📸誰かのために、頑張らなくていい。

頑張っているのに、どうしてあの子ばかり。

私だって、一生懸命やっているのに。

皆さんも一度や二度。いや、何度も思ったことがあるでしょう。

先日、とあるカメラ女子から相談を受けました。野球の写真を撮り続けていて、突如辛くなってしまったといいます。小さな出来事が積み重なって、きっと爆発してしまったのでしょう。私もそんな経験があります。

彼女の名前を仮に『りなちゃん』とします。

かなねーさん聞いてください。最近、私の応援してるチームにカメラ女子が増えてきました。それはいいんですが、前から撮ってずっと応援してきた私より、その子ばかり選手から感謝されて正直気分が良くないです。写真撮る意味がよくわかんなくなっちゃったし、送ってもらえて当たり前って思ってる選手の態度も辛くて。どうしたらいいでしょう。カメラをやめたいです。

真っ先に「辛かったね」と、いいました。

本来であれば、私なら、

・写真は自分のために撮るもの。
・他人と比較しない。

と、伝えます。

しかし、今これを伝えても、彼女の心には響きません。
それよりなにより、辛くて仕方がないのです。
私もりなちゃんの気持ちが痛いほどわかります。

かつての自分がそうだったから。

りなちゃんは、現在高校二年生。
お兄さんが野球をやっていたことで、球場に通うようになりました。お兄さん（選手）のかっこいい瞬間を撮りたいという思いから、両親に頼み込んで、カメラの購入費用を立て替えてもらいました。今は週三日のバイトで稼いだお金を、その返済費用にあてている健気な子です。

りなちゃんは、お兄さんが引退してからもチームを追い、シャッターを切り続けています。

ある日、りなちゃんの応援しているチームに、多くのカメラ女子が詰め寄りました。試合が終わったあと、たくさんの写真がSNSにアップされていました。

りなちゃんが投稿を眺めていると、あるコメントを発見しました。

「かっこいい写真ありがとー！」

なんてことない一言です。

りなちゃんはこの投稿をみてモヤっとしました。なぜなら、自分が撮った写真は『もらえて当たり前』のごとく、感謝の言葉がなかったからです（撮り始めた当初はあったそう）。いつの間にかその一言が消え、選手からしてみれば、撮ってもらえて当然の存在になりました。他のカメラ女子には感謝の言葉があるのに、どうして私にはいってくれないのだろう。彼女は深く傷つきました。

もちろんりなちゃんは、感謝されたいがために写真を撮っているわけではありません。自分の意思で球場にいき、好きなシーンをおさめているだけです。でもやっぱり、送ったならば「ありがとう」の一言がほしいと思うのは、ごくごく普通の感情だと思います。

りなちゃんの気持ちを想像してみました。

・せっかく撮ったのに、それが当たり前に思われて悲しい。
・選手に喜んでもらえなかったのか。
・私の写真は別の子より下手だったのではないか。
・私が撮らなくたってもういいのではないか。
・これから先、撮り続けても意味がないのではないか。
・こんな思いをするなら野球を見たくない。
・こんなことを考える自分も大嫌い。

先ほども書きましたが、本来なら『自分のために撮る』ものであって、他人の評価なんて気にしなければいいのです。人間関係は双方の思いやりがあって成り立つもの。無下にする人なんて、無視すればいいのです。

でも、でも、

わかっていても、納得なんてできません。だって彼女はまだ高校二年生。これを理解しろなんて酷です。

人の喜ぶ顔が好き。
それがやりがいになっている。

りなちゃんがいっていた言葉です。

他人の評価に委ねるのでなく、自分のために撮った方がいいなんて、りなちゃんだって本当はわかっています。それでも、誰かに吐きたかったのです。

それを真っ向から説いても、なにも意味はありません。いつか必ず、言葉の真意を理解する日がきます。それを急かす必要はないと思っています。

少し休んで、また撮りたいときにいこう。
誰かのために、頑張らなくていい。
でも、相手(他のカメラ女子)を攻撃したり、
恨んだりしてはいけないよ。

私はそのように伝えました。

きっとまだ、心の傷は癒えていないでしょう。でも少しずつ、気持ちの整理はついたと思います。疲れたときは休んで、やりたいときにまた始める。せっかく好きになった野球を、カメラを、嫌いになってほしくないのです。

またきっと『シャッターを切りたい』そう思える日がやってきます。無理に頑張らなくていいんです。そうやって痛みを知り、学び、誰かに優しくなれたらいいのです。

―――

年を重ねたからこそ『人と比べず、自分のペースでやり切る』ことが大事だと理解しています。

もし、仮に私がりなちゃんと同じ年齢だったら、このように考えられるでしょうか。自信はありません。

人は、自分のモノサシ（過去の経験など）ではかることしかできません。想像することはできても、痛みを共有するのは難しいものです。

しかし、寄り添うことはできます。

もし、自分が彼女だったら。

私はそう思って、ゆっくり考えてみました。彼女の見る景色、想像する世界はどんなものなのだろうと。

りなちゃんはきっと、私に相談するまでに物凄く悩んだのではないかと思います。それでも話をしてきたのは、自分で抱えきれなかったからです。

説教することや、正論をぶつけることは簡単です。時と場合によって、その正論も暴論になりかねません。まず相手の気持ちや痛みを想像し、言葉に耳を傾ける。そのあとに説いても遅くはありません。

私も今でさえ、

どうしてわかってくれないんだ。
こんなに頑張ったのに。

と、思ってしまうことがあります。
さすがにいい年なので、感情はむき出しにしませんが、何歳になってもよくあることです。

そんなときはゆっくり休んで、頑張りすぎなくていい。自分にブレーキをかけることが大切です。

自分のためにやったことが、結果誰かに還元されていく。それはそのうちわかります。今、すぐにわからなくても。りなちゃんにも、きっとその日は訪れます。そう信じています。