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逆噴射小説大賞2021個人的感想覚書

 逆噴射小説大賞2021に投稿された中で個人的なおススメを覚書的に書き留めておく。随時更新できればいいな、って。
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ジビエのレシピは信じない

 緊張感のある逃避行。王道の展開。800字という制限がかかっているなか、必要最小限でパルクールのアクションシーンなどもこなしている。すごい。設定も魅力的。人と動物のキメラということは、このあと『テラフォーマーズ』や『キリングバイツ』のように、人間以外の生物の能力を持った異能者たちが戦いを繰り広げるのは確定的に明らかだし、まだ影も形も登場していないヴィランが、食人を愉しみにするやべー悪役になることも間違いなしだ。
 そして、不思議な少年と出逢い物語が幕をあける。ガール・ミーツ・ボーイ。少女と少年が出逢ったら物語がはじまるんだよ!!


竜をサウナに入れるには

 シン・ゴジラだ……!
 タイトルでガツンと興味を惹かれる。ドラゴン+サウナという発想のスケールで負けた……だし、一発ネタで終わらせずにその後の展開もちゃんと示唆されているのが凄い。私だったら、仮に同じネタを思いつけたとしても、火山のサウナ→海の水風呂のシーンで満足して終わらせちゃってると思う。
 そして後半のシン・ゴジラパート。「竜素値」についてまったく説明をしていないのに、なんとなく読者に意味を理解させるように使われてるのもテクい。さらっと神祇庁が存在していたり、ファンタジーとSFの混ざり具合が完全に好み。最後に提示された解決策も、センスオブワンダーを刺激されてわくわくする。続きはないんですか……?(絶望)


書架調合

 うわ~~~本で呪殺する殺し屋……! なぜこれを思いつかなかったのか!! というくらいアイデアが秀逸。ハッタリの効かせ方が絶妙で、たとえば「呪いの本――読ませて殺す」とかじゃなくて、「あくまでも既存の本を組み合わせて、読み合わせで殺す」というのがオカルトではあるものの『特殊技能』の範囲を絶妙に出ない感じに設定されてて、その……とても良いと思います。
 作中では主人公が明確に呪殺しているシーンはないのにも関わらず、「こいつなら出来るだろう」とこちらに確信を持たせられるだけのプロフェッショナル感を読んでて感じました。
 細かい描写で世界観に深みを持たせてるのも凄くて、たとえば「読むという行為は人を毒する。3冊あれば生き死に程度は簡単に操れる。私は殺すことしかできないが」というセリフなんかは、『本によって人を生かす』主人公の対極となる存在を匂わせてますし、短篇集の読む順番を指定するところなんかは、医者が処方箋を患者に渡すときのような専門性を感じてとても好きです。
 そして、依頼人。主人公が強烈にキャラ立ちしてるので、「ただ仕事を持ってきた依頼人その1」でも別にいいだろうに、最後の段落でぐっとドラマを持たせてるの、凄くないですか? 標的である母を殺すために娘に渡された本――それは、父が書いた物だった――。強烈な運命Fateを感じざるを得ないし、早く続きが読みたい。


『口が災いの門』

 兎に角「紺」のキャラクターの強さ、破天荒さがハチャメチャに良い(悪い)。デブを煽るためだけに腹筋を鍛えたり、アラビア語を2ヶ月かけて勉強したり「なぜその情熱を他に活かさないのか?」と思わずにいられない。「もしかして、そのデブのことが実は好きだったりするのか?」と考えたりもするのだが、蹴りを喰らわせて海に落としているのでそういうわけでもない。純粋に、悪意100%でやっているのだ。最悪(最高)。
 そして、魔法のランプと猿の手という最悪のコンボにより、世界がヤバい。原因の大部分は「紺」にあるんだけど、特に悪びれることなく事件解決に奮闘して欲しい。ふぁっく。


ヒグチノワール 粗暴にして野蛮

 暴力……! 『イコライザー』や『ジョン・ウィック』なんかの、「舐めてかかった無害そうなやつがやべーやつだった」ストーリィ! みんな好きですよね、暴力。私も好きです。
 とにかく暴力の描写が凄い。銃撃戦とか派手なことをしているわけではないんだけど、実質的には腕一本折るだけしかしてないんだけど、とにかく「敵に回したら、ヤバい」というのがひしひしと伝わってくる。読者的にも、ヒグチノワールが「一見ヤバいけど実はいいやつダークヒーロー」なのか、「マジで制御不能の暴力装置」なのかの判断が付かない状況なので、緊張感がある。烈怒悟離羅が壊滅するところまで書いてください……!


ジョスト・フロントの蠢動

 遥か未来、滅んだ文明、その遺跡都市で行われる、ハック&スラッシュ。男の子って『BLAME!』が好きじゃないですか。私も好きなんですよ。崩壊した都市の様子とか、SF的なガジェットとか、人を襲う機械とか、そういう好物が800字という制限の中で、ちょっとずつ顔を見せる感じでとても憎らしい……。この作者様には是が非でも続きを書いてもらいたい……この荒廃した未来都市で心ゆくまで冒険を堪能させてほしい……!


俺とシバ子の10の約束

 人類って犬が好きじゃないですか。私も好きなんですよ。犬が喋る! そして、そしてそれが当たり前の世界! メルヘン! 現代日本と思わせてちょっとズラしてあるわけなんですけど、その切り替えが非常にシームレスでスムーズに世界観に浸れました。最初の「絶対に捕るから信じてほしい」という言葉をリフレインさせる演出とか、上手いな~~~って。
 ツンデレワンコのシバと大輔が絆を育んでいくところ読みてえな~~~!
 具体的に言うと、口ではツンツンしながらも犬としての本能に抗えずに大輔に大好き行動をしまくってしまうシバが読みてえな~~~!


Sewcidal Boyz

 こわい(素朴な感想)。
 「喋って動くぬいぐるみたち」という牧歌的な題材で、こんなにエグく描けるのかという感じ。「ばっする」「助ける」「言わされ罪」など、言葉そのものは直接的に暴力性が含まれておらず、どこかほのぼのとしてる雰囲気すら感じるのが怖い。さらに、罪と罰の釣り合いのバランスが明らかに狂ってるのとか、最悪さがあって良い。仮にこれ『トイ・ストーリー』や『スモール・ソルジャーズ』みたいに「ぬいぐるみが喋って動けれることは基本的に人間達には秘密にしている」みたいな世界観だった場合、最悪度が跳ね上がるよね……。理不尽な存在こそホラー。
 最後の一行。これから示される究極の選択を暗示させる。だが、どちらを選んでも裕一の未来は明るくない。羽田を殺すのはもちろん、仮にぬいぐるみたちと決別し、助ける道を選んだとしても、彼の手は既に汚れてしまっているのだから。


祝祭と冬の終焉り

 百合の花って美しいじゃないですか。逆噴射小説大賞は800字と言う極小の文字数制限がありながら――いや、むしろあるからこそ――その作者が「何を書きたいのか」がすごい伝わってくるなって思っていて、たぶんこの作者の方はとにかく百合を描きたいのだということが魂レベルで伝わってくる。いやだって800字のうち600字近くをフランツィスカとヘレーネの朝の支度で費やしているんですよ。出撃シークエンスでしょこれは。百合の出撃シークエンス。でも読み終わったあと最初からじっくりふり返ってみると、直接的な描写は一切ないのに気付いてびっくりするんですよね。おはようのキスもしていなければ、肉体関係の示唆もない。出だしの一文、「最後に寝間着を着て眠ったのは、いつだったろうか。」からほんのり香りが漂ってくる程度。ここらへんのバランス感覚が絶妙なんだなーって思いました。
 なんかだんだん自分の文章が気持ち悪くなってきたのでここらへんにしとうございます。


廃品漁りと青い薔薇

 近未来SFのスラム街×メカ娘×ボーイ・ミーツ・ガール=破壊力
 戦うヒロインと主人公の少年が出逢う物語には普遍の『良さ』があるのは皆さんご存知のことかと思いますが、御多分に漏れず私も好きなんですよ、ボーイ・ミーツ・ガール。
 私には見える……。このあとにハウンドドッグたちを瞬殺する“青い薔薇ブルーローズ”の雄姿が……。記憶を失っている彼女をケビンのところへ連れて行ったら、その体に使われている技術力の高さにケビンが腰を抜かす様が……。一緒に住むことになるんだけど、意外と日常生活はポンコツな彼女……。廃品漁りの際は持ち前の怪力を活かして周りの廃品漁りスカベンジャーたちを驚愕させる……。時折見せる憂いを帯びた表情が、ガイノイドの物だとは思えず動揺する主人公……。人と機械の恋愛……。そして彼女に秘められた謎により、差し向けられる巨大企業メガコーポの追っ手……。
 まあ全部幻覚なんですけど、純粋に続きを読ませてほしいと渇望する作品でした。


いとしき祈りのグロビュール

 架空の宗教的なモチーフは、ばちっとハマると『Blasphemous』みたいに滅茶苦茶格好良くて魅力的な世界観になると思うんですけど、いかんせん800字という文字数制限のある中だと難しいんじゃないかと思ってたんですよ。
 でもこの作品では短いなかで造語を組み合わせてすごく上手に雰囲気を演出していて、巧みだな~って。
 あと二つ名が格好いいんですよね。《寂しき秘密のリフィア》とか、《貴き偽りのダデン》とか。この手の格好いい二つ名ってどうやって考えてるんですかね……?
 そして、明らかにヤバい存在からの受胎、「苗床」……不穏な展開を想起させる終わり方。リフィアはもしかして、主人公じゃなくてラスボス的な存在だったりするんですかね……? 続きが気になります。


妖魔開闢 -蜘蛛と殺し屋/竜の魔眼-

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出典:藤本タツキ「チェンソーマン」


《NEXT→#02》

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