逆噴射小説大賞2021個人的感想覚書 #06
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逆噴射小説大賞2021個人的感想覚書 #06

朽尾明核

 なんか急にすっごく寒くないですか? 秋どこ?
 みなさん体調にはくれぐれも気を付けてください。
 第6回、やっていきましょう。

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十束神剣百鬼夜行千本塚

 不死。そして、妖刀。幼馴染のくのいち(全裸)。浪漫がぎっしり詰まった冒険譚が始まりそうな予感がする。
 ――実は、エンタメにおいて、絶対に外れない黄金法則がある。できればこれはおれが自分の胸の内に抱えて置きたかった真実なのだが、この記事を読んだ皆さんにだけ特別に教えよう。絶対に外れない黄金則、それは、「不死者が主人公のバトル物に外れはない」というものだ。
 嘘ではない。その証拠に、いま脳内でパッと思いつく不死者が主人公のバトル物を上げてみてほしい……『チェンソーマン』『無限の住人』『亜人』『SEKIRO』『アンデッド・アンラック』『バッカーノ!』『ファイアパンチ』『堕天作戦』――なんということだ。名作しかない。これで私の発見した法則がまぎれもなく事実であると納得していただけただろうか。
 さて、エンタメとしての成功が約束された不死主人公だが、この逆噴射小説大賞というレギュレーションだとなかなかに取扱いが難しい(というか800字レギュレーションで取り扱いが難しくないものが存在しないのでは?)。なぜなら、不死主人公を描写するには、実際に殺さないといけないからだ。何も考えずに、主人公を出して~殺して~実は不死者で死なないんです~ってやっていたら、それだけで800字が終わってしまう。皆さんはどうだから知らないが、私は終わらせる自信がある。
 本作、『十束神剣百鬼夜行千本塚』(タイトル難しいな)(でも卍解みたいで格好いいと思う)(十→百→千になってるんだね)では、冒頭、いきなり主人公が死んでいる状態からはじまっている。首だけである。カービィみたいになっている。さらに、「首なしの敵がいる→あれは自分の身体だった」という展開にすることで、最初の段落で読者を引き込むインパクトを与えると同時に、主人公の不死性をいっぺんに説明しきってしまっているのだ。匠の技だ。そして、間髪入れずにヒロイン登場。幼馴染。くのいち。全裸。なんで? 全裸の理由は説明されない。なんで?
 敵の説明、そして、倒すべきラスボスが示されて、主人公の戦いが始まる。妖刀を集める蒐集譚ハック&スラッシュ。面白いに決まっている。『朧村正』とか好きなんですよ、私。


かつて獣のいた街

 暴力……! 圧倒的な暴力の香り……!
 匂い立つような暴力がじっくりと描写されているが、不思議と嫌悪感が沸かない。あまりにもVIOLENCEにパラメーターを振りすぎてしまうと、どうしても露悪さというものが顔を覗かせてしまう。暴力は、SEXと同じなので、最高のスパイスではあるのだが、過剰になるとどうしても胸焼けをおこしてしまうのだ。その点本作はかなり純度の高い暴力を扱っておきながら、痛々しさや生々しさよりも格好よさに寄り添っているのが、筆の上手さを感じました。タイトルも好き。菊地秀行や夢枕獏あたりの伝奇ノワールの馨しさがむんむんと漂ってくる。


渾然誘拐狂騒曲

 「依頼人が探偵や殺し屋の許へ依頼を持ってくるシークエンスは避けるべき」そういったセオリーを真っ向からぶち破った作品。なぜ避けるべきか。それは話を動かしづらいからだ。で、あるならば、さらにそこから一歩先へ進んで話を動かせばいい単純シンプルに正攻法だ。たしかに、理にかなっている。ただそのぶん800字の制限がきつくなってくることは想像に難くないが、この作品はちゃきちゃきとテンポよく進めることで、見事にそれを成功させている。娘殺しの依頼人へのリベンジ。ぎゃふんと言わせる計画。この狂騒曲がどのような展開を産み出すのか、目が離せない。


被害金ランキング -400億の男

 金が欲しいというのは人間の欲求として非常に共感が得られやすいもののひととつであり、フィクションの世界に置いてもあの手この手でメイクマネをテーマに傑作が作りあげられている。この作品では、「なんらかの金銭的被害」を誰かに与えると、その分の金額が手に入るという設定で、主人公が暴力を振るう。そこが土台になった時点で、もうこの主人公がハチャメチャに破壊を振り回し、イリーガルな手段に手を染めることが確定しているのだ。これは期待させる。そして、展開が速いのもベネ。設定を開示された読者は「はえ~誰かに与えた被害金額が賞金になるってことは、殺人したらどうなるんやろ~」という禁忌をまず思い浮かべるだろう。並の作者わたしだったらもったいぶってその『殺人』という行為は、もうちょっと焦らしてしまうにちがいない。だが、この作品を描いた作者は違う。800字の中でその禁忌も躊躇なく主人公に実行させてしまっている。飛んでもないスピード感だ。最初の800字で殺人にまで手を染めたってことは、これからどんどん加速していくに違いない。いったいどんなことをしでかすのか、そういったほの暗い期待で読者の心を揺さぶるのだ。


絶界のスティグマ

 理不尽な力。「漂白された光」「天使」「優しい風」そういった美しいワードが並ぶ冒頭。プラスのワードが並べられた出だしでありながら、そのまま衝撃的な自殺のシーンで幕を開ける。虐げられた子供たちの人生。なぞの聖創スティグマ。集団自殺をほのめかすライバルに、それを止めようとする主人公。クールなオープニングだ。さらには事情を知っていそうなヒロインも姿を見せる。物語を始まりを明確に感じさせるプロローグでありながら、「主人公たちの見た光の正体は?」「スティグマが付いた理由は?」「ライバルの目的は? 浄化とは?」「ヒロインの過去に何があったのか? 何を知っているのか? 彼女の腕のスティグマは?」これらの読者を引っ張る『謎』をたくさん用意している。謎は物語を牽引する強烈な要素になる。この作品でもそれは例外ではない。


アリと破滅とキリギリス

 タイムトラベル。タイムリープ。いまやSFだけではなく、ありとあらゆるジャンルに複合され、ドッキングし、そして名作を産み続ける黄金の要素。時間旅行はそれだけで明確にわくわくするし、悲劇を回避したりする作劇にも向いている。設定に『ルール』を設ければ、読者に対して「もし自分が同じ立場だったらどうするか?」といった想像を掻きたてさせることも可能だ。本作では、ホラーに混ぜられている。『世にも奇妙な物語』テイストといった感じだろうか。時間を弄ぶという神の所業に踏み込んでしまった人間への代償。それもまた、タイムトラベル物の魅力のひとつだ。先輩は語り、そして、後輩へ忠告する。タイムトラベルには手を出すな。だがその忠告は聞かれることはないだろう。なぜならこの作品は、最初の800字に過ぎないのだから……。
 「50年後の俺に天罰が下った」と言いながら即死するの、もはや『天罰』のスケールが先輩の観測を遙かに上回っている感じでヤバいですよね)
 お笑い芸人が主人公というのも珍しいと思います。どうやってタイムトラベルをお笑いへ活かしていくのか、なかなか想像がつかない。


悪魔をはねても物損事故

 うーん悪魔かわいい。
 兄弟と悪魔のほのぼの……ほのぼの? 話。激辛ぺヤングを食べさせてご満悦な悪魔とか、人殺しの兄に怯える悪魔とかがとにかくかわいーんだ。そして、ただ単に「悪魔かわいい!」で終わらせることなく、兄の殺人とか、はらはらと緊張感を持続させるエピソードも併せてお出ししてあるのが匠の技術ワザ
 書き出しも滅茶苦茶洒落てますよね。あえて字数を使って、兄弟のキャラを土偶に例えて簡潔に説明することで、その後のやりとりの際に読者の脳裏に浮かぶキャラクター像をコントロールしている。短編小説とかで、本筋とはちょっと焦点の違う横道から書き出す手法が好きなんですけど、逆噴射レギュでそれができるとは思いませんでした(文字数的な意味で)


『ミュージックが聞こえる街』

 かわいいシリーズふたつめ。
 ブレーメンの音楽隊をモチーフにした、ほのぼのローファンタジー。
 それぞれの動物たちがあの手この手を提案して人間に協力を求めてくる。牧歌的でほのぼのとした作品だ。
 決め手となったのは、猫。猫はかわいいからね。しかたないね。
 いわゆる童話パロディな作品でありながら、原作では一応敵役であった人間に動物たちが助けを求めるという展開が、興味を惹かれる。「金貨」「家」というのは原作でも動物たちが得た報酬ではあるが、この現代で彼らはいったい何をしようとしているのか? なぜ人間の助けが必要なのか? なぜ猫はかわいいのか? 続きが読みたくなる作品でした。


当世水境端姫噺

 生贄の少女。皆さんは好きですか? 私は好きです。まあ、ハッピーエンドを迎える作品に限りますが(なんて奴だ)。
 龍神のしもべとなった少女水脈みお。前半は彼女の「龍の娘」としての役割が説明され、なるほど生贄となるべき運命さだめを負った少女の物語かと納得したところで、話がドライブし始める後半、大きく予想を裏切られる。「ダム」「プレハブ」「建設事務所」といった単語がポンポンと飛び出て来て、この作品が現代を舞台としたものだとさりげなく明かされるのだ。そういう風習が残っているということで、てっきり昔話的な世界観で進のかと思ったら、バリバリの現代もの。もうこの時点でハートをキャッチされましたね。そしてさらに予想外の事態。イレギュラーを起こさせるのは、ストーリーの定石ではあるが、まさかの男の端姫。いったいどう物語が展開していくのか、先が読めない……ボーイ・ミーツ・ガール? まさかのラブコメ? 続きを読ませてください……。


女王殺しと沼地の怪奇

 しっとりとした文体で綴られる、不穏さあふれるダークファンタジー。
 何故か女性だけ短命の一族。沼へと沈める葬儀。どう考えてもそれは「祝福」などではない、どちらかといえば『呪い』だろう。
 母親の死と、最後に遺した言葉。
「女王を殺せ」という不穏な言葉が刻まれた剣。
 隠された真実が明らかになったとき、どう考えても血生臭い展開にしかならなさそうなのが、不安と共に期待も掻き立てられますね……。妖精の女王の娘の命を助けたというのが嘘なのか……あるいは、真実であって妖精の女王はマジで善意で短命にしているのか……。どちらにしてもえげつない展開になりそうで楽しみです……。




私が描いたやつ

 殺し屋が女子高生に殺人の実地研修OJTをする話。


 「カジノ」「ギャンブル」「銃」「ベイブ」「サイバーパンク」
 私の好きな物だけで作った小説。


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