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逆噴射小説大賞2021個人的感想覚書 #03

 第3回。紹介していきます。
 3回目になってから言うのもなんですけど、結構ネタバレなので閲覧の際は注意してください。

【#01】 【#02】 【#03】 【#04】 【#05】 【#06】

イヴの葬送

 強烈なヴィジュアルがバシッと決まった作品。
 とにかく映像面がひたすらに強烈だ。
 夜の街を歩く男、片手には女の腕――。
 強い。このヴィジュアルをオープニングで読者の頭の中で再生させることができたのなら、もうこの小説は勝ちである。
 そして、男が夜に歩いていれば決闘DUELが始まる。そう決まっている。それがパルプだ。スピード感のある戦い。決着。最後に、男の持つ腕の謎が開示される。
 【0/13に続く】
 冒頭の2/13は日付を示していたのではなく、この小説が13のシークエンスで構成されていた(※1)ことを意味していたことが明かされる。お洒落な構成。
 非常にスピード感にあふれていてスタイリッシュな作品でした。
 そして、場面が明確に13個あるよって提示されたってことは、これ期待していいんですよね!? 続きを!!


(※1)……1~13じゃなくて0~13なら、シークエンスの数は14になるはず。マヌケは見つかったようだな


ケンタウルス調教助手

 ウマ娘プリティダービー!
 ケンタウルスが、馬(ウマ娘ではない)の調教をお手伝いするコメディ。『みどりのマキバオー』とかにも通づるものがありそう。馬と意思の疎通ができるという特殊技能を生かして、競馬にまつわる様々なトラブルを解決していくような、1話完結型の短編連作になるんじゃないかなぁ……と勝手に予想している。競馬モノは、レースによる熱いBATTLE展開も見せてくれるジャンルなので、そこの部分でも期待したいですね……続きを……。


ナイト・ブレード・百物語

 ファンタジー世界で百物語。
 百物語と言えど、ホラーという感じはそんなにしない。騎士団員がそれぞれ語った百物語のモンスターが具現化し、襲いかかってくるというもの。魔法とか魔物とかがなさそうな感じのファンタジー世界で、どう戦うのか、そして、これからはどんな敵が出てくるのか、非常にわくわくさせる。それぞれの団員が語った話が、怪物討伐のヒントにも成り得るというのも面白い。(しょっぱなから何人か死んでるので、そいつらが具現化させたモンスターにはノーヒントで挑まないといけないんだよな……。)
 設定の妙さでいうと、各団員がどこでその話を聞いたのかとか、そういったドラマ性みたいなのも盛り込んでいけそうなのもある。一つのエピソード毎にひとりの団員の生い立ちやキャラクター性なんかもピックアップしていく形式なら、キャラ立てとアクションを同時に進めていくような感じで、凄く魅力的に物語を回していくこともできそう。続きが読みたい。


ぼくとスモちゃんの夏休み

 虐げられたこどもたちの話。
 「ぼく」の一人称視点から淡々とした筆致でつづられる虐待の跡。子供視点の一人称ってなかなか難しいと思ってるんですけど、わざとらしすぎず、それでいて子供離れはし過ぎず、虐待によって擦り切れた精神でどこか達観しているような等身大の描写がいいですね。悲壮感があります。
 性的虐待を受けているミカ姉と、ふたりで寄合いながら、子供であるということの無力さが広がっている。
 「悲しい」とか「辛い」とか、そういった心理描写はいっさいなく、それでいてただただ読者に悲痛さが伝わってくるのが、筆力ふでぢからが高いなぁって……思いました。
 「海みたいなにおい」という詩的な比喩を、ここまで最悪な文脈で使っている作品は……初めて見ました。
 閉塞感と悲痛感に支配されながら、進む道も見えないような暗澹たるひと夏のスケッチ。暗い未来の子供たちと、夏の持つ輝かしい爽やかさのイメージとのギャップが非常に上手い作品でした。

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出典:板垣恵介「バキ道」

 力士登場! サプライズスモウ理論!
 説明しよう! サプライズスモウ理論とは、「あるシーンで突然リキシが現れて、全員と戦い始める方が面白くなるようであれば、それは十分によいシーンとは言えない」という脚本家の心構えや一種のノウハウである!
 リキシが出る! ヤクザを殺す! スモちゃんのスモは相撲のスモ!!
 あーもう滅茶苦茶だよ。


石のなかの薔薇

 逆噴射小説大賞は、小説の冒頭800字で競うレギュレーションになっている。投稿された方ならわかるかと思うが、字数制限はガチガチに厳しいので、「描写」と「説明」のバランスにはかなり苦心させられる……さらにいえば、どちらも限界まで削らないといけない。読者に情報を与えるにしても、本当に必要最低限にして、言わなくてもいいことは言わない――そういう思い切りの良さも必要になってくる。
 この作品は、かなり思い切った作りをしている。「説明」が一切ないのだ。描写だけでできている。主人公がいるこの場所はなんなんのか、そして、何のためにここにいるのか、経緯や目的は説明されない。「胸に刻み込まれた黒猫」が出てくるが、その存在がなんなのかも、なぜ喋るのかも不明だ。主人公は何かに追われているようだということはわかるが、何に追われているのか、何故追われているのか、中身が無い鎖帷子がなぜ動くのか、最後に作動した罠はなんなのか、とにかく説明がない。
 そしてこれは個人の趣向の話になるが、私は「説明がない作品」が好きだ。『BLAME!』とかが、ものすごく好きなのだ。
 とはいえ、ただ説明をしなければいいというわけではない。説明がない分「描写」で説得力を持たせ、そして読者の想像力を掻きたてるような作りになっていて、初めて良い作品足り得るのだ。そう、この作品のように――。
 主人公の目的、追っ手正体、黒猫。正直に言って滅茶苦茶興味を惹かれるので、これらを知るために続きを読みたいと強く願う。ほんとに。


灰燼よりうまれた獣

 かっっっっけえ……!!!
 説明不要! とにかく格好いい。ロボものだ。そして、混じりっ気がない、純粋なロボだ。何か、プラスアルファの要素を足し算とかはしていない。「それ」だけで、まっすぐで、硬質だ。
 文章が格好いい。抜身の刀のように、POWERに満ち溢れている。これだけの文章力があると、小細工をせずにど真ん中のストレートを投げても、読者を貫くことができるのかと驚愕する。がつんと頭を殴られたかのように、読んでてくらくらするのだ。
 ラストも良い。出会った少年は、かつての自分。主人公も最初は理不尽に襲われ、何かを守るために戦っていたのだと理解できる。では、今は――?


煉獄ホテルに死客あり!

 まず、わたしの仕事から説明せねばなるまい。
 必要なのは、何をおいてもまず、屍体だ。
   (伊藤計劃/円城塔『屍者の帝国』より)

 わー! ネクロパンク(※2)! ネクロパンクじゃないですか!!!
 私ネクロパンクが大好なんですよ知ってました?
 生ける屍達が闊歩する街。そこで行われてる祭りの中で逃亡するふたり。逃げている最中の街中の描写が素晴らしいですね……。生と死の境があいまいになったゆえの日常、そういったものの切り取りが非常に巧み。
 惚れた娼婦を拉致して殺し屋に追われる、逃亡劇で、展開も非常にスピーディ。ゾンビィキャットの他にも多数いる死客たちが、どのようにこの独特の世界で大暴れするのか、気になりますね~……。いやぁ、続きが読みたい……。ヨマセテ……。

(※2)……タグ付けを見たらジャンル名は『ハロウィンパンク』でした。なるほどなー。


千本桜・オブ・ザ・デッド

 九郎判官義経は――ゾンビだったんだよ!というオブザデッド物(オブザデッド物ってなに?)。
 歴史上の人物を主題にした作品は、やっぱりその人物をどう解釈するか、どう味付けをするかというのが非常に重要になるし、人気の人物なんかはもうやり尽くされている感もある。(織田信長が女だったりメカだったりタイムスリップしたり異世界に転移していたりetc...。)
 そこに来ると源義経というのは、知名度の割にはまだそんなに手を付けられていないので(個人の感想です)、彼とゾンビものを組み合わせたのはう~ん妙手! とうなってしまった。
 アイデアの奇抜さばかりに目が行ってしまうが、歴史モノの古風な文体とかも凄い戦記物の雰囲気をかもしだしていて、それでいて読みづらくなく、凄いと思う。なあ、与一?
 史実通りにいけば義経は敗れるのだが、この義経は、結構一癖もありそうな性格をしているため、ゾンビ物として最後は兄に討たれるのか、はたまた弁慶が斬るのか……あるいは、ゾンビの生命力により生き延び、チンギス・ハーンとしてモンゴルにわたるのか……。
 あ、あとこの設定で勧進帳は見たいわ! この主従関係で勧進帳を見せて頂戴!


『垂乳根(タラ・チネ)』

 一本の大銀杏、それを切り倒さんとする行政に立ち向かった、ひとりの男の物語――。
 というと、なんか格好いいんですけど、全体的に独特なテンポ感がある、妙に癖になる奇妙な作品なんですよね。
 仰々しく武士の格好をする岩田とか、微妙にかみ合わない会話とか、頭の中で映像再現される際は、なんか『TRICK』とか、三谷幸喜作品、あるいは北野映画みたいな空気感なんですよ(『ソナチネ』にタイトルが似てるからでは?)。

 そしてラストシーン、満を辞してドンキの店長参戦!
 ……なんで!?
 どちらかに加勢をすることが前提なのもツッコミどころだし、「無論、客だ」って言うほど無論か!? 屋上から眺めてないで仕事してくださいよ!
 第三勢力の介入により、物語はさらにカオスを極めることが予想される――。
 


蜘蛛の巣のドグマ

 『ザ・ボーイズ』などに代表される、ヒーロー物へのアンチテーゼ作品。そして、復讐RACHE――。
 この手のアンチテーゼは最近流行の兆しを見せているが、息子を失った母の復讐譚――そしておそらくヒーロー側の代表である男を夫に持っているというのが、わりと他に例を見ない設定だと思う。無関係な第三者ではなく、かつては愛し合っていた者というのが深いドラマを産んでいる。最初の復讐対象が、夫の浮気相手のイエローだというのも、男女のドロドロとした情念を感じさせて良い。
 一点、読んでいて「おっ」と思ったのが、このヒーローたちに悪事を働いている様子が見られないということだ。浮気はクソだけど。
 アンチヒーローものは、割とヒーローたちを下衆に描くことが定番で、無辜の民を殺したり、レイプしたり、とにかくヒーローとはいいつつヴィランだろそれはって感じにするのが流行っている。しかし、このヒーロー(たぶんゴッドレンジャー?)は、おそらく一般人の居る施設ごと吹き飛ばすという無慈悲な行為は行っているものの、その是非については巻き込まれた側の視点のみでしか描かれていない。
 その選択が、どういった経緯によって行われたのか――たとえば、一般人ごと巻き込まなければもっと大きな被害が出たのか――などと言ったことはまだ言及されていないのだ。これが上手いなと思った。
 復讐譚は、正義とセットにされることが多い。復讐対象を更生の余地のない悪党にすれば、主人公の復讐に正統性が産まれる。そうすれば復讐を完遂したときにスカッと爽やかに終われるのだ。
 それが悪いというわけではない。ただ、そういった正統性に担保されない、個人的な感情からの復讐譚も、別の味わいが産まれて良いのではないだろうか。仮に、施設を爆破しなかったことで、もっと多くの被害が出たとしても――それで、息子の命を奪われたのならばたまったものではない。相手が正義だろうと関係ない、やりたいから、やる。純粋な復讐。

 ――って思ったけど滅茶苦茶暗くて救いようのない話になりそうだな!
 800字制限があるから描けなかっただけで、ゴッドレンジャーが救いようのない悪党の可能性もあるし! 少なくとも浮気をしてるのは事実だしな!




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ワシの書いた小説に似とるなぁ……
これワシの小説じゃないか?

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出典:藤本タツキ「チェンソーマン」



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