空中、無色、無受・想・行・識、無眼・耳・鼻・舌・身・意、無色・声・香・味・触・法。無眼界、乃至、無意識界。貴方の中にいる時は、無色、無受・想・行・識、無眼・耳・鼻・舌・身・意、無色・声・香・味・触・法。無眼界、乃至、無意識界。今の2人はまさにこれだよね」
「ウフフ。まだこれからよ。イッた時よ」
「あっそっか。無無明・亦無無明尽、乃至、無老死、亦無老死尽。無苦・集・滅・道。無智・亦無得。明るい見通しが持てないなどという事も無く、老いとか死とかの色んな不安や苦しみも無く、何か智識を得ようとか得をしたいとかいう気持ちも無い」
「あなたと過ごす時間は、いつでもお得感あるわよ」
「そっかぁ。じゃあ、それはお釈迦様の勘違いなのかな。でも、イク瞬間は?」
「その時はお得感とか意識してないわよね。だから、お釈迦様の言うことはやっぱり正しいって事ね」
「そうだね。以無所得故、菩提薩埵、依般若波羅蜜多故、心無罣礙、無罣礙故、無有恐怖、遠離一切 顛倒夢想、究竟涅槃。なんか色々なネガティヴ要素が世の中に溢れているけれど、君の中に入って歓喜が極まった時は涅槃状態だね」
「ん?なんか急にザックリ訳したのね」
「三世諸仏、依般若波羅蜜多故、得阿耨多羅三藐三菩提。故知、般若波羅蜜多、是大神呪、是大明呪、是無上呪、是無等等呪、能除一切苦、真実不虚。過去現在未来と偉い人は般若波羅蜜たっぷり知って悟りを開いて行くものなのだよ。神憑り的で明らかで、無上のもので他とは比べようもなくて、一切の苦を能く取り除いてくれる真実で嘘のないお呪い」
「おまじない?」
「故説、般若波羅蜜多呪。即説呪曰、羯諦羯諦、波羅羯諦、波羅僧羯諦、菩提薩婆訶。これぞ愛のおまじない。幸福の妙なる喘ぎ声。
ガテー ガテー パーラガテー パーラサンガテー ボーディ スヴァーハー。イける者よ、イける者よ、極楽にイける者よ、極楽に完全にイける者よ、これこそ悟りだ、君に幸あれ」
一通り説明を終えて、「般若心経は最高の人類救済の書だね」と僕は言った。すると彼女はとても感心した様な表情をしてこう言った。
「とっても素敵なお経なのね。ねぇ、そろそろイカセテ」

その夜、1回の射精する間に、クンニも含めて5回彼女はイッた。だが、彼女のアナルには先っぽしか入らなかった。


観自在菩薩・行深般若波羅蜜多時、照見五蘊皆空、度一切苦厄。舎利子。色不異空、空不異色、色即是空、空即是色。受・想・行・識亦復如是。舎利子。是諸法空相、不生不滅、不垢不浄、不増不減。是故空中、無色、無受・想・行・識、無眼・耳・鼻・舌・身・意、無色・声・香・味・触・法。無眼界、乃至、無意識界。無無明・亦無無明尽、乃至、無老死、亦無老死尽。無苦・集・滅・道。無智・亦無得。以無所得故、菩提薩埵、依般若波羅蜜多故、心無罣礙、無罣礙故、無有恐怖、遠離一切 顛倒夢想、究竟涅槃。三世諸仏、依般若波羅蜜多故、得阿耨多羅三藐三菩提。故知、般若波羅蜜多、是大神呪、是大明呪、是無上呪、是無等等呪、能除一切苦、真実不虚。故説、般若波羅蜜多呪。
即説呪曰、羯諦羯諦、波羅羯諦、波羅僧羯諦、菩提薩婆訶。般若心経。

【現代語訳】

般若波羅密多心経 中村元・訳
              
全知者である覚った人に礼(らい)したてまつる。
求道者(ぐどうしゃ)にして聖なる観音は、深遠な智慧の完成を実践していたときに、存在するものには五つの構成要素があると見きわめた。しかも、かれは、これらの構成要素が、その本性(ほんせい)からいうと、実体のないものであると見きわめたのであった。
 シャーリプートラよ。
 この世においては、物質的現象には実体がないのであり、実体がないからこそ、物質的現象で[ありうるので]ある。
 実体がないといっても、それは物質的現象を離れてはいない。また、物質的現象は、実体がないことを離れて物質的現象であるのではない。
 [このようにして、]およそ物質的現象というものは、すべて、実体がないことである。およそ実体がないということは、物質的現象なのである。
 これと同じように、感覚も、表象も、意志も、認識も、すべて実体がないのである。
 シャーリプートラよ。
 この世においては、すべての存在するものには実体がないという特性がある。
 生じたということもなく、滅(めつ)したということもなく、汚れたものでもなく、汚れを離れたものでもなく、減(へ)るということもなく、増すということもない。
 それゆえに、シャーリプトラよ。
 実体がないという立場においては、物質的現象もなく、感覚もなく、表象もなく、意志もなく、認識もない。眼もなく、耳もなく、鼻もなく、舌もなく、身体(からだ)もなく、心もなく、かたちもなく、声もなく、香りもなく、味もなく、触れられる対象もなく、心の対象もない。眼の領域から意識の識別の領域にいたるまでことごとくないのである。
 さとりもなければ、迷いもなく、さとりがなくなることもなければ、迷いがなくなることもない。
 こうして、ついに、老いも死もなく、老いと死がなくなることもないというにいたるのである。
 苦しみも、苦しみの原因も、苦しみを制してなくすことも、苦しみを制する道もない。知ることもなく、得るところもない。
 それゆえに、得るということがないから、諸(もろもろ)の求道者の智慧の完成に安んじて、人は、心を覆(おお)われることなく住している。心を覆うものがないから、恐れがなく、顛倒(てんどう)した心を遠く離れて、永遠の平安に入っているのである。
 過去・現在・未来の三世にいます目ざめた人々は、すべて、智慧の完成に安んじて、この上ない正しい日ざめをさとり得られた。
 それゆえに人は知るべきである。智慧の完成の大いなる真言(しんごん)、大いなるさとりの真言、無上の真言、無比の真言は、すべての苦しみを鎮(しず)めるものであり、偽りがないから真実であると。その真言は、智慧の完成において次のように説かれた。
 ガテー ガテー パーラガテー パーラサンガテー ボーディ スヴァーハー
(往ける者よ、往ける者よ、彼岸に往ける者よ、彼岸に全く往ける者よ、さとりよ、幸あれ。)
ここに、智慧の完成の心が終わった。          

おしまい

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