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逆噴射小説大賞2021個人的感想覚書 #04

 というわけで、第4回です。紹介していきましょう。
 すぐに紹介し切れるやろって甘く見てたら、次から次へと名作が投稿されて全然終わらねえんだよなぁ……。

【#01】 【#02】 【#03】 【#04】 【#05】 【#06】


銀の網

 お、おもしれぇ~~~~~~!!!
 と、思わずディスプレイの前で叫びたくなるほど面白かったです。なんというか、私の貧弱な語彙では上手くこの面白さを説明しきれないんですけど、たぶん小説というものの本質と言うか、小説というメディアの強みを200000000%活かしてるんだと思うんですよね。
 超個人的な意見として聞き流して欲しいんですけど、小説の持っている多媒体との違い――強みは、思考や、説明なんかを映像と並列に扱える部分にあると思うんですよ。この作品で言うと、映像でいえば最初のシークエンスは「おっちゃんが道端で弁当食ってる」しかないんですよね。でもその中で主人公の仕事内容とか、危惧していることとか、そういう映像化しきれない部分を上手に編み込んでいって、最初のシーンが終わるころには完全に読者が主人公に同調シンクロしている。相田久子の身に何が起きたのか、こっちも不安に思うようにできている。すごいなぁ……。
 それが出来る理由のひとつが、たぶん逆噴射先生の言うところの、「R・E・A・Lさ」なんだろうなと思う。高齢者向けの弁当配達経験がない私でも、原付で移動してるのとか、鰤のムースとか、立ち話が大事な事とか、そういった説得力のある描写の積み重ねで、完全に納得させられちまったもんな……。
 そして、次のシーンでは、最初のシーンで感じさせられた不穏さがジェットコースターのように2段構えで加速する、衝撃的な引き……To Be Continued...。続きを……続きをください……。


運べ! 武装ケイハク運送

 おおよそあまねく総てのジャンルを網羅するパルプ小説……そして逆噴射小説大賞――であっても、やはり不利なメソッドというのは存在していると(私が個人的に)思っておりまして、いわゆるチーム物と言いますか、オープニングに「じゃーん!」と個性的な仲間たちが勢ぞろい! トラブル解決へ動き出す! みたいな奴は結構きついんじゃないかと思っています。勝手に。まあ理由は明白で、字数制限が800字しかないんで、個性的な仲間たちを紹介する前に尽きてしまうでしょという、ね……。さらには物語をドライブさせなくてはならないのならば、ぜんぜんカツカツになってしまうに違いない……そう思っていたんですが、まあ、そんなものは所詮素人――弱小パルプスリンガーの思い込みに過ぎなかったんだと思い知らされましたね。この作品を読んで。
 まず用意された舞台が、カーチェイス。そう、車に乗って追っ手に追われれば、否応なく舞台は動く。文字通りDRIVEするという訳だ。そしてカーチェイスは面白い。ハリウッドのアクション映画でなぜみんなカーチェイスをやり始めるかというと、それが面白いからだ。速度が速いと興奮するし、クラッシュすれば爆発して興奮する。120分間全部カーチェイスをしていても名作は産まれるということを、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』が完璧に証明している。
 その中で、谷、シンソツ、ジジイ、荷物(たぶんヒロイン枠)、雲雀を同じバスという運命共同体に乗せ(雲雀は乗っていないけど)それぞれのキャラと必要最低限のやりとりをし――あるいはそれすら省略して――読者にキャラクターの想像/創造を委ねている。そう、個性的な仲間を紹介する字数が足りないなら、その部分を読者へ投げてしまえばいいという逆転の発想である。上手いなぁ……。


サイトーくんは透明になりたかった。

 うおお……。スゴい小説だ……。
 青春には痛みが伴うというのが私の持論でありましてー、そして、その「痛み」を描けている青春小説は、読む者の心を揺さぶる作品になるというのが、約束されているんですよ。
 最初の3つの段落を読んだ時点で、私はもう相当この小説に揺さぶられてしまいました。言葉を喋れなかったりする主人公の痛みの理由は説明されないけれども、だけどたしかにそこに「ある」ことは伝わってくる……。痛みの描写に、ほんのちょっぴりのシンパシーも添えられているのも上手いんだよなぁ……。(図書室で手塚治虫を読むのは誰もが経験したことあるよね?)
 そして、ボーイ・ミーツ・ガール。間宮先輩との出会いによって、主人公にどんな変化が生じるのか? 救われて欲しい……。
 この先の展開に目が離せない。(これはつまり目を離す気はないので続きを書いてくださいという懇願です)


剝き出しの僕を見てほしい

 いや確かに青春小説には痛みが欲しいって言ったけどさぁ!?

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出典:夢枕獏/板垣恵介「餓狼伝」

 痛み(物理)な青春小説。
 ヒロインと「秘密の共犯関係」を結ぶ主人公っていうとそれなりに怪しい美しさがありそう。共有する秘密が全裸の不審者狩りでなければ。
 しかし、実は私の琴線に滅茶苦茶触れてくるんですよね、姫川さん。我々のように『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』を寝物語に育てられた世代としては、狂気を孕んだヒロインからしか摂取できない栄養素があるんですよ。
 どういう風な展開を見せるのか、本当にまったく予想の付かない本作ですけど、『剝き出しの僕を見てほしい』というタイトルからすると、主人公のほうにも何かしら狂気的な側面があると嬉しいなぁ……。
 願わくばこの二人が殺人事件に巻き込まれて、解決(物理)してほしい。


彼岸列車

 やだな~~~~怖いな~~~~~!
 ってなりながら読みました。
 正直もうタイトルから嫌な予感しかしなかったし、もう電車というモチーフが怖いし、「読みたくねぇよ~~~俺怖いの苦手なんだよなぁ~~~~」ってビビりながら最後まで読んでしまいました。まだ具体的な被害こそ出てないものの、もう絶対に嫌な予感しかしないし、嫌な展開になるしかないことは確定的に明らかなんだよなぁ……。背中にべっとりと張り付くような嫌な感じ。
 続き読みたくねぇなぁ~~~! 絶対怖いやつだよこれ読みたくねぇ~~~!
 でも投稿されたら「コワいなぁ~~読みたくねぇなぁ~~~」って言いながら読んじゃうんだろうなぁ~~~! やだなぁ~~~!!!


箱の中の太陽

 物語を牽引するのは、やはり「」だ。
 太陽が喪われた世界。そして、人の命が軽い世界観。登場人物の名前的には日本が舞台っぽいが、なぜ太陽が無くなったのか、そして、彼らが命を賭けて手に入れたモノは何なのか、そういった「謎」がスクロールする指を止まらせずに、スピード感を保ったまま読ませてくれる。どことなく退廃的な文体も、世界観とマッチしていてとても良い。
 ……でも、いくら謎が物語を引っ張ると言っても、箱の中身を見せてくれないのは、殺生すぎませんか!? これは続きを書いてもらうしかないですね……。


ラスト・エンカウンター

 ファースト・コンタクトもの。
 主人公のシンは老兵だ。しかも、戦闘経験が豊富なベテランではない。宇宙防衛隊として組織されながら、敵対宇宙生物の来襲がなかったため、60年にわたって一度も戦闘経験がない老兵だ。
 この設定が、白眉だと思う。一度も戦わないまま、ただ待ち続けるだけの兵士。(部隊が再編制されていないところから察するに、おそらく無意味だということは本部も察しているのだろう)シンの設定は、特異な生い立ちではあるものの、どこか身につまされる。なぜなら、自分の人生に一体なんの意味があるのか? という問いは、結局のところ、普遍的なものだからだ。
 そして、宇宙外生物の来訪。対話を望む海老に対し、シンはどういった選択をするのか……?
 


彼方の炎が導べ也

 BONファンタジー。 
 いきなり登場する大型の存在。不穏な気配、予兆――そういったもので、いったい何がなにやらと読者を身構えさせたところで登場する、大きな茄子――精霊馬しょうりょうば。緊張と緩和(作中では緩和どころか、そこからスピード感が一気に上がるわけだが)が非常にうまくて、思わず「そうきたか」となってしまう作品。単に、意外性のあるものを登場させて意表を突くだけではなく、精霊馬の存在によって世界観とか、主人公の目的とか、そういったことも言外に説明できているのが、情報の渡し方が上手いなぁと感じました。
 そして、最後「異形の存在だと思ったらメカ?」という引きも続きが気になる要素ですね……。


スノウマンズ

 うおー! ジョジョだ!
(ここで言う「ジョジョだ!」は『ジョジョの奇妙な冒険』のパクリだ! などという糾弾ではなく、私の貧相な語彙から繰り出された最大級の賛辞です念のため)
 とにかく文章全体にスピード感があり、主人公の命にもタイムリミットが付いていて、こちらを飽きさせない。使っても使ってもカネが減らない。そして、リミットまでにカネを使わなければいけないという特殊状況に加えて、襲いかかってくる天使を倒すというBATTLE要素まで盛り込まれている。これが面白くならないわけがないんだよなぁ……。悪魔にそそのかされて取引をして天使を殺すの、どう考えてもヤバそう
 大量のカネを使った逆転の戦術とか、コメディ展開とか、天使たちとの切ったはったのアクションとか、そういった続きを是が非でも読みたいですね。


呪いの『縫針』

 諸君、私は戦うヒロインが好きだ。
 『縫針ニードル』と名乗ったヒロインが、強く、強魔ブーステッドと呼ばれる異形どもをばったばったの切り倒していく。つよい。
 800字のなかで、とにかく「強いヒロインを書いてやろう」「ヒロインの魅力を引き出してやろう」という一念によって組み上げられた小説ということが、読んでいてストレートに伝わってくる。縫針ちゃんがデカいのもいい。一部の方に非常に需要がありそう。
 そして、ギャップ。ただ強いだけではなく、きっちりと萌え要素も持たせる。
 もうこのオープニングで我々読者は完全に縫針ちゃんにハートをキャッチされてしまっているので、後は続きを待つのみである。



レイダウン・ユアハンド -Lay Down Your Hand-

 カジノ、ギャンブル、銃、サイバーパンク、そしておっぱいの大きなベイブ――。
 俺の好きな要素でしか構成されていない。からあげやきんぴらとかの茶色いオカズしか入ってないお弁当のようだ。なぜこんな俺にとって都合のいい小説が存在しているのか?
 理由は単純。この小説は俺が書いたからだ。
 自分の好みの物語が読みたければ、自分で書いてしまえばいい。そう、逆噴射小説大賞ならね。



 こっちも書いたよ! 読んでね!


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