👤一番の応援者ー大切な家族ー

君たちの一番の応援者は両親だぞ。

弟たちの所属していた中学のチームの監督の言葉。ミーティングのたびにいっていたと思います。何でこんなに繰り返しいうのだろうと、子どもだった私はわかりませんでした。ただの忘れっぽいおじいちゃんの戯言くらいにしか思わなかったのです。

大人になって、その言葉の意味が分かりました。首都リーグでたくさんの保護者に出会い、愛するご子息を応援する姿を見て。無償の愛が垣間見えたとき、一番の応援者は『両親』だと強く思ったのです。忘れっぽいおじいちゃんの戯言ではなく、大切だから何度も繰り返して伝えていたのです。

当時、部活動や塾で忙しくしていた私でしたが、時間があると弟たちの応援に駆け付けました。というより、連れていかれていたのです。海外は台湾にもいったし、色々なところにいきました。その環境が当たり前になって、いつの間にか野球を好きになりました。

炊飯器は一升炊きでした。それ以外の炊飯器があることを、私は大学生になるまで知りませんでした。他の炊飯器は一人暮らし用だと思っていたのです。その大きな釜で何度も何度も母と私はご飯を炊きました。お弁当、補食、夕飯。すぐになくなってしまうのです。我が家のエンゲル係数はとんでもないものだったと思います。

洗濯も戦争でした。あの泥だらけのユニフォームが同日に二枚やってくる。業務用洗剤でごしごしやっていたのを、今でも覚えています。ソックスなんて酷いものでした。

両親は物凄く大変だったと思います。朝も早く、仕事もして、土日は野球に注いで。姉弟構成も長女である私がいて、弟たちは双子。二歳差なので、進学の問題も学費も色々あったと思います。でも、はたから見て楽しそうだったのです。試合を見ている両親の姿から、その大変さを微塵も感じさせないのです。

野球へ行くとレジャー用のいすを用意し、そこに座ります。暑い日も寒い日も、そこで弟たちを応援するのです。応援する側が強くなければならないのに、展開に一喜一憂しながら観戦していました。一緒に喜び涙し、時に顔を覆ってしまうことも。目の前でホームランを打った日には爆発して喜び、二死満塁で三振した暁には帰りたくなります。エラーなんてしようものなら、魂が抜けてしまいます。心ここにあらず。親子で何をしているのかと思わず笑いそうになりますが、現状はそんなものです。

配車の関係で、家で留守番をすることもありました。そういう日は一通り家事を終えて、夕飯を作って待っています。速報もないので、試合の様子はわかりません。みんなが帰ってきたときの雰囲気で全てを察知します。試合に勝った日は花がぱっと咲いたかのように明るく、負けた日にはキノコが生えそうなほどジメジメしていました。誰も食事がのどを通らず、この世の終わりのような雰囲気だったことを思い出します。試合に負けたくらい死にやしないのに。でも、そういうものですよね。

弟たちの野球応援生活は10年ほど続きました。とても色濃く、全てを野球にかけた貴重な時間でした。家族で歩み、家族で進み、家族で協力した、かけがえのない大切な時間です。

大学野球を見にいくと、たくさんの保護者を見かけます。その様子を見ると、自分の親も同じ思いで野球を見ていたのだなと懐かしく思うのです。大きな拍手で応援する保護者。息子にきているのをばれたくないと、ひっそりと隅にいる保護者。あえて最前列に座らないのは、親心なのだと思います。一番の応援者は、少し離れたところで見守っているのです。

一番の応援者は両親だ。

揺ぎない事実です。

―――

弟たちが高校野球の引退を迎えたとき、私にいってきました。

｢親を一番必要としていた時期に、俺たちばかりが独占してごめんね｣

こうもいってくれました。

｢ぐれるだろうと思ってた。野球を好きになったのは奇跡だと思う。本当にありがとう｣

不満や寂しさがなかったといえば嘘になります。いつも弟たちばかりと、思うこともありました。それを帳消しにするくらい、試合に勝って喜んで帰ってくる弟たちと両親の姿が大好きだったのです。

家族で旅行に行ったり、母娘で買い物に行ったり。他の同級生がやっていたことはできませんでした。しかし、他の家庭ではできない経験ができたのです。今も野球が大好きであることが、何よりの証拠です。

それぞれの家庭に、それぞれの背景があります。長く野球を続けているのなら、尚更でしょう。スタンドでたくさんの保護者を見かけると、当時の気持ちを思い出します。毎試合、家族というものの大切さを実感します。

誰もがみな、誰かの応援者。
球場に集う一番の応援者たちのご子息に、幸あれ。