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連載 | BASE ART CAMP interview vol.8 【田中誠一】

《BASE ART CAMPを通して目指したいこと》
BASE ART CAMPはBASEのメインプログラムとして2022年に開講予定のビジネスパーソン向けの実践型ワークショッププログラムです。京都にゆかりのあるアート、演劇、映画、音楽といった多様なジャンルのプロのアーティストが講師となり約半年間のプログラムをおこないます。創造の原点に触れるような実践的なワークショップを中心に、アーティストの思考や制作プロセスから人生を生き抜くための術と知恵を学びます。

BASE ART CAMPを運営する「一般社団法人BASE」は、6つの芸術拠点と京都信用金庫が共同で立ち上げた団体です。今回お話をうかがうのは、6つの芸術拠点のひとつで「出町座」の支配人・田中誠一さん。京都を代表するミニシアターであり、興行収入ランキングに縛られない映画を配信し続ける場所をつくりつづける田中さんから「映画とは何か」という今まで深く考えたことがない問いへ向き合うきっかけをもらいました。

リム・カーワイ監督を講師に、フレキシブルな映画のつくり方を学ぶ

ー:今回、出町座および田中さんはどのような講座をされるのでしょうか?

出町座はミニシアターなので、当然ながら映画のところを担当します。僕は出町座の支配人として放映する映画の企画運営などをしているんですが、出町座の母体である「シマフィルム株式会社」は映画の製作や配給をおこなう会社です。で、今回は実際の映画のつくり方を学んでもらおうと思っています。

僕が映画のつくり方を教えるのはなんなので、マレーシア出身で、世界各国で映画を撮っているリム・カーワイ監督に特別講師として来てもらう予定です。リム監督って面白い人なんですよ。5ヶ国語ぐらい喋れるのかな。あの、本当に世界を転々としているような人で。日本だと大阪で、海外だと香港などアジアのいろんな街をはじめ、バルカン半島でも撮って……みたいな人なんですよ。

ー:そんなリム監督からはどんなことを教えてもらえるんでしょうか?

映画のつくり方についてなんですが、映画づくりいうのはものすごく幅があるものなんです。リム監督の作品で言えば、大阪を舞台にした『カム・アンド・ゴー 』はたくさん登場人物がいて、フォーカスの転換が激しい群像劇。バルカン半島を舞台にした『いつか、どこかで』は、リム監督が旅をしながらつくった映画です。スタッフも25人など少数で、現地の人を連れてきて撮るなどの方法を採用しています。

「しっかりやろう」とすると、お金も人もめちゃくちゃ必要になるんですけど、お金や人をめちゃくちゃ突っ込んだから映画だ、という訳ではない。エッセンスとして、どういった時に映画が映画たり得るのか、そういった体感を映像作品をつくるという一連の過程で、参加する方に発見していただけるような時間になったらいいなと思ってます。

また「この順番でつくらないと映画にはなりません」っていう確固たるセオリーも、じつは映画づくりにはありません。脚本を書いて、キャスティングして、撮影して、編集して……みたいな項目は存在するんですけど、順番はつくり手や現場の雰囲気で決めていったらいいと思っています。どんな方が受講するかでも変わってくると思いますし、リム監督からは、そういうフレキシビリティみたいなものは幅広く学べる気がします。

芸術のなかでは比較的新しく、技術革新が速い映像業界で、なにをもって「映画とするのか」を考える

ー:映画づくりにはセオリーらしいセオリーはないんですね。そのなかで「映画を学ぶ」というのはどういうことでしょう?

映画をつくるって、じつは曖昧だったりするんです。何を持って映画とするのかって、非常に曖昧なんですよ。なぜかというと、結局、映画って生まれて100年ちょっとしか経ってないんです。おそらく今回学ぶことができる5つの芸術のなかで、最も新しい分野になるのかなと思います。映画が生まれた後にテレビが生まれて、ビデオとか、DVD とかが出てきて、今だったらもう配信というものがあります。映像の表現媒体が変わっていくなかで、映画というのはどういうものなのか、あるいは、どういうことになると映画になるのか……みたいな問いかけを自分自身が体感できるっていうことが大事なのではないかなという風に思っています。

ー:「何をもって自分は映画とするのか?」みたいなところを考えていける?

最終的には、そうかなという気はします。本当に人によってバラバラですし、映画の定義なんてのは何もないんですけど、だからこそ答えは千差万別なんですよね。スポーツだったらルールがあるじゃないですか。芸術文化の分野ってじつはそういうものがあまりなかったりしますよね。音楽もそうだと思います。音楽家の定義を問うても、どっから音楽なんですかっていう問いに明確な回答はない。

音楽って何だろうとか、写真って何だろう、演劇って何だろうとか、アートって何だろうと、考えることができるのがBASE ART CAMPの特徴です。映画って何だろうっていうことを考えることもまた今回の学びの重要なところになるんじゃないかなと。そして、映画って何だろうと考えることが、他の芸術分野を知るきっかけにもなるんじゃないかなと思います。

世間一般的に、映画って何が話題になるかって言うと興行収入とランキングなんですよね。『鬼滅の刃』が400億興行収入超えました、とか、全米映画ランキングで1位になりましたとか。そこにその映画の本質っていうのがあるのかって言うと、ちょっと違うんじゃないかなあと僕は思います。興行収入ベースで見ると、世間一般には全くと言っていいほど知られていない映画っていっぱいあるわけですよ。そこにどのような価値を見出せるかどうか。これは他の芸術分野にも言えることかもしれませんね。多くの人に知られるとか、大きなお金を生み出すとか、「いい映画」っていうのは、そういう評価軸じゃないよねっていうのをその知れる機会でもあるかなと。

京都で映画を学ぶこと

ー:京都で映画を学ぶことのアドバンテージはありますか?

山、鴨川、街並み、寺社仏閣……ロケーションはかなり揃ってるんじゃないですかね。ないのでいえば海くらいですけど、大体揃ってるんじゃないかな。京都って、地理的にセンターじゃないっていうことが非常に大きいんですけど、なんでも勝手にやれるような自由さがある。勝手にやり続けられる、勝手にやることが許されてる場所であるっていうのはアドバンテージと言えるかもしれません。

ー:たしかに、京都ってなにかものづくりをするとか活動について街全体が許容しているというか、つくり手に大らかな街だなと思います。どういう制作になっていくんでしょうか?

映画って結局、撮る人と撮られる人、2人以上いれば成立するんですよね。あ、初期の新海誠さんなんかは制作の全てをひとりでやってるって言ってたけど……。

そんなきっちりしたものにはならないと思いますよ。もうちょっとフレキシブルな感じというか。映画って総合芸術って言われるぐらいのもんなんで、本当にいろんな要素が入り込んでくるわけじゃないですか。機材のテクニカルな部分もあれば、撮影技術だったり技術技術だったり、進行管理のスキルやコミュニケーション能力とかも非常に技術が求められるし、自分の能力だってないと制作って進まないんですよね。俳優の芝居演技だって技術ですからね。際限がないですよね。

あまりにそれぞれを掘り下げていくと収拾がつかないので、さっき言ったように、その映画がどういう時に映画となりえるのか体感として掴むことができるのかっていうことを制作の中で学んで行けたらいいかなと。その時間の中でそれぞれが感じるところがあればいいですね。

集まった人たち次第でもあるんですが、だからあまり機材のこととかは考えてないです。ただ、いろんな可能性はあるなと思います。

ー:映画とは何か?という根源的な問いを、京都の場で考えられることはすごく魅力的ですよね。出町柳の、あの桝形商店街に映画館があるということも重要だなと。

桝形商店街が持ってるポテンシャルは非常に高いです。昔からやっているお店が続いているし、さらに世代交代がなされて新しいお店もできている。人に使われることが維持されているんですよね。これってものすごく大きいことです。やっぱり人の社会というか、人の営み、生活にとって必要な場所なものであり続けている場所だと思います。

「普通」のレールがないなかで吟味し生まれたものは、思いどおりでなくても大丈夫

僕がいまこの仕事をしているのは成り行きの部分が大きいですし、技術うんぬんを語るのもおこがましいと思っているので、参加する皆さんと一緒に学んでいける機会でもあるなと思います。

この世の中、義務教育があって高校に行って大学に行って卒業して就職して……なんて言うのかな、セオリー通りの階段を登っていく人が多数を占めます。「普通はこうだよね」というレールの上に乗って人生を走らせているというか。でもBASE ART CAMPでは、「普通はこうだよね」っていうレールがありません。自分なりのレールをその自分でどうやってつくっていくのか、もしくはつくらなくてもいいのか、そういう吟味も含めて、自発的にものをつくるってどういうことなのかを知っていけるんじゃないかなと。

あとは、自分なんて簡単に表現できないですから。表現しようと思ったものが表現できるわけじゃないよって思います。表現しようとして、でも結局、形になったものが何を表現しようとしてるのかっていうのがわからないっていうことがあっても、それが人間だと思うので「思った通りにいかなかった」ということになっても、それ自体はいいんじゃないですかね。意識をしてなかったけど、形になったものを客観的に見て、自分もできると思います。

▼インタビュー動画

▼プロフィール

田中 誠一
出町座運営・支配人/プロデューサー(制作・配給)

《 一般社団法人BASEとは?》

京都の現代芸術の創造発信拠点として活動する5つの民間団体と京都信用金庫の協働で立ち上げた団体です。コロナ禍を機としてアーティストの制作活動のみならず、京都の文化を担ってきた民間の小劇場、ミニシアター、ライブハウス、ギャラリーなど芸術拠点の経済的脆弱性が顕在化し、今なお危機的状況にあるといえます。そのような状況を打破するために、THEATRE E9 KYOTO、出町座、CLUB METRO、DELTA/KYOTOGRAPHIE Permanent Space、kumagusukuの民間の5拠点がこれまでにない社会全体で芸術活動をサポートしていくための仕組みづくりのために立ち上がりました。

◆BASE ART CAMP について詳しく知りたい方はこちら

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